アンドラーシュ・シフ 〝この時この場で〟味わう作品の妙味……23年9月

作品に関するトークを交えつつ進行したシフのリサイタル=写真はミューザ川崎公演 (C) Yuki Tsunesumi
作品に関するトークを交えつつ進行したシフのリサイタル=写真はミューザ川崎公演 (C) Yuki Tsunesumi

今秋は久々に海外オーケストラ来日ラッシュの様相を呈している。そこで今月は9月のステージからピカイチを、11月に開催予定の公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただきました。

先月のピカイチ

◆◆9月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈京都市交響楽団 東京公演〉

9月24日(日)サントリーホール

沖澤のどか(指揮)

ベートーヴェン:交響曲第4番/コネソン:管弦楽のための「コスミック・トリロジー」(日本初演)

サントリーホールで行われた沖澤の常任指揮者就任披露公演 (C)京都市交響楽団
サントリーホールで行われた沖澤の常任指揮者就任披露公演 (C)京都市交響楽団

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〈藤村実穂子 リサイタル〉

9月27日(水)東京文化会館小ホール

藤村実穂子(メゾソプラノ)/ヴォルフラム・リーガー(ピアノ)

モーツァルト:「すみれ」他4曲/マーラー:「さすらう若人の歌」/ツェムリンスキー:「メーテルリンクの詩による6つの歌」/細川俊夫:「2つの日本の子守唄」

 

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~沖澤&京響の日本初演、小澤征爾に匹敵~

イチオシは、京都市響の常任指揮者に就任した沖澤のどかの並々ならぬ才能が示された演奏会。フランスの現代作曲家コネソンの大曲をさっそうと鮮やかに日本初演した。若き指揮者の快挙として、61年前にメシアンの「トゥーランガリラ交響曲」を日本初演した小澤征爾のそれに匹敵するだろう。いっぽう藤村実穂子は円熟の境地、歌詞の内容に応じた歌唱の表現力の多彩さは卓越していた。「さすらう若人の歌」での沈潜した表情は他に例を見ない。

来月のイチオシ

◆◆11月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

11月12日(日)サントリーホール 

トゥガン・ソヒエフ(指揮)

R・シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」/ブラームス:交響曲第1番

ソヒエフが率いて2年振りに来日するウィーン・フィル (C)Patrice Nin
ソヒエフが率いて2年振りに来日するウィーン・フィル (C)Patrice Nin

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〈新国立劇場 ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」新制作〉

11月15日(水)、18日(土)、21日(火)、23日(木・祝)、26日(日)新国立劇場

大野和士(指揮)/ピエール・オーディ(演出)/ロベルト・フロンターリ(シモン・ボッカネグラ)/リッカルド・ザネッラート(ヤコポ・フィエスコ)/イリーナ・ルング(アメーリア)他/東京フィルハーモニー交響楽団

ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」

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~ソヒエフ&ウィーン・フィル 両者での初来日に注目~

11月は目が回るほどの欧州名門楽団の来日ラッシュだが、その中では特にウィーン・フィルの、日本公演では初めてになるソヒエフとのコンビに興味が湧くのでイチオシとした(10~19日、全7回)。その意味ではペトレンコとベルリン・フィルのコンビの日本初公演も注目されるのだが、外来オケばかりでは非愛国的(?)だろうから、大野和士が指揮する新国立劇場の「シモン・ボッカネグラ」を推す。ピエール・オーディの演出が面白そう。

先月のピカイチ

◆◆9月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈アンドラーシュ・シフ ピアノ・リサイタル〉

9月29日(金)東京オペラシティ コンサートホール

J・S・バッハ:カプリッチョ「最愛の兄の旅立ちに寄せて」/モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17(16)番変ロ長調/ハイドン:アンダンテと変奏曲へ短調/ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番、他

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〈庄司紗矢香 「フランスの風」〉

9月25日(月)サントリーホール 他

庄司紗矢香(ヴァイオリン)/モディリアーニ弦楽四重奏団/ベンジャミン・グローヴナー(ピアノ)

武満徹:妖精の距離/ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ/ラヴェル:弦楽四重奏曲/ショーソン:ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲

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~世界的名手ならではのすごみを実感!~

一部の若手ピアニストが異様な人気を集める中で、大御所シフは格の違いをまざまざと見せつけた。音と音楽にコクや奥行きがあって、受ける感銘度が段違いに高い。前半のハイドン2曲も素晴らしかったが、後半のベートーヴェンの2つのソナタ(第21番「ワルトシュタイン」と第30番)は、曲の本質を再認識させる名演。特に後者の絶妙な出だしには感嘆を禁じ得なかった。イチオシで挙げた庄司も自在の表現で曲の妙味を明示した。

来月のイチオシ

◆◆11月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

キリル・ペトレンコ(指揮)

プログラムA:11月21日(火)ミューザ川崎シンフォニーホール/24日(金)、26日(日)サントリーホール、他
モーツァルト:交響曲第29番/ベルク:オーケストラのための3つの小品/ブラームス:交響曲第4番

プログラムB:11月20日(月)、23日(木・祝)、25日(土)サントリーホール、他
レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ/R・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

初めてペトレンコが率いるベルリン・フィル日本公演 (C)Chris Christodoulou
初めてペトレンコが率いるベルリン・フィル日本公演 (C)Chris Christodoulou

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〈東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第365回定期演奏会〉

11月30日(木)東京オペラシティ コンサートホール

高関健(指揮)/木下美穂子(トスカ)/小原啓楼(カヴァラドッシ)/上江隼人(スカルピア)/東京シティ・フィル・コーア、江東少年少女合唱団、他

プッチーニ:歌劇「トスカ」(演奏会形式)

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~著名オケの来日ラッシュの中、真打ちが登場!~

海外一流オーケストラの驚異的な来日ラッシュを迎える11月だが、ここは素直に、新シェフとのコンビ初登場がかなった世界最高峰楽団が披露するパフォーマンスに期待。外来組では珍しいレーガー、ベルクの実演が楽しみだし、「英雄の生涯」の超絶的な機能美もぜひ生体験したい。他にも注目公演が多くて迷うが、次点はあえて高関&東京シティ・フィルの「トスカ」を。上昇&好調コンビがこの劇的なオペラをどう聴かせるか?大注目。

先月のピカイチ

◆◆9月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈アンドラーシュ・シフ ピアノ・リサイタル〉

9月29日(金)東京オペラシティ コンサートホール

J・S・バッハ:カプリッチョ「最愛の兄の旅立ちに寄せて」/モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17(16)番変ロ長調/ハイドン:アンダンテと変奏曲へ短調/ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番、他

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〈東京二期会オペラ ヴェルディ「ドン・カルロ」新制作〉

9月30日(土)よこすか芸術劇場

レオナルド・シーニ(指揮)/ロッテ・デ・ベア(演出)/城 宏憲(ドン・カルロ)/妻屋秀和(フィリッポⅡ世)/清水勇磨(ロドリーゴ)/大塚博章(宗教裁判長)/木下美穂子(エリザベッタ)他/二期会合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団

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~天啓としか言いようのない至上の音楽~

シフのリサイタルは午後7時に始まり10時10分過ぎに終わったが、「長い」とは全く感じず「もっと聴いていたい」と思った。J・S・バッハに始まりモーツァルト、ハイドン、ベートーヴェンを経てアンコールでバッハに帰す。オペラシティ開場時に自ら選定したベーゼンドルファーから極めて自然な音を多彩に引き出し、天啓としか言いようのない至上の音楽を奏でた。二期会「ドン・カルロ」は無駄のない演出、指揮を得て城宏憲、清水勇磨、加藤のぞみら比較的若い世代の歌手が極上のアンサンブルを実現した。

来月のイチオシ

◆◆11月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

11月20日(月)サントリーホール

キリル・ペトレンコ(指揮)

レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ/R・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」 ※プログラムB

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〈ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

11月19日(日)サントリーホール

トゥガン・ソヒエフ(指揮)

R・シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」/ドヴォルザーク:交響曲第8番

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~宿命のベルリン・フィル、ウィーン・フィル対決~

ベルリン・フィルが日本を訪れるのは4年ぶり、現シェフのペトレンコとの組み合わせでは初めてだ。特にプログラムBは今年8月末、本拠地でのシーズン開幕公演と全く同じなので彼らの「今」を確かめるのに最適の機会だろう。ウィーン・フィルは日本のみ出演予定のヴェルザー=メストが降板した結果、アジア・ツアーすべてがソヒエフに委ねられ、プロコフィエフやドヴォルザークなどをプログラミングした指揮者自身の演奏で聴けることになった。宿命のウィーンvsベルリンの対決が日本で実現するのも4年ぶりだ。

先月のピカイチ

◆◆9月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈NHK交響楽団 第1990回定期公演Cプログラム〉

9月15日(金)NHKホール

ファビオ・ルイージ(指揮)

ワーグナー(デ・フリーヘル編):楽劇「ニーベルングの指環」オーケストラル・アドベンチャー

ルイージがオペラ指揮者としての手腕を発揮したN響Cプログラム公演 写真提供:NHK交響楽団
ルイージがオペラ指揮者としての手腕を発揮したN響Cプログラム公演 写真提供:NHK交響楽団

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〈ドイツ・グラモフォン創立125周年スペシャル・ガラ・コンサート〉

9月5日(火)サントリーホール

ジョン・ウィリアムズ、ステファン・ドゥネーヴ(指揮)/サイトウ・キネン・オーケストラ

ジョン・ウィリアムズ:映画「E.T.」より、「ハリー・ポッター」より、「スター・ウォーズ」より、他

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~ワーグナーの神髄を抜粋版と映画音楽から再認識~

ワーグナーの長大作を1時間強にまとめたフリーヘル編の「リング」は、ファビオ・ルイージのオペラ指揮者として深い見識と経験が示された。雄弁に歌いつながれるライトモチーフによって、ブリュンヒルデの自己犠牲に至るまでの劇的展開に深い充足感を得た。奇しくも次点にあげたJ・ウィリアムズがワーグナーの継承者の1人であることを、この抜粋版を聴きながら改めて思う。大作曲家が指揮したサイトウ・キネンの音はまさに圧巻。

来月のイチオシ

◆◆11月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

キリル・ペトレンコ(指揮)

11月20日(月)、23日(木・祝)、25日(土)サントリーホール、他

レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ/R・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」 ※プログラムB

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〈イゴール・レヴィット ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・サイクル・イン・ジャパンⅢ&Ⅳ〉

ベートーヴェン・サイクルⅢ:11月24日(金)紀尾井ホール
ベートーヴェン:ソナタ第17番「テンペスト」、第8番「悲愴」、第14番「月光」他

ベートーヴェン・サイクルⅣ:25日(土)紀尾井ホール
同:第30番、第31番、第32番

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~ペトレンコ×ベルリン・フィル待望の初来日~

2019年ベルリン・フィルの首席指揮者・芸術監督に就任したペトレンコによる同団初来日公演が実現する。バイロイト音楽祭でのリング(13年、15年)、バイエルン州立歌劇場来日公演(17年)などで唯一無二の演奏を聴かせてくれたペトレンコが首席指揮者としてベルリン・フィルをどのようにリードするのか注目したい。イゴール・レヴィットは昨年から続くシリーズの完結編、人気曲から最後の3つのソナタまで聴き逃せない。

先月のピカイチ

◆◆9月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈東京交響楽団 第714回定期演奏会〉

9月23日(土・祝)サントリーホール

ロレンツォ・ヴィオッティ(指揮)

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」/R・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

2014年の客演以来、度々東響の指揮台に立つヴィオッティ (C)N.Ikegami / TSO
2014年の客演以来、度々東響の指揮台に立つヴィオッティ (C)N.Ikegami / TSO

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〈NHK交響楽団 第1990回定期公演Cプログラム〉

9月15日(金)NHKホール

ファビオ・ルイージ(指揮)

ワーグナー(デ・フリーヘル編):楽劇「ニーベルングの指環」オーケストラル・アドベンチャー

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~東響定期 新鋭ヴィオッティの非凡な才能に感嘆~

フランス出身の指揮者ヴィオッティは今年33歳。東響との「英雄プロ」における個性あふれる解釈は彼の非凡な才能を示すものであった。定型のスタイルにこだわらない彼の音楽作りは流麗かつ華やかで、両作品の別から魅力を存分に引き出してみせた。一方、ルイージ&N響定期は当初推薦したR・シュトラウス・プロも良かったが、N響の底力が発揮された、という面ではワーグナー・プロの方により心が動かされた。詳細はアンコール記事をご参照ください。

来月のイチオシ

◆◆11月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

キリル・ペトレンコ(指揮)

プログラムA:11月21日(火)ミューザ川崎シンフォニーホール/24日(金)、26日(日)サントリーホール、他
モーツァルト:交響曲第29番/ベルク:オーケストラのための3つの小品/ブラームス:交響曲第4番

プログラムB:11月20日(月)、23日(木・祝)、25日(土)サントリーホール、他
レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ/R・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

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〈ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

トェガン・ソヒエフ(指揮)/ラン・ラン(14、15日 ピアノ)

11月12日(日)サントリーホール
R・シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」/ブラームス:交響曲第1番

14日(火)サントリーホール
サン・サーンス:ピアノ協奏曲第2番/プロコフィエフ:交響曲第5番

15日(水)横浜みなとみらいホール
サン・サーンス:ピアノ協奏曲第2番/ドヴォルザーク:交響曲第8番

18日(土)サントリーホール
ベートーヴェン:交響曲第4番/ブラームス:交響曲第1番

19日(日)サントリーホール
R・シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」/ドヴォルザーク:交響曲第8番

 

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~激突、オーケストラ界の両横綱~

世界のオーケストラ界の両横綱ともいえるベルリン・フィル、ウィーン・フィルの日本公演をイチオシ・次点とした。ペトレンコがベルリン・フィルの首席指揮者に就任(19年)してから初の来日。このスーパー軍団がどう変わったのか生の演奏で確かめてみたい。一方、ウェルザー=メストの病気降板で急きょ日本での共演が実現したソヒエフとウィーン・フィル。こちらもどんな〝化学反応〟を示すのか、興味深い。

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