ノセダ&N響、ミンコフスキ&都響 魅力全開、4年ぶりの客演……23年6月

6月のNHK交響楽団定期演奏会に客演したジャナンドレア・ノセダ 写真提供:NHK交響楽団
6月のNHK交響楽団定期演奏会に客演したジャナンドレア・ノセダ 写真提供:NHK交響楽団

新型コロナ・ウイルスの感染法上の位置付けが2類から5類に緩和されたことを受けて、終演後のブラボーが解禁されるなど音楽界もますます活況を呈してきた。そこで今回の「先月のピカイチ、来月のイチオシ」は名演が多かった6月のステージからピカイチを、8月に予定されている公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただいた。

先月のピカイチ

◆◆6月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈バーミンガム市交響楽団 来日公演〉

6月30日(金)サントリーホール

山田和樹(指揮)/樫本大進(ヴァイオリン)
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲/ラフマニノフ:交響曲第2番

首席指揮者 山田和樹と6年ぶりに来日したバーミンガム市響 (C)千葉秀河/ジャパン・アーツ
首席指揮者 山田和樹と6年ぶりに来日したバーミンガム市響 (C)千葉秀河/ジャパン・アーツ

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〈ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団 来日公演〉

6月23日(金)サントリーホール

ラハフ・シャニ(指揮)/諏訪内晶子(ヴァイオリン)
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲/ブラームス:交響曲第1番、他

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~若手指揮者、古豪オケを見事に制御~

「イチオシ」の際にこの2つを挙げ、「外来オケが並んでしまったけれど、久しぶりだし、まあいいだろう」と書いた記憶があるが、今回「ピカイチ」でも同じセリフを繰り返す。ただし順序は逆になった。ともに若手の指揮者が古豪オケを見事に制御し、目覚ましい成果を上げたのを喜びたい。国内演奏家でも、ハサン指揮読響、沼尻竜典と神奈川フィルの「サロメ」、デュトワと新日本フィル、ミンコフスキと都響など、快演はたくさんあった。

来月のイチオシ

◆◆8月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈沼尻竜典指揮×京都市交響楽団 マーラー・シリーズ〉

8月26日(土)滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール

マーラー:交響曲第7番「夜の歌」

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〈読売日本交響楽団 第664回名曲シリーズ〉

8月31日(木)サントリーホール

ローター・ツァグロゼク(指揮)
ブルックナー:交響曲第8番

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~実力派が奏でる西のマーラー&東のブルックナー~

沼尻竜典と京都市響のマーラー・シリーズは、3月の第6交響曲「悲劇的」が非常に優れた演奏だったので、今回の第7番「夜の歌」にも期待をかけた。一方ツァグロゼクは、かつてはシュトゥットガルト・オペラやベルリン・コンツェルトハウス管のシェフとしても有名な人で、しばしば来日もしているのだが、どういうわけか日本ではあまり知名度が高くない。いわば「渋い実力派」だろう。大作「ブル8」に期待をかける。

先月のピカイチ

◆◆6月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈神奈川フィルハーモニー管弦楽団 歌劇「サロメ」〉

6月24日(土)横浜みなとみらいホール

沼尻竜典(指揮)/田崎尚美(サロメ)/高橋淳(ヘロデ)/谷口睦美(ヘロディアス)/清水徹太郎(ナラボート)/大沼徹(ヨカナーン)他
R・シュトラウス:歌劇「サロメ」(セミステージ形式)

神奈川フィルの新プロジェクト「Dramatic Series」の第1弾としてセミステージ上演された「サロメ」 撮影:藤本史昭
神奈川フィルの新プロジェクト「Dramatic Series」の第1弾としてセミステージ上演された「サロメ」 撮影:藤本史昭

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〈新日本フィルハーモニー交響楽団 第650回定期演奏会〉

6月25日(日)サントリーホール

シャルル・デュトワ(指揮)
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲/ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)/ベルリオーズ:幻想交響曲

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~オール・ジャパンでの成果が光る沼尻&神奈川フィルの「サロメ」~

沼尻&神奈川フィルの「サロメ」は、同作のオーケストラ音楽としての妙味を明らかにした快演。様々なフレーズが躍動し、中でも「7つのヴェールの踊り」は楽曲の魅力を再認識させる解像度抜群の名演となった。オール日本人の歌手陣も大健闘。田崎尚美の美しいサロメは特に印象的だった。新日本フィル定期は、〝音の魔術師〟デュトワの面目躍如。近年の同楽団にはまれな輝かしいサウンドと、エレガントな音楽作りに感嘆させられた。

来月のイチオシ

◆◆8月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈フェスタサマーミューザKAWASAKI2023読売日本交響楽団〉

8月1日(火)ミューザ川崎シンフォニーホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)
ベートーヴェン:交響曲第8番/ワーグナー(デ・フリーヘル編曲):楽劇「ニーベルングの指環」〜オーケストラル・アドヴェンチャー 

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〈セイジ・オザワ 松本フェスティバル2023 オーケストラ コンサートA〉

8月25日(金)、27日(日)キッセイ文化ホール

ステファン・ドゥネーヴ(指揮)/サイトウ・キネン・オーケストラ/杉山康人(チューバ)/イザベル・レナード(ソプラノ)/OMF合唱団/東京オペラシンガーズ
バーンスタイン:「ウェスト・サイド・ストーリー」よりシンフォニック・ダンス/ジョン・ウィリアムズ:チューバ協奏曲/プーランク:スターバト・マーテル/ラヴェル:「ダフニスとクロエ」第2組曲

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~興味深い公演が続くフェスタサマーミューザ~

フェスタサマーミューザの読響は、同音楽祭の8月公演全体の代表格といった意味合い。8月も好内容の公演が続くので、できる限り足を運びたい。中でも読響は、ドイツ出身で同国の歌劇場の経験が豊富なヴァイグレが指揮する「ニーベルングの指環」〜オーケストラル・アドヴェンチャーが大注目。これはシェフとしての真価が発揮される定期演奏会クラスの勝負演目だ。N響での成果が光るドゥネーヴと敏腕オケとのコラボも興味津々。

先月のピカイチ

◆◆6月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈NHK交響楽団 第1988回定期公演Bプログラム〉

6月21日(水)サントリーホール

ジャナンドレア・ノセダ(指揮)/庄司紗矢香(ヴァイオリン)
J・S・バッハ(レスピーギ編曲):「3つのコラール」/レスピーギ:「グレゴリオ風協奏曲」/ラフマニノフ:交響曲第1番

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〈東京都交響楽団 第978回定期演奏会Bシリーズ〉

6月26日(月)サントリーホール

マルク・ミンコフスキ(指揮)
ブルックナー:交響曲第5番

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~ノセダ&N響のケミストリー~

「イチオシ」時点では予想のつかなかった結果に落ち着いた。N響へ4年半ぶりに客演したノセダの円熟と楽員の急激な世代交代が最良のケミストリーを生み、目をつぶって聴く限り、欧米の一流楽団と何ら遜色のないパワー、音色美で圧倒した。ミンコフスキのブルックナーも都響の持ち味を極限まで引き出し、個性と普遍を巧みにバランスさせた。期待していた山田和樹指揮バーミンガム市響は後半のラフマニノフの交響曲第2番と前半のブラームス ヴァイオリン協奏曲でオケの出来の落差が激し過ぎて、喝!

来月のイチオシ

◆◆8月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈大阪交響楽団 第265回定期演奏会〉

8月9日(水)ザ・シンフォニーホール(大阪)

髙橋直史(指揮)/森下幸路(ヴァイオリン)/杉浦由奈(ピアノ)
メンデルスゾーン/序曲「フィンガルの洞窟」/レーガー:「ベックリンによる4つの音詩」より第1曲〝ヴァイオリンを弾く隠者〟/リスト:死の舞踏/ヒンデミット:交響曲「画家マティス」

首席客演指揮者 髙橋直史と大阪響がレーガー&ヒンデミットの記念年に光を当てる (C)飯島隆
首席客演指揮者 髙橋直史と大阪響がレーガー&ヒンデミットの記念年に光を当てる (C)飯島隆

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〈子どものためのオペラ「まほうのふえ〜パミーナ姫のたんじょうび〜」〉

8月5日(土)フェニーチェ堺 大ホール

菅尾友(演出)/瀬山智博(指揮)/松原みなみ(パミーナ)/谷川あお(夜の女王)、他/大阪交響楽団

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~大阪で好企画続々~

大阪交響楽団は以前「大阪シンフォニカー」と名乗り、歴代指揮者もドイツとの関わりが深い。昨年、首席客演指揮者に就いた髙橋は20年以上にわたってドイツの劇場でカペルマイスター(楽長)を務め、テーマ性を持たせた演奏会の企画でも定評がある。今回はラフマニノフの生誕150年&没後80年に隠れがちなレーガー、ヒンデミットに光を当てた。かつて新国立劇場の研修所公演、「カルディヤック」(ヒンデミット)でみせた棒の冴(さ)えに再び期待したい。フェニーチェ堺でタッグを組む菅尾、瀬山もドイツ語圏の活躍が長く、子ども向けながら、本格的なムジークテアター体験ができそうだ。

先月のピカイチ

◆◆6月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈東京都交響楽団 第977、978回定期演奏会〉

6月25日(日)東京芸術劇場コンサートホール/26日(月)サントリーホール

マルク・ミンコフスキ(指揮)
ブルックナー:交響曲第5番(ノヴァーク版)

4年ぶりの都響への客演が話題を呼んだミンコフスキ (C)東京都交響楽団事務局
4年ぶりの都響への客演が話題を呼んだミンコフスキ (C)東京都交響楽団事務局

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〈コリヤ・ブラッハー J・S・バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全曲演奏会〉

6月29日(木)、30日(金)トッパンホール

コリヤ・ブラッハー(ヴァイオリン)
J・S・バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番(第1夜)/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番(第2夜)

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~ミンコフスキの魅力全開、ブルックナーの快演~

4年ぶりに都響を振ったミンコフスキのブルックナーの5番は目の覚めるような快演。氏の特長でもある体全体でリズムを刻み呼吸するスタイルは、快速かつ指揮棒の描くナチュラルな流れがみずみずしく、丹念に歌い上げる旋律の全てに魅せられた。

コリヤ・ブラッハーがバッハの無伴奏全6曲を2夜にわたって披露。音への飽くなき探求が愛用する名器トリトンの力強い音を通じて伝わってくる。バッハの叡智と超絶技巧を極めた名演となった。

来月のイチオシ

◆◆8月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈読売日本交響楽団 第664回名曲シリーズ〉

8月31日(木)サントリーホール

ローター・ツァグロゼク(指揮)
ブルックナー:交響曲第8番

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〈サラダ音楽祭 メインコンサート「スターバト・マーテル」〉

8月6日(日)東京芸術劇場コンサートホール

大野和士(指揮)/金森穣、井関佐和子(Noism Company Niigata)※ダンス/小林厚子(ソプラノ)/山下裕賀(メゾソプラノ)/村上公太(テノール)/妻屋秀和(バス)/新国立劇場合唱団(合唱)/東京都交響楽団
J・S・バッハ(マーラー編曲):管弦楽組曲より「序曲」「エア(アリア)」※「エア(アリア)」のみダンス付き/ドヴォルザーク:スターバト・マーテル

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~真夏の大作競演、ブルックナー8番&スターバト・マーテル~

ドイツの巨匠ローター・ツァグロゼクは19年に読響でブルックナーの7番を振っているが、残念ながら聴き逃したので今回の8番に期待を込めている。早々にチケットは完売というのもブルックナーファンの注目度の表れだろう。新国立劇場の「ラ・ボエーム」でオペラ指揮者らしい歌心あふれる音楽を聴かせた大野和士が、今こそ演奏する時と選んだスターバト・マーテル、日本屈指の新国立劇場合唱団で聴くドヴォルザークの大作は貴重な機会だ。

先月のピカイチ

◆◆6月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈パレルモ・マッシモ劇場 ヴェルディ:「椿姫」〉

6月18日(日)東京文化会館大ホール

マリオ・ポンティッジャ(演出)/フランチェスコ・イヴァン・チャンパ(指揮)/エルモネラ・ヤオ(ヴィオレッタ)/フランチェスコ・メーリ(アルフレード)/アルベルト・ガザーレ(ジェルモン)他/同劇場合唱団/同管弦楽団

パレルモ・マッシモ劇場来日公演「椿姫」より=写真は大阪公演 (C)森口ミツル
パレルモ・マッシモ劇場来日公演「椿姫」より=写真は大阪公演 (C)森口ミツル

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〈NHK交響楽団 第1987回定期公演Cプログラム〉

6月16日(金)NHKホール

ジャナンドレア・ノセダ(指揮)
ショスタコーヴィチ:交響曲第8番

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~パレルモ・マッシモ 本場ならではの〝声の饗宴〟~

名演が多かった6月は大いに迷った末にパレルモ・マッシモ劇場の公演から「椿姫」をピカイチとした。コロナ禍以降初となるイタリアの歌劇場の引っ越し公演で、久しぶりに本場ならではの〝声の饗(きょう)宴〟と歌にしなやかに寄り添うオケの柔らかなサウンドの魅力を楽しむことができた。次点はノセダ指揮、N響によるショスタコーヴィチの第8交響曲。戦争の暴力性、悲惨さ、そして訪れる悲しみと祈りなど、作曲家の思いを細密に描き出した凄絶(せいぜつ)な演奏に心打たれた。

来月のイチオシ

◆◆8月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈読売日本交響楽団 第664回名曲シリーズ〉

8月31日(木)サントリーホール

ローター・ツァグロゼク(指揮)
ブルックナー:交響曲第8番

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〈PMFオーケストラ東京公演〉

8月1日(火)サントリーホール

トーマス・ダウスゴー(指揮)/金川真弓(ヴァイオリン)
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲/ブルックナー:交響曲第9番

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~名匠ツァグロゼクで聴くブルックナー~

8月は各地で音楽祭が開催されるため東京での演奏会は少ないが、注目はドイツの名匠ローター・ツァグロゼクが客演する読響の名曲シリーズ。現在80歳と円熟の域に差し掛かったツァグロゼクがブルックナーの大曲をどのように聴かせるのか楽しみである。次点もブルックナーつながりで第9番を取り上げるPMFオケの東京公演。デンマークの実力派ダウスゴーと若者のオケによるブルックナーも興味深い。

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