東京二期会オペラ劇場 リヒャルト・ワーグナー「タンホイザー」

アクセル・コーバーの緊迫感に富む指揮が聴きもの

2021年2月に東京で上演された、キース・ウォーナー演出によるプロダクションの再演。あの時は新型コロナ大流行のさなか、上演形態にもあれこれ制限が加えられたため、意に満たぬ点もあったようだが、今回は再演演出担当のカタリーナ・カステニングによる綿密な指示のもと、人物の動きや照明の扱いにも引き締まった流れが生まれていたようである。再演の意義は充分と言えよう。

キース・ウォーナー演出の「タンホイザー」写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:寺司正彦
キース・ウォーナー演出の「タンホイザー」写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:寺司正彦

演出の面では、キース・ウォーナーのものとしては、これは比較的穏健なものに属するだろう。ただし、歌合戦の場に官能の女神ヴェーヌスが現れてタンホイザーを煽(あお)っていたり、エリーザベトに対するヴォルフラムの愛が強調されたり、といった解釈は、ここにも織り込まれている。特に第3幕の幕切れの瞬間における不気味な光景は、身勝手極まるタンホイザーを断罪しているかのようにも見える。

指揮は、初来日のアクセル・コーバーが受け持った。さすがこの曲を十八番としている人だけあって手慣れた指揮で、読響を巧みに制御し、第2幕後半の大アンサンブルでは見事な緊迫感をつくり出した。なお初日には、題名役のサイモン・オニールが抜きん出た声量で他の邦人歌手陣を圧倒していた。少し癖の強い歌い方だが「ローマ語り」での鮮烈な迫力は聴きものであった。

鮮烈な迫力をみせた題名役のサイモン・オニール 写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:寺司正彦
鮮烈な迫力をみせた題名役のサイモン・オニール 写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:寺司正彦

今回は第1幕の「バッカナール」や、第2幕・第3幕の終結部の音楽などに、改訂された「パリ版」が使用されていたが、第2幕ではドレスデン版の「ヴァルターの反論」が復活されていた。ある意味で「折衷版」による演奏と言えようか。上演時間は2回の休憩を含み、約4時間。

(東条 碩夫)
※取材は2月28日(水)の公演

公演データ

東京二期会オペラ劇場 リヒャルト・ワーグナー「タンホイザー」

オペラ全3幕
日本語字幕付原語(ドイツ語)上演
※パリ版準拠(一部ドレスデン版を使用)にて上演

2024年2月28日(水)17:00、2月29日(木)14:00、3月2日(土)14:00、3月3日(日)14:00
東京文化会館大ホール

管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:二期会合唱団

その他の出演者等、データの詳細は東京二期会ホームページをご参照ください。
タンホイザー|東京二期会オペラ劇場 -東京二期会ホームページ- (nikikai.jp)

 

東条 碩夫
東条 碩夫

とうじょう・ひろお

早稲田大学卒。1963年FM東海(のちのFM東京)に入社、「TDKオリジナル・コンサート」「新日フィル・コンサート」など同社のクラシック番組の制作を手掛ける。1975年度文化庁芸術祭ラジオ音楽部門大賞受賞番組(武満徹作曲「カトレーン」)制作。現在はフリーの評論家として新聞・雑誌等に寄稿している。著書・共著に「朝比奈隆ベートーヴェンの交響曲を語る」(中公新書)、「伝説のクラシック・ライヴ」(TOKYO FM出版)他。ブログ「東条碩夫のコンサート日記」 公開中。

SHARE :