6年ぶりのツァグロゼク×読響、作品の真意に迫る力演…25年2月

録音も残る前回来日時のブルックナー7番に続き、5番で聴き手を唸らせたツァグロゼク&読響 (C)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
録音も残る前回来日時のブルックナー7番に続き、5番で聴き手を唸らせたツァグロゼク&読響 (C)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

今月は2月開催のステージからピカイチを、4月に開催予定の公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただく。かつては閑散期といわれた2月だが、内外のオーケストラ、オペラ、リサイタルと名演が目白押しであった。そうした中、各選者はどの公演をピカイチに挙げたのか、ご覧ください。

先月のピカイチ

◆◆2月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈大阪交響楽団 第277回定期演奏会 オペラ・演奏会形式シリーズ Vol.3「運命の力」〉

2月9日(日)ザ・シンフォニーホール

柴田真郁(指揮)/笛田博昭(ドン・アルヴァーロ)/並河寿美(レオノーラ)/青山貴(ドン・カルロ)/山下裕賀(プレツィオジッラ)、他/大阪交響楽団/大阪響コーラス

ヴェルディ:歌劇「運命の力」(演奏会形式)

大阪響がミュージックパートナーの柴田真郁と取り組む演奏会形式シリーズ、来年は池辺晋一郎の「耳なし芳一」を予定 提供:大阪交響楽団
大阪響がミュージックパートナーの柴田真郁と取り組む演奏会形式シリーズ、来年は池辺晋一郎の「耳なし芳一」を予定 提供:大阪交響楽団

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〈神奈川県立音楽堂 音楽堂室内オペラ・プロジェクト 第7弾「オルフェオ」〉

2月23日(日)神奈川県立音楽堂

濱田芳通(指揮)/中村敬一(演出)/坂下忠弘(オルフェオ)/酒井雄一(アポロ)/岡崎陽香(エウリディーチェ)/彌勒忠史(メッサジェーラ)他/アントネッロ(管弦楽・合唱)

モンテヴェルディ:歌劇「オルフェオ」新制作

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~テンポ運びが肝 柴田真郁&大阪響の「運命の力」~

これほど流れの良い、長さを感じさせない、引き締まった演奏の「運命の力」は珍しい。それゆえ旋律の美しさが更に映える。柴田真郁のテンポ運びの見事さには舌を巻いた。歌手陣も快唱の競演である。一方の「オルフェオ」も、これほど観終わってあたたかい気持ちに満たされたオペラ上演は稀である。濱田芳通とアントネッロの演奏を讃えよう。鈴木優人が指揮した「ドン・ジョヴァンニ」(23日)も同率次点で挙げたかったが……。

来月のイチオシ

◆◆4月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈広上淳一&日本フィル「オペラの旅」Vol.1〉

4月26日(土)、27日(日)サントリーホール

広上淳一(指揮)/高島勲(演出)/宮里直樹(リッカルド)/中村真理(アメーリア)/池内響(レナート)/盛田麻央(オスカル)/福原寿美枝(ウルリカ)他/日本フィルハーモニー交響楽団/東京音楽大学(合唱)

ヴェルディ:歌劇「仮面舞踏会」(セミ・ステージ形式)

広上(左/(C) Masaaki Tomitori)と日フィルが高島勲(右)の演出、セミ・ステージ形式でオペラ・シリーズを始動する
広上(左/(C) Masaaki Tomitori)と日フィルが高島勲(右)の演出、セミ・ステージ形式でオペラ・シリーズを始動する

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〈東京・春・音楽祭 リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ〉

4月11日(日)、12日(土)東京文化会館大ホール

ヴェルディ:歌劇「ナブッコ」序曲/同:歌劇「運命の力」序曲/レスピーギ:交響詩「ローマの松」他

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~広上&日フィル、待望のオペラ・シリーズ~

広上淳一のオペラが、宮崎国際音楽祭でだけでなく、やっと東京でも定期的に聴けることになった。その第1弾は「仮面舞踏会」。心理描写に富むオペラだから、巧く指揮してくれるだろう。占師ウルリカを歌う福原寿美枝の凄味ある声が聴けるのも楽しみだ。かたや大巨匠ムーティのイタリア・プロは説明の要もない極め付き。同音楽祭で彼が指揮したオペラ全曲は全て超弩(ど)級名演だったが、今回の管弦楽名曲集もさぞ熱血の快演となろう。

先月のピカイチ

◆◆2月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈読売日本交響楽団 第645回定期演奏会〉

2月7日(金)サントリーホール

ローター・ツァグロゼク(指揮)

ブルックナー:交響曲第5番

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〈都響スペシャル (2/11)〉

2月11日(火)東京文化会館大ホール

エリアフ・インバル(指揮)/グリゴリー・シュカルパ(バス)/エストニア国立男声合唱団

ラフマニノフ:交響詩「死の島」/ショスタコーヴィチ:交響曲第13番「バービイ・ヤール」

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~稀有(けう)の名演、ツァグロゼク&読響のブルックナー5番~

ツァグロゼク&読響のブルックナー5番は、贅肉のない引き締まったサウンドで、この曲の壮大さと細かな味わいを共に表出した稀有の名演。最もブルックナーらしい荘厳かつ質朴な交響曲が、こうした筋肉質の演奏で雄弁に表現されたのは新鮮な驚きだった。インバル&都響は、ユダヤ人の大量虐殺をテーマにした「バービイ・ヤール」を、あえてモダンなオーケストラ音楽として表出し、結果的に曲の持つ壮絶さや戦慄性を浮き彫りにした。

来月のイチオシ

◆◆4月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈東京・春・音楽祭 リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ〉

4月11日(日)、12日(土)東京文化会館大ホール

ヴェルディ:歌劇「ナブッコ」序曲/同:歌劇「運命の力」序曲/レスピーギ:交響詩「ローマの松」他

東京春祭に欠かせないリッカルド・ムーティ。関連するイタリア・オペラ・アカデミーは秋に開催を予定している (C)Todd Rosenberg Photography by courtesy of riccardomutimusic.com
東京春祭に欠かせないリッカルド・ムーティ。関連するイタリア・オペラ・アカデミーは秋に開催を予定している (C)Todd Rosenberg Photography by courtesy of riccardomutimusic.com

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〈神奈川フィルハーモニー管弦楽団 第404回定期演奏会〉

4月26日(土)横浜みなとみらいホール

沼尻竜典(指揮)/上森祥平(チェロ)

バツェヴィチ:弦楽オーケストラのための協奏曲/ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番/同:交響曲第12番「1917年」

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~巨匠ムーティによる珠玉のイタリア作品集~

ムーティが指揮する東京・春・音楽祭のコンサートは毎回が必聴!今回はオペラではないが、母国イタリアの管弦楽曲の名作がズラリと並んだプログラムも魅力十分だし、まとめての演奏が意外に少ない間奏曲等を、現役最大の巨匠の指揮で生体験できるこの機会を逃してはならない。沼尻&神奈川フィルのショスタコーヴィチの交響曲は、これまでの7、8、10番がハイレベルの快演だったがゆえに、生演奏の稀な12番はぜひ耳にしたい。

先月のピカイチ

◆◆2月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈名古屋フィルハーモニー交響楽団 第531回定期演奏会〉

2月21日(金)愛知県芸術劇場コンサートホール

川瀬賢太郎(指揮)

マーラー:交響曲第6番「悲劇的」

交響曲1、4、5番のほか2月の東京公演でも第6番に取り組み、マーラーで魅了する川瀬賢太郎&名フィル (C)中川幸作
交響曲1、4、5番のほか2月の東京公演でも第6番に取り組み、マーラーで魅了する川瀬賢太郎&名フィル (C)中川幸作

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〈読売日本交響楽団 第645回定期演奏会〉

2月7日(金)サントリーホール

ローター・ツァグロゼク(指揮)

ブルックナー:交響曲第5番

コメント

~川瀬&名フィルの真摯なアプローチ、別次元へ~

日本のオーケストラの力量向上は本当に目覚ましい。名古屋フィルのマーラー「悲劇的」は同じホールで13年前、尾高忠明の指揮でも聴いたが、今回は弦の厚み、管楽器のソロの輝かしさが一体となり、豊かな音量も相まって全く別次元の域に到達していた。川瀬の真摯なアプローチも功を奏し、コンビの今後に大きな期待を抱かせた。ツァグロゼクと読響のブルックナーはエゴを完全に超克(ちょうこく)、夢見るような演奏だった。

来月のイチオシ

◆◆4月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈東京・春・音楽祭 マレク・ヤノフスキ指揮 NHK交響楽団〉

4月4日(金)、6日(日)東京文化会館大ホール

アドリアナ・ゴンサレス(ソプラノ)/ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(メゾ・ソプラノ)/ステュアート・スケルトン(テノール)/タレク・ナズミ(バス)/東京オペラシンガーズ

ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス

ヤノフスキのミサ・ソレムニスはコロナ禍の中止を経て5年越し待望の実現 (C) Felix Broede
ヤノフスキのミサ・ソレムニスはコロナ禍の中止を経て5年越し待望の実現 (C) Felix Broede

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〈東京・春・音楽祭 ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団〉

4月18日(金)、20日(日)東京文化会館大ホール

アドリアン・エレート(アイゼンシュタイン)/ヴァレンティーナ・ナフォルニツァ(ロザリンデ)/ソフィア・フォミナ(アデーレ)/ドヴレト・ヌルゲルディエフ(アルフレート)/マルクス・アイヒェ(ファルケ博士)/アンジェラ・ブラウアー(オルロフスキー公爵)他/東京オペラシンガーズ

J・シュトラウスⅡ世:喜歌劇「こうもり」演奏会形式

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~東京春祭から2選、指揮者の妙味に期待~

ともに東京・春・音楽祭の公演。ヤノフスキはワーグナーの演奏会形式上演シリーズが好評、今年も「パルジファル」を手がけるが、「ミサ・ソレムニス」はベルリン放送交響楽団との2016年ライヴ録音が巨匠の評価を確定した〝勝負曲〟なので是非、東京でも聴きたい。2025年はシュトラウスⅡ世の生誕200年。一筋縄ではいかないノットがオペレッタの傑作「こうもり」をどう料理するのか、興味は尽きない。

先月のピカイチ

◆◆2月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈都響スペシャル (2/11)〉

2月11日(火)東京文化会館大ホール

エリアフ・インバル(指揮)/グリゴリー・シュカルパ(バス)/エストニア国立男声合唱団

ラフマニノフ:交響詩「死の島」/ショスタコーヴィチ:交響曲第13番「バービイ・ヤール」

作品の世界観を見事表出させたインバル&都響のロシア・プログラム (C)堀田力丸/東京都交響楽団提供
作品の世界観を見事表出させたインバル&都響のロシア・プログラム (C)堀田力丸/東京都交響楽団提供

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〈読売日本交響楽団 第645回定期演奏会〉

2月7日(金)サントリーホール

ローター・ツァグロゼク(指揮)

ブルックナー:交響曲第5番

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~インバル渾身の「バービイ・ヤール」~

インバルと都響がコロナ禍2度のキャンセルを経て実現した「死の島」と「バービイ・ヤール」、時宜を得た今聴く。テキストを昇華させ、ただただ美しい音楽に救われるような演奏、大地に鳴り響く合唱とシュパルカの声、丁寧な字幕が作曲家の込めた想いを深めた。ツァグロゼクのブルックナー第5番は輝かしい大伽藍に至るまで、ブルックナーの醍醐味あふれる名演。N響初登場(A、B定期)ポペルカの多彩な指揮にも触れておきたい。

来月のイチオシ

◆◆4月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈東京・春・音楽祭 マレク・ヤノフスキ指揮 NHK交響楽団〉

4月4日(金)、6日(日)東京文化会館大ホール

アドリアナ・ゴンサレス(ソプラノ)/ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(メゾ・ソプラノ)/ステュアート・スケルトン(テノール)/タレク・ナズミ(バス)/東京オペラシンガーズ

ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス

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〈東京・春・音楽祭 リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ〉

4月11日(日)、12日(土)東京文化会館大ホール

ヴェルディ:歌劇「ナブッコ」序曲/同:歌劇「運命の力」序曲/レスピーギ:交響詩「ローマの松」他

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~ヤノフスキ、ムーティ 名匠たちの春祭豪華競演~

東京春祭でワーグナーの「パルジファル」を指揮するヤノフスキの「ミサ・ソレムニス」は、ベートーヴェンの崇高な音楽とワーグナーの主要キャスト、バウムガルトナー、スケルトン、ナズミらによる声の競演に期待。ムーティと春祭オーケストラのイタリア・オペラ名曲集はポピュラーな作品が並ぶだけに、オペラの神髄を改めて知るまたとない機会だ。「ローマの松」ではムーティが春祭オケからどのような響きを創り上げるのか注目したい。

先月のピカイチ

◆◆2月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈新国立劇場 ビゼー:歌劇「カルメン」〉

2月26日(水)新国立劇場オペラパレス

ガエタノ・デスピノーサ(指揮)/アレックス・オリエ(演出)/サマンサ・ハンキー(カルメン)/アタラ・アヤン(ドン・ホセ)/ルーカス・ゴリンスキー(エスカミーリョ)/伊藤晴(ミカエラ)他/新国立劇場合唱団/TOKYO FM少年合唱団/東京交響楽団

アレックス・オリエの現代的な演出で彩られた新国立劇場の「カルメン」 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
アレックス・オリエの現代的な演出で彩られた新国立劇場の「カルメン」 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

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〈東京二期会オペラ劇場 ビゼー:歌劇「カルメン」〉

2月20日(木)東京文化会館大ホール

沖澤のどか(指揮)/イリーナ・ブルック(演出)/加藤のぞみ(カルメン)/城宏憲(ドン・ホセ)/今井俊輔(エスカミーリョ)/宮地江奈(ミカエラ)他/二期会合唱団/NHK東京児童合唱団/読売日本交響楽団

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~新国立劇場VS東京二期会「カルメン」~

新国と二期会の「カルメン」〝対決〟。新国、オリエ演出のプロダクションは21年プレミエ時、コロナ禍のため舞台上の動きに制限があり、今回の再演で初めてその真価が披露された。オリエも再来日し演技、歌唱、演奏の三拍子が揃った充実の舞台に仕上がった。デスピノーサの速いテンポの中に多彩な表情を盛り込んだ音楽も見事。二期会も速めのテンポを基調に要所を押さえた沖澤の指揮に歌手、オケがうまく連動し生き生きとした上演となった。

来月のイチオシ

◆◆4月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈東京・春・音楽祭 リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ〉

4月11日(日)、12日(土)東京文化会館大ホール

ヴェルディ:歌劇「ナブッコ」序曲/同:歌劇「運命の力」序曲/レスピーギ:交響詩「ローマの松」他

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〈東京・春・音楽祭 ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団〉

4月18日(金)、20日(日)東京文化会館大ホール

アドリアン・エレート(アイゼンシュタイン)/ヴァレンティーナ・ナフォルニツァ(ロザリンデ)/ソフィア・フォミナ(アデーレ)/ドヴレト・ヌルゲルディエフ(アルフレート)/マルクス・アイヒェ(ファルケ博士)/アンジェラ・ブラウアー(オルロフスキー公爵)他/東京オペラシンガーズ

J・シュトラウスⅡ世:喜歌劇「こうもり」演奏会形式

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~ムーティとノット、東京春祭から名演必須のプログラム2選~

毎年名演を連発している東京春祭のムーティ。今年も若手音楽家を指導するイタリア・オペラ・アカデミーは秋開催で春は東京春祭オケとの演奏会。得意のヴェルディのほかに最近では滅多に指揮しないプッチーニらのオペラ間奏曲などを取り上げていることにも注目したい。次点はこちらも名演連発のノット&東響の春祭初登場。歌唱・演技両面で定評のある歌手を集めた「こうもり」はノットならではの現代感覚あふれる名演が期待される。

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