独奏陣の妙技を活かし、N響の美質を最大限に引き出す
トゥガン・ソヒエフが昨週に引き続きNHK交響楽団定期公演に登壇し、ストラヴィンスキーの組曲「プルチネッラ」とブラームスの交響曲第1番を指揮した。ブラームスの第1番は2023年のウィーン・フィルとの来日公演でも取り上げていた。

組曲「プルチネッラ」では、ソヒエフが、合奏協奏曲的に、ヴァイオリンの篠崎史紀、チェロの辻本玲、フルートの甲斐雅之、オーボエの𠮷村結実ら独奏陣の妙技を活かしながら、鮮やかにまとめあげる。弦楽器が14型(14,12、10、8、6)という、この作品では大きめの編成ながら、室内オーケストラのような緻密さ。そしてトゥッティでのボリューム感とキレの良さ。まさに21世紀のモダン・オーケストラによる擬古典作品の快演であった。
ブラームスの交響曲第1番は、16型であったが、力んだり、粗野になったりするところは皆無。隅々まで練り上げられ、コントロールされていた。第1楽章冒頭から音楽の流れが良く、楽器がブレンドされた良い響き。第2楽章もオーケストラが一つの有機体となり、楽器が美しく溶け合っている。終盤のヴァイオリン・ソロでもオーボエとホルンが良いバランス。第3楽章も温かみがある。第4楽章の第1主題はレガートで歌われた。ソヒエフは、2023年のウィーン・フィルとの演奏では、オーケストラの自発性に任せ、ここというところで音楽に起伏をつけていたが、今日の演奏では、より耽美的というか、美への傾倒を強め、オーケストラをコントロールし、N響の美質を最大限に引き出していた。

篠崎史紀は、今回のCプログラムがN響のコンサートマスター(現在は特別コンサートマスター)としての最後の定期公演出演となった。過去の演奏会で、アンサンブルが崩れかけた時に、彼が大きな身振りでリードし、オーケストラを立て直していた姿を思い出す。今日も、ストラヴィンスキーでもブラームスでも秀逸なソロを奏で、要所では見事なリーダーシップを示した。そして聴衆を大切にする姿勢。彼はまさにN響のリーダーであった。
(山田治生)

※取材は1月24日(金)の公演
公演データ
NHK交響楽団 第2029回定期公演Cプログラム
1月24日(金)19:00、25日(土)14:00NHKホール
指揮:トゥガン・ソヒエフ
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:篠崎史紀
プログラム
ストラヴィンスキー:組曲「プルチネッラ」
ブラームス:交響曲 第1番ハ短調 Op.68

やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。