冴えわたるドラマトゥルギー、N響のフレンチ・サウンドを呼び覚ます
フランスの指揮者ステファヌ・ドゥネーヴは、いま54歳の実力派。シュトゥットガルト放送響やセントルイス響など、欧米の有力オケで着々とキャリアを積んできた。NHK交響楽団とも2015年以来、客演を重ね、今回もお国物を並べた得意のプログラムで臨んだ。
そのコンサート・ドラマトゥルギーがふるっている。前半は「夏」、後半は「海」をテーマに、フランス音楽の名作を並べた。またゲストのコンサートマスターに、パリ国立高等音楽院でジャン=ジャック・カントロフらに師事し、今は同院で後進を指導するジュリアン・ズルマンを招いたこともあって、N響にフランス風のテイストが強まったのが興味深い。
幕開けはオネゲルの交響詩「夏の牧歌」。アルプス地方の早朝に広がる清々しい光景を小編成のアンサンブルで描き、オネゲル初期の代表作となった小品だ。ドゥネーヴは、明晰な輪郭を保つ弦楽器群と、ふっくら柔らかい管楽器群をしなやかに対比させて、しっとり潤いある響きを引き出した。
そしてベルリオーズの歌曲集「夏の夜」作品7が続く。メゾソプラノの独唱は、やはりフランスの名花、ガエル・アルケーズ。現地出身ならではの滑らかでニュアンス豊かなフランス語の発音や歌唱法は何物にも代えがたい。作曲者が選んだ題材(友人の詩人テオフィル・ゴーティエの詩集「死の喜劇」)を反映して、音楽はどこか翳りや哀愁を帯びる。アルケーズは制御の行き届いた歌い口で、テキストの内実をしっかり掘り下げ、こはく色の艶や光沢を思わせる官能的な声質が作品にふさわしい。第3曲「入り江のほとり」での劇的な高まりや、第5曲「墓地で」のしめやかな雰囲気など、情感の起伏も巧みだ。
歌手の呼吸を敏感に感じ取って引き立て、オーケストラに徹底した抑制を利かせたドゥネーヴのリードも洗練の極み。N響の精緻なアンサンブルを駆使して、馥郁(ふくいく)たる香気や背後でうごめくベルリオーズらしい脈動をすくい取り、デリケートな風情が絶品だった。
後半の管弦楽曲では、オーケストラの機能性を生かしたシンフォニックな作りが前面に出た。響きの重心が高いフランスのオーケストラのようにN響のサウンドが一変し、エッジの効いた鮮明な色彩感に覆われた。イベール「寄港地」で、ドゥネーヴはエキゾチックな趣よりも都会的なメリハリを強調し、モダンな感覚を示した。
締めくくりのドビュッシー交響詩「海」では、オーケストラの質感にきらめくような硬質の輝きが増した。ドゥネーヴは無理のないテンポ設定で自然な抑揚を表出し、第2曲「波の戯れ」では木管の克明な表情が効果的。第3曲「風と波の対話」では、ダイナミックな力感が華やかな音の奔流を生み出した。
(深瀬満)
公演データ
NHK交響楽団 第2066回 定期公演Bプログラム
6月4日(木)19:00サントリーホール 大ホール
指揮:ステファヌ・ドゥネーヴ
メゾソプラノ:ガエル・アルケーズ
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:ジュリアン・ズルマン
プログラム
オネゲル:交響詩「夏の牧歌」
ベルリオーズ:歌曲集「夏の夜」Op.7
イベール:寄港地
ドビュッシー:交響詩「海」
他日公演
6月5日(金)19:00サントリーホール 大ホール
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。










