マグリットの絵がヒントとなった独創的なプログラムで、一段と成熟をとげた驚異のピアニズムを存分に堪能
クラシック音楽の世界でもアーティストが特定のテーマやコンセプトを掲げて選曲し、コンサートやアルバムを作るケースは珍しくない。ブルース・リウの今回のリサイタルも新アルバム「ルナリス(月)」と連動した選曲となっており、〝夜、想像力、超越〟のイメージを喚起させる内容。コンセプト自体はシュールレアリスムの画家ルネ・マグリットの作品を観た際に思いついたという。実際、ブルース・リウの独創的なプログラムは聴き手の想像力を大きく刺激するものであることを実感した。データを参照していただければ分かりやすいが、ベートーヴェンのソナタを2番目に置くなど、前半後半とで曲の配列はほぼシンメトリックになっている。
会場の照明は落とされ、ピアノ(ファツィオリ)周辺だけにライトが柔らかく当たる。
リゲティ(今年が没後20年)の「ファンファーレ」はリウの比較的新しいレパートリー。せりあがる音階とシンコペーションの音型が左右の手で何度も交代しながら進行するのが心地よい。ベートーヴェン「月光ソナタ」は静謐に開始されながらも終楽章での集中力に息を飲む。ショパンの夜想曲2作での明暗の対比、そしてラヴェル「道化師の朝の歌」では目の覚めるような技巧と彩りの使い分けが見事で最初のクライマックスを形づくった。
後半のドビュッシー「夢」ではシンプルな旋律線をあっさりと歌わせて成功。「ワルトシュタイン」も抑え気味の音量のなかで、直進的な律動感を表出。精密さと力感とが同居した第3楽章はとくに見事。ベートーヴェンが他の小品と違和感なく溶け込んでいたのにも驚かされる。
リウにしては珍しいスペインものが聴けたのも収穫。フランス民謡が官能的に変容を遂げたモンポウは柔らかなタッチと巧妙なペダリングが冴え、対照的にアルベニスでは硬質で俊敏なタッチを駆使しながら色鮮やかなタペストリーを紡ぎあげていた。
プログラム前半のラヴェルに対応するように弾かれたリスト「スペイン狂詩曲」が予想通りの快演だった。冒頭の重量感や分厚い和音の驚異的なスタッカートなど技巧面もさることながら、終盤にかけての迫力は凄まじく、曲の最後に回帰する「フォリア」が〝熱狂〟を意味するスペインの舞曲であることを再確認した。
アンコールにショパン「エオリアンハープ」とシューベルト「楽興の時」第3番を披露。2021年のショパンコンクール優勝者の新境地と独創性が光るリサイタルだった。
(城間 勉)
公演データ
ブルース・リウ ピアノ・リサイタル
6月8日(月)19:00すみだトリフォニーホール
プログラム
リゲティ:ピアノ練習曲集第1巻 第4番「ファンファーレ」
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調 Op.27-2 「月光」
ショパン:ノクターン第7番 嬰ハ短調 Op.27-1
ショパン:ノクターン第8番 変ニ長調 Op.27-2
ラヴェル:道化師の朝の歌 (「鏡」より第4曲)
ドビュッシー:夢
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第21番 ハ長調 Op.53 「ワルトシュタイン」
モンポウ:「月の光」によるグロッサ
アルベニス:イベリア第1巻 第2曲「港(エル・プエルト)」
リスト:スペイン狂詩曲
アンコール
ショパン:練習曲Op.25-1「エオリアンハープ」
シューベルト:「楽興の時」第3番
しろま・つとむ
音楽大学で音楽学を学ぶ。卒業後はクラシック専門音楽雑誌とクラシック情報誌の編集業務に携わり、2022年からフリーランスとして活動。とくに好きなジャンルは協奏曲、ピアノ曲、オペラなど(もちろんそれ以外のジャンルも聴きます)。B級グルメ探訪を趣味としている。イヌ科の動物を愛する。










