ドイツ出身の指揮者、そしてソリストたちによる濃密なブラームスが聴衆を魅了
ドイツの実力派指揮者、ミヒャエル・ザンデルリンクが客演したN響の定期公演Aプロ初日。1曲目はクリスティアン&ターニャ・テツラフ兄妹を独奏にブラームスのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲。
クリスティアンのヴァイオリンは表現の切れ込みが鋭く、アグレッシブに音楽が進められていく。激しく弾くのに音程が怪しくなる場面は皆無でテクニック面での安定感は抜群。広いNHKホールの隅々にまでそのサウンドが響きわたる鳴りのよさも特筆すべきものであった。そんな兄のヴァイオリンにターニャは張り合うのではなくハーモニーを下支えするような雰囲気で演奏。随所で息の合った掛け合いを披露した。
一方、ザンデルリンクのタクトにリードされたN響は持ち前の重心の低い響きで力強く音楽の構造を構築し、独奏楽器と対話を繰り広げた。第2楽章、弱音での独奏楽器と木管陣のやり取りは繊細で美しかった。第3楽章の快活さも聴く者を惹(ひ)きつけるものがあった。
2曲目はシェーンベルク編曲によるブラームスのピアノ四重奏曲第1番。この編曲版、とかく評価が分かれる作品であるが、この日はその魅力が存分に引き出された秀演に仕上げられていた。N響のプログラム誌「フィルハーモニー」に掲載されている浅井佑太氏の曲目解説によるとシェーンベルクは編曲にあたり「ブラームスの様式に厳密にとどまり、もし今日彼が生きていたとしても、彼自身がやったであろう以上のことはしない」と語ったとされる。ところが、シェーンベルクのオーケストレーションではEs管クラリネット、コールアングレ、シロフォン、グロッケンシュピールなどのブラームスのオケ作品では使われたことのない楽器が採用されており、それらの楽器が活躍することによるブラームスらしからぬ響きが古くから論議の対象になってきた。
ザンデルリンクはその〝違和感〟を無理に調整してブラームスらしい響きに寄せようとするのではなく、ブラームス的な面とそうではない箇所を明確に色分けして聴かせることで、それぞれの美点を分かりやすく聴衆に伝えるかのような音楽作りを行った。それがかえって作品にある種の一貫した思想を生み出していたように聴こえたのは興味深いところ。
ブラームスらしからぬ箇所のハーモニーにウィーンの香りが内在しているように思えたのもこの演奏ならではの収穫であった。ザンデルリンクの要求にN響は濃密な響きを駆使しながら的確に応え、各首席奏者の安定したソロも相まって充実の演奏を聴かせた。終演後、オケが退場しても拍手は鳴りやまず、ザンデルリンクが舞台に再登場し喝采に応えていた。
(宮嶋 極)
公演データ
NHK交響楽団 第2064回定期公演Aプログラム
5月23日(土)18:00 NHKホール
指揮:ミヒャエル・ザンデルリンク
ヴァイオリン:クリスティアン・テツラフ
チェロ:ターニャ・テツラフ
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:長原 幸太
プログラム
ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲イ短調Op.102
ブラームス(シェーンベルク編):ピアノ四重奏曲第1番ト短調Op.25
アンコール(ヴァイオリン&チェロ)
コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲Op.7から第3楽章
他日公演
5月24日(日)14:00 NHKホール
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










