山田和樹インタビュー① モンテカルロ・フィルとの来日公演を終えて

インタビューに応じる山田和樹=2024年5月29日 都内にて
インタビューに応じる山田和樹=2024年5月29日 都内にて

来年6月にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の定期公演への出演が決まった指揮者・山田和樹が毎日クラシックナビのインタビューに応え、ベルリン・フィルへの意欲、自らが芸術監督兼音楽監督を務めるモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団との日本公演などについて語ってくれた。ポスト小澤征爾の最有力候補として活躍を続ける山田の思いを3回にわたってお伝えする。その初回は日本公演が成功裡に終わったモンテカルロ・フィルについて。(取材・構成 宮嶋 極)

 

山田のインタビュー取材は5月27、28日の両日、サントリーホールで行われたモンテカルロ・フィルの東京公演の熱気が冷めやらぬ29日午後、都内で行った。同公演の演奏については速リポの拙稿(山田和樹指揮 モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演 | CLASSICNAVI)をご参照ください。東京公演はいずれもチケットが完売、公演終了後、オケが退場しても拍手が鳴り止まず、山田がメンバーを引き連れてステージに再登場し喝采に応える盛り上がりとなった。

 

——まずはモンテカルロ・フィルとの東京公演の大成功、おめでとうございます。ツアーを終えて今の率直な感想をお聞かせください。

山田 ありがとうございます。指揮者は指揮台の上で、次の部分どうしようかとか、(音楽が)こう流れているからこうしようと設計を変えたり、次はこんな音色でなどと考えながら振っています。ところが、今回のツアーでは少し違って、特に東京公演は感慨深いものがありました。というのも2016年からモンテカルロ・フィルの監督になって父親みたいな心境というのでしょうか。8年経って満を持して日本公演が実現でき、皆でサントリーホールの舞台に立ち、音楽が繰り広げられている。泣きそうになるっていうのではありませんが、指揮しながらひとりひとりが弾いている姿、吹いている姿、演奏している姿を見るにつけ、何か父親目線になってしまう思いがしました。よく成長したなみたいなね。僕も成長させてもらったし、ジーンときちゃうような感慨を抱きました。

2016年から率いるモンテカルロ・フィルとの初来日公演は喝采を浴びた (C)松尾淳一郎
2016年から率いるモンテカルロ・フィルとの初来日公演は喝采を浴びた (C)松尾淳一郎

——モナコ公国は世界で2番目に小さな国ですが、オケは弦楽器の編成が16型の立派な規模でした。楽員の構成はモナコの方が多数を占めているのですか?

山田 国が小さいのでモナコ生まれでモナコ育ちの方は少ないです。メンバーの大半はフランスサイドに住まいを構えています。イタリアも近いので、イタリアの人も数人いたと思います。モナコ公国ではモナコ大公の下で政治が行われていて、ここ100年間、文化で国をアピールしていくということに力を入れています。ですからオーケストラも文化大使のような役割を果たしているようなところがあって、前の大公は特に音楽がお好きで外国から要人が来ると、まず会議の前に演奏会を開催する。〝これが僕のオーケストラだ〟という言い方をしたという話が残っていますが、なかなかすごいですよね。小さな国かもしれませんが、こんなに立派なオケがあること自体がモナコの国の象徴になっている。ですから、今回のツアーもある意味、国を背負って臨んだわけです。

モナコ公国の大公宮殿

——音色はもとより、コントラバスはフレンチボウ、ファゴットではなくバソンを使うなど、オケ全体がフランスのスタイルを踏襲しているように感じました。

山田 仰るとおりです。

 

——そうしたオケの個性を尊重し特色を活かしつつも、自然な形で自らの音楽を実現させていくマエストロの手腕はモンテカルロ・フィルとの演奏でもいかんなく発揮されていたと感じました。これはバーミンガム市響を振った時も、そして日本のオケとの共演でも同様です。

山田 僕は設計図を全部決めて取りかかるタイプではないので、逆に設計図が変わっていく方が面白いんですよ。昨日の演奏会のリハーサルでもそうでしたが、僕のイメージと違うことも現実に起こるわけです。でも、これもありかなとか思ったりすると、今回はこれでやってみようかと、その場でそれらのアイデアを取り入れる。そうすると、次の部分はこう変わってくるなと、そのように影響し合って変化していくことも面白いですね。

 

——もうひとつ、マエストロの演奏会でいつも感じるのは、どのオーケストラを指揮しても気負いがなく、ステージ上ではいつも同じ態度に映ることです。

山田 全ての演奏会で緊張はしますよ。だから舞台に出る前にオーケストラがチューニングを始めると、僕は目に見えるぐらいテカテカに汗が滲んでくるみたいです。帰りたくなりますね。(笑い)

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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