【プログラムB】
プログラムBは今年のツアーのラストとなる17日、サントリーホールでの公演を取材した。例年そうなのだが、最終日の公演は特に熱量が高くなる傾向が強い。長いツアーの千秋楽ということでメンバーの気力が一層漲るためであろうか。この日も演奏の熱量がさらに一段アップしていたように感じた。
1曲目はイェフィム・ブロンフマンの独奏でベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番。ブロンフマンのピアノは作品の構造を堅固に構築しながらも慣習的な装飾を排した質実剛健たるもの。オケは第1ヴァイオリンが10人という小編成でヴィブラートも控えめにシンプルな響きで独奏を支える。とはいえ、ウィーン・フィル(WPH)ならではの美音が時折、香り立つように聴こえてきて、このオケが一流アーティストと奏でるコンチェルトの醍醐味を味わうことができた。ネルソンスからはこの日もソリストとオケの対話にある程度任せているような雰囲気が感じられた。盛大な喝采に応えてブロンフマンはシューベルトのピアノ・ソナタ第14番イ短調の第2楽章をアンコールした。
メインはリヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」。WPHの美音が最も発揮されやすい作品のひとつといえる。それだけに日本公演で同曲を取り上げた回数も多く、マゼール(1983年)、クリスティアン・ティーレマン(2003年)、ズービン・メータ(09年)、ヴァレリー・ゲルギエフ(20年)に続いて今回は5度目となる。WPHのきらびやかなサウンドが全開となり、このオケならではの唯一無二のシュトラウスの音世界を楽しむことができた。
冒頭、コントラバスとチェロ、ファゴットなどが奏でるEs(ミ♭)の二分音符からマゼールの時以来、変わらぬ重く引き締まったWPHサウンドが鳴り響く。1曲目「英雄」の最後の高いD(レ)も倍音をふんだんに含んだこのオケでしか聴くことができない超高音がホール全体にこだました。「英雄の伴侶」ではコンサートマスターに長く難易度の高いソロが割り当てられているが、この日担当したのはフォルクハルト・シュトイデ。フォルムをきっちりと固めた安定感抜群のソロを披露した。ちなみに前回、この曲を取り上げた時はこの日はコンマスサイドに座ったアルベナ・ダナイローヴァがソロを弾いた。彼女の華麗なソロも忘れ難い。「英雄の戦場」から「英雄の業績」にかけては速めのテンポでダイナミックレンジを広くとり力強いタッチで音楽を進めていたあたりにネルソンスの個性を感じ取ることができた。終曲「英雄の隠遁と完成」では深い呼吸感をもって各旋律を深掘りするように全曲を締めくくった。万雷の拍手に応えてヨハン・シュトラウスⅡ世のワルツ「人生を楽しめ」とヨーゼフ・シュトラウスのポルカ・シュネル「飛ぶように急いで」の2曲をアンコール。オケが退場しても鳴り止まぬ拍手にネルソンスがひとりステージに再登場して歓呼に応えていた。