巨匠的な表現に現代から見たブラームスの視点を盛り込んだ画期的な演奏
今回の指揮者ミシェル・タバシュニクは、スイス出身で、マルケヴィッチやピエール・ブーレーズなど作曲家・指揮者として名を成した音楽家のアシスタントを務め、作曲家としても数々の作品を発表している。
1980年代にブーレーズらと録音したクセナキス作品集での画期的な指揮で頭角を現し、17歳上のブーレーズの後継と目されたが、1970年代にパリで指揮したブラームスの交響曲の演奏は、「軽い」と酷評されもした。
その後は経験を積み名門楽団にも客演、20世紀音楽をはじめ、ベートーヴェンやブラームスなどのドイツ音楽、加えてドヴォルザークやチャイコフスキーなど広範なレパートリーを持つ巨匠に成長した。
大阪フィルにも客演し、今回のブラームス交響曲第3番とドビュッシー「海」は、前回来日時にすでに決まっており、それに20世紀を代表する作曲家ストラヴィンスキーの「プルチネルラ」組曲が加えられた。
ブラームスでは、出だしのモットーと呼ばれる動機から、いまや聴かれることが少なくなった〝巨匠的〟なゆったりとしたテンポで始まった。ただ、その演奏には、これまで筆者自身が思い描いていた〝巨匠的〟なスケールの大きさに加えて、短い動機や旋律を楽器の音色や音量の変化、巧みな構成の変化などによって多様な表現で進めていくこの作品の真髄を、タバシュニクはゆったりとしたテンポで明らかにしていく。後にシェーンベルクが指摘する「発展的変奏法」「浮遊和音」、加えて「音色旋律」の萌芽も聴きとれ、現代から見たブラームスの視点を盛り込む画期的な演奏となった。
加えて、終楽章ではリハーサル時に「強度」を大阪フィルに求めたといわれ、それまでの楽章とは一転、スピーディで熱狂的な演奏を展開、さらに歴史的に多くの指揮者を悩ませてきたコーダも、今回の演奏を冒頭から体験した聴き手にとっては、自然に受け入れられる展開となった。
ストラヴィンスキーの「プルチネルラ」組曲でも、ペルゴレージ他の単純な旋律を小編成ながらも楽器の機能の極を駆使、立体的、色彩的に組み立てる作曲者の真骨頂を聴かせた。ここでは、多くのソロを大阪フィルの団員が見事に聴かせた。
そして「海」では、半世紀以上前にブーレーズらが「曖昧さ」を取り払って以降の演奏スタイルに打楽器群と管・弦楽器との対比や、ハープの独立領域確保などの新しい視点を盛り込みながらも「さすが」とうならせる「横綱相撲」を繰り広げ、聴衆はその演奏を楽しんだ。
今後は、一部が動画などで公開されているブラームスの交響曲第4番もいまの大阪フィルの演奏で聴きたいと思う。
(平末 広)
公演データ
大阪フィルハーモニー交響楽団 第598回定期演奏会
5月22日(金)19:00フェスティバルホール(大阪)
指揮:ミシェル・タバシュニク
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:須山暢大
プログラム
ブラームス:交響曲 第3番 へ長調 Op.90
ストラヴィンスキー:組曲「プルチネルラ」
ドビュッシー:交響詩「海」
他日公演
5月23日(土)15:00フェスティバルホール(大阪)
ひらすえ・ひろし
音楽ジャーナリスト。神戸市生まれ。東芝EMIのクラシック担当、産経新聞社文化部記者、「モーストリー・クラシック」副編集長を経て、現在、滋賀県立びわ湖ホール・広報部。EMI、フジサンケイグループを通じて、サイモン=ラトルに関わる。キリル・ぺトレンコの日本の媒体での最初のインタビューをしたことが、ささやかな自慢。










