ポペルカの歌心が引き出す、人々の語らいを思わせるオーケストラの響き
5月下旬から6月にかけて、ウィーン交響楽団は日本と韓国でツアーを行なっている。
このツアーを率いたのは、昨シーズンから同楽団の首席指揮者を務めるペトル・ポペルカ。2019年までコントラバス奏者として活躍し、その後、指揮者として活動を始めた。現在はプラハ放送交響楽団の芸術監督も兼務するなど、いま最も注目されるチェコの若手指揮者のひとりだ。
プログラム冒頭は、ポペルカの母国の作曲家ドヴォルザークの「序曲〝謝肉祭〟」。表情に富んだメロディの表現が心に残る。オーケストラのサウンドは、人々の屈託のないにぎやかな語らいを思わせる。とりわけ、アンダンテにおける木管楽器が生み出すノスタルジックな響きが印象的であった。
続いて、ソリストは角野隼斗を迎えてラヴェルのピアノ協奏曲。2023年からニューヨークを拠点にワールドワイドな活動を展開。曲の冒頭、角野の指から紡ぎ出される煌(きら)めくような高音や艶やかなグリッサンドに、トランペットがクリアーな響きで応える。
ポペルカは、この作品においても歌心を披瀝(れき)。メロディやモティーフに色彩豊かな息吹をもたらし、その一つひとつを美しくまとめ上げ、ピアノや各パートに流れるような自然な対話を生み出していく。角野の弾むようなビート感は、この作品の持つジャズ的なエッセンスを引き立てる。第2楽章におけるピアノが紡ぎ出すメロディは、内面からあふれ出るぬくもりと優しさに満ちていた。
ソリスト・アンコールでは、角野のトークをはさみ、コントラバス、パーカッション、トランペットとともに即興演奏を交えたガーシュウィン「パリのアメリカ人」からの抜粋が披露された。
後半は、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」。ポペルカは、一つの大きな流れの中で、音楽をまとめ上げていく。丁寧に奏でられたその調べに、人の声を聴く思いがした。彼が描き出していたのは、普遍的な人間愛のように感じられる。メリハリの大きな演奏であったが、圧するような威厳感はない。作品から叙情的な側面を際立たせ、楽器を密に対話させ、弱奏の多彩な表現を追求していく。殊に、豊かな表情の木管楽器は、ロマンティシズムの香りに満ちる。
アンコールは2曲。ドヴォルザーク「スラブ舞曲」作品72-2における翳(かげ)りを帯びた味わい深い語り口は感動的であった。
(道下京子)
公演データ
ペトル・ポペルカ指揮 ウィーン交響楽団 2026年 東京公演1日目 ピアノ 角野隼斗
5月29日(金) 19:00サントリーホール
指揮:ペトル・ポペルカ
ピアノ:角野隼斗
管弦楽:ウィーン交響楽団
プログラム
ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」Op.92
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」 ハ短調 Op.67
ソリスト・アンコール
ガーシュウィン:「パリのアメリカ人」より抜粋
アンコール
ドヴォルザーク:スラブ舞曲 Op.72-2
J.シュトラウスⅡ:ポルカ「雷鳴と電光」
他日公演
5月30日(土) 14:00横浜みなとみらいホール(神奈川)
5月31日(日) 14:00ザ・シンフォニーホール(大阪)
6月1日(月) 17:00呉信用金庫ホール(広島)
6月2日(火) 19:00すみだトリフォニーホール(東京)
※各日のプログラム等の詳細は、各ホールの公式サイトをご参照ください。
みちした・きょうこ
桐朋学園大学音楽学部作曲理論学科卒業、埼玉大学大学院文化科学研究科修士課程修了。共著「ドイツ音楽の一断面――プフィッツナーとジャズの時代」など。「音楽の友」「ショパン」などの 音楽月刊誌や書籍、新聞、Web媒体、演奏会プログラムやCDの曲目解説など、ピアノのジャンルを中心に音楽経験を活かした執筆を行なっている。










