ルイージの息の長い指揮にN響が強靭な歌謡性で即応、一体感のあるマーラー演奏を聴かせる
NHK交響楽団から今月、桂冠名誉指揮者の称号を2028年9月に与える、と発表があったファビオ・ルイージ。22年秋から首席指揮者を務めてきたコンビの深化を示す証しとして、マーラーの交響曲第5番は格好の題材になった。
マーラーは両者にとって重要なレパートリーのひとつ。23年12月には第2000回定期公演で、聴衆の投票で決まった交響曲第8番「千人の交響曲」を取り上げた。昨年5月にはオランダの「マーラー・フェスティバル2025」で同3、4番を披露し、本場でも評価された。この二つの「角笛」交響曲に続く作品が、まさしく第5番なのだ。
ルイージの持ち味であるイタリア人らしい歌心と、マーラーゆかりの地・ウィーンで身に付けた優美な感覚の融合は、ここでも本領を発揮。シャープな造形と引き締まった力感を伴って、死から生へ至る曲想を起伏ゆたかにまとめ上げた。
したがって、葬送行進曲の第1楽章はダイナミクスや表情の鮮烈な対比をはらみ、エスプレッシーヴォな振幅が大きい。続く第2楽章を含め、ソリッドで精緻な響きがエネルギッシュに現れた。テンポが遅くなる葬送行進曲の主要主題や第2楽章の第2主題は念入りに歌い込まれ、カンタービレの感覚が強い。第3楽章のスケルツォを成すレントラー舞曲風の主題群は良く弾み、ドルチェ(優美)な風情にあふれる。首席ホルン奏者、今井仁志の名技が華を添えた。クラリネットのベル・アップの効果も印象的。
後半の第3部に入ると、両者の一体感がいちだんと増した。第4楽章アダージェットでは弦セクションの威力が全開となり、目の詰んだテクスチュアで厚みあるうねりを織りなす。息の長い指揮に即応した強じんな歌謡性が胸に染みた。フィナーレでは、寄せては引く強大な波が明晰に体現された。ルイージの音楽語法がしっかり浸透した、クライマックスの緊密な演出力が筆舌に尽くしがたい。
今回の演奏では、舞台上の奏者をできるだけ近くに寄せた配置も奏功していた。一部楽団のような間延びした配置に比べ、アンサンブルの密度や精度にプラスの効果があるようだ。
当プログラムの前半、モーツァルトのクラリネット協奏曲はN響首席奏者、松本健司の独奏。ルイージの解釈はチャーミングでみずみずしく、爽やかな風が吹き抜けるよう。弦楽器に軽いヴィブラートを許し、流動感を保つスタイルは、現代のモダン楽器での規範的な行き方だろう。松本のソロもぬけが良く、癖のない音色で魅了した。
(深瀬満)
公演データ
NHK交響楽団 第2061回 定期公演 Bプログラム
4月16日(木)19:00サントリーホール 大ホール
指揮:ファビオ・ルイージ
クラリネット:松本健司
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:郷古 廉
プログラム
モーツァルト:クラリネット協奏曲 イ長調 K.622
マーラー:交響曲 第5番 嬰ハ短調
アンコール
モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581 ― 第2楽章から
クラリネット:松本健司
ヴァイオリン:郷古廉、森田昌弘
ヴィオラ:中村翔太郎
チェロ:藤森亮一
他日公演
4月17日(金)19:00サントリーホール 大ホール
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。










