ARK PHILHARMONIC 1 モーツァルト×ベートーヴェン 辻󠄀井伸行 清水和音 三浦文彰&ARKフィル

往年の濃厚な奏風を意識した三浦の指揮、辻󠄀井の歌心あふれる掛け合い、清水の円熟の至芸――3人のソリストが力演

サントリーホールARKクラシックスは毎秋恒例の音楽祭。そのレジデント・オーケストラがARKフィルハーモニックだ。三浦文彰と辻󠄀井伸行を中心に、国内の有力奏者らで作られる。ことしの音楽祭2日目には、三浦を指揮者に、辻󠄀井と清水和音をソリストに迎えて、モーツァルトとベートーヴェンによる重厚なプログラムが組まれた。

指揮者として重厚なプログラムに挑んだ三浦文彰
指揮者として重厚なプログラムに挑んだ三浦文彰

前半の1曲目は辻󠄀井が独奏を受け持ったモーツァルトのピアノ協奏曲第21番。持ち前の澄んだ硬質のタッチによるストレートなアプローチで爽快に弾き進め、第1、3楽章のカデンツァでは同じ楽章内のモチーフを巧みにあしらった自作版を披露。12型に編成を刈り込んだオーケストラは、流麗なテンポでぴたりと付けた。木管セクションとの歌心あふれる掛け合いなど、チャーミングな場面を作り出した。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番。木管セクションとの歌心あふれる掛け合いが印象的だった辻󠄀井伸行
モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番。木管セクションとの歌心あふれる掛け合いが印象的だった辻󠄀井伸行

それに続くベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番に登場した清水は、ベテランらしい円熟の至芸でうならせた。音色やタッチの豊かなパレットを駆使して、腰の据わった巨匠風のマナーで魅了。両端楽章での余裕を醸す軽みや緩急自在な呼吸、第2楽章での地に足のついた深い叙情が、曲の真髄を余すところなく伝えた。時には、勢いが付き過ぎたオーケストラを押しとどめる老獪(ろうかい)さも聴かせ、舞台を完全に支配した。
なおピアノ(スタインウェイ)は舞台転換でチェンジされ、両ソリストの好みに合わせて調律師やチューニングが異なる楽器が用意されたのは、好ましい配慮だった。

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番では、清水和音がベテランらしい円熟の至芸を聴かせた
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番では、清水和音がベテランらしい円熟の至芸を聴かせた

後半は三浦の指揮によるベートーヴェンの交響曲第5番「運命」。若さがはち切れる豪壮な演奏で、木管とホルンを倍管にしての14型編成。テンポやフレージングが自由に伸び縮みするロマンティックな解釈となった。三浦は下野竜也らに指揮の手ほどきを受け、往年の濃厚な奏風を意識しているといい、その通りの力演となった。

ことしの当音楽祭は10月1日(火)のクロージング・ナイトまで、多彩なメニューが続く。
(深瀬 満)

公演データ

ARK PHILHARMONIC 1 モーツァルト×ベートーヴェン
辻󠄀井伸行 清水和音 三浦文彰&ARKフィル

9月28日(土)17:00 サントリーホール 大ホール

指揮:三浦文彰
ピアノ:辻󠄀井伸行
ピアノ:清水和音
管弦楽:ARK PHILHARMONIC

プログラム
モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番
(ピアノ:辻󠄀井伸行)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番
(ピアノ:清水和音)
ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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