【緊急レポート】外山雄三が指揮中に容態急変、車椅子で緊急退場

5月10日に92歳になったばかりの指揮者・作曲家の外山雄三が、同27日のパシフィックフィルハーモニア東京での演奏中に体調の急変に見舞われ、車椅子で袖へ引っ込むハプニングが起きた。オーケストラは指揮者なしで演奏を続け、曲の最後まで弾き切った。国内の指揮者で最長老格の思わぬアクシデントに、健康状態を心配する声があがっている。(深瀬 満)

 

5月27日午後に東京芸術劇場で開かれたパシフィックフィルハーモニア東京の第156回定期演奏会は「外山雄三 2023年唯一の東京公演」と銘打たれ、注目されていた。曲目はシューベルトの交響曲第5番と第9番(楽団表記による)「ザ・グレート」。巨匠の風格を高める外山の悠然たる解釈に、期待が高まっていた。

 

開演時刻になり客席が暗転すると、舞台に二宮光由楽団長・インテンダントが現れ、外山の体調急変に関する説明を始めた。「3日間のリハーサルと当日午前中のゲネプロまでは、つつがなく終えたが、昼の後になって体調が急に悪化した」と状況を解説。「交響曲第5番は指揮者なしで演奏するが、9番は本人が振ると言っている」として聴衆に理解を求めた。

 

第5番は第1ヴァイオリン8人の小編成。リハーサルで外山の解釈がみっちり仕込まれていたのだろう、コンサートマスター(執行恒宏)の冷静なリードの下、古典的な格調に満ちた流れの良いアンサンブルが展開された。演奏後はコンサートマスターらに、大きな拍手が湧き起こった。

 

休憩が終わっての後半、固唾(かたず)をのんで見守る聴衆の前に、外山は事務局員2人に支えられて登場。指揮台に上るのも難儀な様子だったが、すっと立ってタクトを振りだした。開始早々こそ快調で、張りのある音楽が会場を満たしたが、6分ほどたった提示部の終わりで、用意された椅子に座り込んだ。タクトも時に小さくなり、前かがみになると、演奏のテンポが落ちて生気がくもり、何度もハラハラさせられた。

 

それでも外山の執念と心意気は伝わり、風格豊かな解釈に胸を打たれた。第2楽章の民俗的な主題は、ピアノ三重奏曲第2番第2楽章の寂寥(せきりょう)感を引き写したかのようで、まるで彼岸をみるような孤高の世界を描き出した。終楽章の始まる前に、外山はヴァイオリン・セクションに一声かけて振り始めたが、3分ほどたったところで、異変に気づいた事務局員が2人、駆け寄って、大きなタオルで外山の胸元を拭いた。そのまま指揮台の脇に運ばれた車椅子に乗せられ、舞台袖に引っ込んだ。この間、第4楽章の演奏はコンマスの奮闘で止まらずに続行。残り10分ほどを指揮者なしで終えた。

 

演奏後のカーテンコールで外山は2回、車椅子のまま舞台に現れ、すまなそうな、やつれた表情を見せた。コンサートマスターや楽員と共に、惜しみない拍手が送られた。

 

過去に指揮台で倒れた名指揮者は、何人も名前があがる。外山は、演奏後にとりあえず姿をみせたが、公演翌日になっても楽団側からは公式な発表や説明がなかった。無理の利かない高齢でもあり、懸念が拡がっている。

公演データ

【パシフィックフィルハーモニア東京 第156回定期演奏会】

5月27日(土)14:00 東京芸術劇場コンサートホール

指揮:外山 雄三
管弦楽:パシフィックフィルハーモニア東京

シューベルト:交響曲第5番変ロ長調
シューベルト:交響曲第9番ハ長調「ザ・グレート」

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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