阪哲朗×ラデク・バボラーク! 才能が響き合う濃密な演奏会
経営環境が厳しい地方オーケストラでも、積極策が成功して発信を続ける団体はある。山形交響楽団(山響)は代表格だろう。東京・大阪圏へ定期的に打って出る「さくらんぼコンサート」は、その名を広く知らしめる大切なチャンス。ことしは常任指揮者の阪哲朗とミュージック・パートナーのラデク・バボラークが2枚看板となって、ユニークなプログラムを披露してくれた。
演奏会前半はバボラークが指揮台に立った。ホルンの名手として鳴らす一方、指揮活動にも力を入れ始めただけに、多才ぶりが際立つ。チェコ出身の彼にとって、ドヴォルザークの序曲「わが故郷」は身近なお国もの。第1ヴァイオリンから10-8-6-6-4人と低音増強型にした弦セクションを対向配置で並べ、反応のいいアンサンブルから活気ある響きを引き出していく。チェコ国歌の旋律も登場し、すっきり晴朗にまとめ上げた。
続くモーツァルトの協奏交響曲変ホ長調K.297bではバボラークがホルンと指揮を兼ね、フルート(清水伶)、オーボエ(柴田祐太)、ファゴット(上野健)と首席級の管楽器奏者が息の合ったソロを聴かせた。今回は、消失した初版にならった「バボラーク版」による演奏。弦楽器の編成をさらに6-6-4-4-2へ切り詰め、澄明な叙情と自然な格調が浮かぶ。
そして演奏会後半は阪哲朗がタクトを執った。まずバボラークが独奏に回って、ジョヴァンニ・プント(1746~1803)のホルン協奏曲第5番を何とナチュラル・ホルンで披露した。プントはボヘミアの名ホルン奏者で、自分の技をアピールする作品を多く残した。故国の先達の作品で、バボラークは演奏が難しいナチュラル・ホルンをやすやすと扱い、音域によって異なる音色を的確にコントロール。楽器の開口部に手を入れて音程や音色を変えるゲシュトプフ奏法の妙技で、聴衆をあぜんとさせた。
そして最後がブラームスの交響曲第1番ハ短調。ドイツで長年、腕を磨いた阪には格好の題材だ。編成を最初の規模に戻し、透明なテクスチュアが支配する清新なブラームスを聴かせた。楽団の性格や能力を見極めたクレバーな行き方だ。
弦楽器が管楽器をマスクしない立体的なバランスを構築し、各パートがクリアに分離するので、ふだんは聞こえにくいコントラファゴットの野趣ある音色がしっかり伝わった。バボラークが首席ホルンを務め、第4楽章の始めのほか、曲中の随所で存在感を示したのも効果的。ヴァイオリンのポルタメントなど、往時の演奏法を研究した跡もみられた。
旧来の強圧的で響きが濁るブラームス像とは対照的に、清々しく様式感の最前線まで示した阪と山響ならではの「ブラ1」、好調ぶりを端的に示す快演となった。
(深瀬満)
公演データ
山形交響楽団特別演奏会 さくらんぼコンサート2026 東京公演
6月17日(水) 19:00サントリーホール 大ホール
指揮:阪哲朗
指揮&ホルン:ラデク・バボラーク
管弦楽:山形交響楽団
コンサートマスター:髙橋 和貴
プログラム
ドヴォルザーク:序曲「わが故郷」Op.62
モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.297b(バボラーク版)
プント:ホルン協奏曲第5番 ヘ長調
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 Op.68
他日公演
6月18日(木) 19:00 ザ・シンフォニーホール
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。










