山田和樹インタビュー② シカゴ交響楽団との初共演

シカゴ響との初共演を果たした山田和樹=5月16日 シカゴ・シンフォニー・センター (C)Todd Rosenberg Photography
シカゴ響との初共演を果たした山田和樹=5月16日 シカゴ・シンフォニー・センター (C)Todd Rosenberg Photography

来年6月にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の定期公演への出演が決まった指揮者・山田和樹のインタビュー2回目は、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団との日本公演直前の5月16日から4回にわたって行われたシカゴ交響楽団との初共演について。全米のトップ・オケとされるシカゴ響は数多くの楽団を振ってきた山田にも強烈なインパクトを与えたようだ。(取材・構成 宮嶋 極)

 

インタビュー① モンテカルロ・フィルとの来日公演についてはこちら

 

山田は5月16、17、18、21日にシカゴ・シンフォニー・センターで行われたシカゴ響の定期を指揮し、大成功を収めて日本に〝凱旋帰国〟し、モンテカルロ・フィルとの日本公演に臨んだ。シカゴ響では武満徹の「ハウ・スロー・ザ・ウインド」、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番ハ長調(ピアノ=マルティン・ヘルムヒェン)、フランクの交響曲ニ短調を指揮した。

 

——シカゴ響との初共演も大成功だったことを現地メディアのネット版が伝えていました。全米ナンバーワンのオケとの呼声も高いシカゴ響についてどのような印象を持ちましたか?

山田 シカゴ響といえば、僕のイメージはどうしてもゲオルク・ショルティの時代を思い浮かべます。もちろん他の指揮者とも素晴らしい時代がたくさんあったのですが、自宅に数多くあるCDは、ショルティとのコンビのものが多いですね。その頃のシカゴ響のイメージは金管楽器の圧倒的な迫力とスタミナです。それを期待して行ったら、その期待を上回る感じで、とにかく金管楽器のパワフルさと上手さに驚かされました。

注) ゲオルク・ショルティ(1912~97)は1969年にシカゴ響の第8代音楽監督に就任。それまで低迷していた同響の合奏能力を大幅に向上させて米国の音楽誌による全米オーケストラ・ランキングで毎年1位に選出されるなどの黄金時代を築いた。この時期にはベルリン・フィルやウィーン・フィルと比肩する世界のトップ・オケのひとつと評価されることも多かった。ショルティは91年、同響創立100年を機に退任し、その後、音楽監督はダニエル・バレンボイム、リッカルド・ムーティへと受け継がれ、2027年9月にクラウス・マケラが就任することが発表されている。

終演後、聴衆の喝采に応えて (C)Todd Rosenberg Photography
終演後、聴衆の喝采に応えて (C)Todd Rosenberg Photography

——確かにショルティの時代はホルンの神様といわれたデール・クレヴェンジャーやトランペットのアドルフ・ハーセスといった世界的にも名前が知られたブラスの名手が揃っていました。その伝統が今も息づいているわけですね。

山田 今までオーケストラは弦楽器が主体で、弦楽器セクションの実力がオーケストラ全体のクオリティーを決めるみたいな考え方があったのですが、米国のオケに関しては金管楽器がそのオケのクオリティー決めているのではないか、と思えるくらいでした。

 

——国内外で多くのオケを指揮してきたマエストロをそこまで驚かせるとは並大抵のパワーではないのですね。

山田 もちろん、弦楽器もとてもうまく演奏するのですが、ただシカゴ響についていえば、オーケストラ全体の特徴を形作っているのは、金管楽器なのではないかと感じました。とにかく鳴りがすごかった。ヨーロッパのオーケストラの軽く2~3倍の音量はあったのではないかと感じるくらいの音圧と迫力、そして音の勢いがものすごくありましたね。圧倒されました。

1904年以来シカゴ響が本拠地とするシカゴ・シンフォニー・センターの美しいオーケストラホール (C)Todd Rosenberg Photography
1904年以来シカゴ響が本拠地とするシカゴ・シンフォニー・センターの美しいオーケストラホール (C)Todd Rosenberg Photography

——シカゴ響の本拠地であるシンフォニー・センターの印象はいかがでしたか?

山田 見た目に美しいホールですよね。建物の入り口はわりと普通なのですが、中に入ると白塗りの壁に赤いカーテンで昔のオペラ劇場みたいな感じですね。コンサートホールなのですが、オペラ劇場に迷い込んだかのような感覚になります。すごく明るい雰囲気がありました。

 

——ホールの音響はいかがでしたか? ニューヨークをはじめ、米国の伝統あるコンサートホールは概して音響があまり良くないとの評価もありますが。

山田 (音響の良いホールが世界各地に建設された)今の時代においてはやはり、音響がものすごく優れてトップレベルというわけではありません。だからこそ、(圧倒的にパワフルな)シカゴ響のサウンドが育まれたのだということを納得させてくれる歴史と伝統を実感させてくれる会場でした。(③へ続く)

 

インタビュー原稿の最終回となる次回はいよいよ来年6月のベルリン・フィルとの初共演にかける思いを詳しく紹介します。

山田和樹のプロフィールは国内のマネージメントを担当するジャパン・アーツのホームページ(山田 和樹 | クラシック音楽事務所ジャパン・アーツクラシック)をご覧ください。

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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