佐渡裕指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉 #40

ブラームスの傑作2曲、気迫のタクトが生んだ圧巻の一体感

ウィーンで活躍した作曲家に焦点をあてる「ウィーン・ライン」は、佐渡裕が音楽監督を務める新日本フィルで、レパートリーの中心に据える重要なテーマ。定期演奏会ではマーラーやブルックナーの大作に次々と取り組むいっぽう、幅広い人気を集めるマチネーの「すみだクラシックへの扉」シリーズでは今回、ブラームスの傑作2曲を並べてきた。

交響曲第1番ハ短調にヴァイオリン協奏曲ニ長調と、まさにど真ん中の直球勝負。ソリストには人気の若手、三浦文彰を招き、万全を期した。この2作品で全国10都市へのツアーを行い(水戸公演は台風接近に伴い中止)、すみだトリフォニーホールでの2公演を経て、 駒ヶ根市(長野県)公演が全日程の締めくくりとなる。平日(金曜日)の午後というのに、会場は満席の聴衆で埋まった。

佐渡裕が指揮台に立ち、ブラームスの傑作2曲を披露した ©K.Miura
佐渡裕が指揮台に立ち、ブラームスの傑作2曲を披露した ©K.Miura

このところ指揮活動にも手を染めた三浦は、往年の巨匠を思わせる濃厚な音楽作りに磨きが掛かってきた。愛器グァルネリ・デル・ジェス「カストン」をすっかり手の内に収め、こってりした妖艶な音色が、みずからの音楽語法と合致してきた余裕をみせる。

したがってブラームスの傑作に対しても余分な気負いはなく、第1楽章の導入から慌てず悠然と弾き始める。旋律をかみしめるように、たっぷりとしたフレージングで歌い込み、決して先を急がない。ポルタメントが頻出し、時にはうなるような凄みを利かせて、恰幅(かっぷく)よく展開していく。見せ場のカデンツァに至っても意図的なハッタリは皆無で、あくまで大人の風格を崩さない。佐渡が「すでに巨匠の領域」と舌を巻いただけのことはある。
12型の小ぶりな編成ながら佐渡のバックは雄大で、豊かな量感にあふれる。第3楽章では異様な熱気と迫力を発散させて、ホットな熱狂のうちに結びを迎えた。

ブラームスのヴァイオリン協奏曲でソリストを務めた三浦文彰は、時にうなるような凄みを利かせ、恰幅よく展開した ©K.Miura
ブラームスのヴァイオリン協奏曲でソリストを務めた三浦文彰は、時にうなるような凄みを利かせ、恰幅よく展開した ©K.Miura

この燃焼度が高いテンションは、後半の交響曲第1番にそのまま持ち越された。第1楽章の序奏から並々ならぬ気迫がみなぎり、指揮者のうなり声が混じる。テンポは粘り、弦楽器の弓の圧力を高め、金管を強奏させることで、ゴリッと線が太いエネルギッシュなサウンドが噴出する。第2楽章の叙情や第3楽章冒頭の軽妙な楽想では、楽都ウィーン仕込みの優美なカンタービレを思わせる部分もあったが、全体としては佐渡らしい圧倒的な熱量が支配するソリッドなブラームスになった。

佐渡らしい圧倒的な熱量が支配するソリッドなブラームスだった ©K.Miura
佐渡らしい圧倒的な熱量が支配するソリッドなブラームスだった ©K.Miura

新日本フィルもアルミンクやハーディングが楽団を率いた時代には、透明度の高いヴィヴィッドな音色を聴かせたものだったが、治世が変わればキャラクターも上書きされる。佐渡のカラーが浸透して、確実に一体感が増したと思わせる2曲だった。
(深瀬 満)

公演データ

新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉 #40

6月5日(金)14:00すみだトリフォニーホール

指揮:佐渡裕
ヴァイオリン:三浦文彰
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔文洙

プログラム
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調Op.77
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 Op.68

アンコール
ブラームス:ワルツOp.39-15(弦楽合奏版)

これからの他日公演
6月6日(土)14:00すみだトリフォニーホール(東京)
6月7日(日)14:00駒ヶ根市文化会館(長野)

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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