【プログラムC】
取材したのは日本ツアー初日となる7日、 ミューザ川崎シンフォニーホールにおける公演。演奏については既に山田治生氏による速リポをアップしているのでそちらをご覧いただきたい。(ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2024 アンドリス・ネルソンス指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | CLASSICNAVI)
本稿ではミューザで聴いたウィーン・フィル(WPH)のサウンドという視点でリポートしたい。「ウィーク・フィルハーモニー ウィーク」が93年11月に小澤征爾の指揮でスタートして以来、首都圏の聴衆はサントリーホールでこのオケを聴く機会が圧倒的に多くなり、同ホールが誇る厚く豊かなアコースティクの中で響くWPHの音こそが、このオケのサウンドと感じている面もあろうかと思う。(もちろん、それは素晴らしい響きであるのだが)
ところが、同じ設計者(豊田泰久氏)ながら聴こえ方が異なるミューザでWPHを聴くと、別のキャラクターが浮かび上がって(聴こえて)くるから面白い。WPHのサウンドについて、柔らかく優雅と表現されることが多いが、筆者は以前からそれに少し抵抗感を持っていた。Bプロのリポートでも記したが、WPHは弦楽器、特にヴァイオリンはエッジの利いたきらびやかな高音、そしてチェロ・バスは引き締まった低音が特徴的で、同様の音はベルリン・フィルであっても出すことができない。管楽器もオーボエやホルン、トランペットなどでこのオケ独特の伝統的な楽器を使っており、通常使われている楽器よりは細く鋭角的な音がすることが多い。さらにティンパニもヤギの皮を張ったシュネラーという楽器が使われており、ヨーロッパで広く使用されている牛皮を張った口径の大きい楽器よりも硬質な響きがする。こうした特徴が〝音の解像度〟の高いミューザで聴くと一層、明瞭に伝わってきた。
加えてWPHはかなりの熱演型のオケである。弦楽器は弓を大きく使い、全パート、アグレッシブに演奏する様子は優雅というよりも激しいと感じるのは筆者だけではないだろう。この日のメイン、ドヴォルザークの交響曲第7番もそうした熱演であった。
では、なぜ優雅と表現されることが多いのだろうか。そのヒントはアンコールにあった。
当夜はヨーゼフ・シュトラウスのワルツ「我が人生は愛と喜び」とヨハン・シュトラウスⅡ世の「トリッチ・トラッチ・ポルカ」の2曲が演奏された。特にワルツは曲の性格上、柔らかいサウンドで優美な演奏が繰り広げられ、正規の演目であるショスタコーヴィチやドヴォルザークとは明らかに異なる音作りが行われていた。つまり、これが元日のニューイヤー・コンサートなどでお馴染みのウィンナ・ワルツ、ポルカの〝本家本元〟であるWPHのサウンド・イメージとして広く浸透することに繋がったのではないだろうか。しかし、WPHのサウンドや表現は多様・多彩であり、それが世界最高峰のオケのひとつと評価される理由のひとつであることを音響のよい2つのホールで聴き比べることによって再確認することができた。
公演データ
【ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2024】
指揮:アンドリス・ネルソンス
ヴァイオリン:五嶋 みどり
ピアノ:イェフィム・ブロンフマン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
コンサートマスター:フォルクハルト・シュトイデ
【プログラムA】
11月9日(土)15:00 大阪・フェスティバルホール
11月12日(火)19:00 サントリーホール
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調Op.19
マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調
【プログラムB】
11月8日(金)18:30 アクトシティ浜松 大ホール
11月13日(水)19:00 サントリーホール
11月17日(日)16:00 サントリーホール
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調Op.37
リヒャルト・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」Op.40
【プログラムC】
11月7日(木)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
11月10日(日)15:00 福井県立音楽堂ハーモニーホールふくい 大ホール
11月16日(土)16:00 サントリーホール
ムソルグスキー(ショスタコーヴィチ編):歌劇「ホヴァンシチナ」第1幕への前奏曲「モスクワ河の夜明け」
ショスタコーヴィチ:交響曲第9番変ホ長調Op.70
ドヴォルザーク:交響曲第7番ニ短調Op.70(B141)
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。