有力オーケストラの交響曲録音が勢ぞろい

ヨーロッパの名門、そしてピリオド楽器による新興勢力と、日本でも人気の高いオーケストラによる交響曲の新譜が、話題を呼んでいる。

<BEST1>

ロト&レ・シエクル マーラー:交響曲第4番

フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)/レ・シエクル/サビーヌ・ドゥヴィエル(ソプラノ)
マーラー:交響曲第4番ト長調
ハルモニアムンディ(キングインターナショナル) KKC-6565

ハルモニアムンディ(キングインターナショナル) KKC-6565
ハルモニアムンディ(キングインターナショナル) KKC-6565

<BEST2>

ティーレマン&ウィーン・フィル ブルックナー:交響曲第5番

クリスティアン・ティーレマン(指揮)/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ブルックナー:交響曲第5番変ロ長調
ソニー SICC-30602

ソニー SICC-30602
ソニー SICC-30602

<BEST3>

ユロフスキ&バイエルン州立歌劇場管 ベートーヴェン:交響曲第2番ほか

ウラディーミル・ユロフスキ(指揮)/バイエルン州立歌劇場管弦楽団
ベートーヴェン:交響曲第2番ニ長調/ブレット・ディーン「テスタメント」
バイエルン州立歌劇場レコーディングス(ナクソスジャパン) NYCX-10324

バイエルン州立歌劇場レコーディングス(ナクソスジャパン) NYCX-10324
バイエルン州立歌劇場レコーディングス(ナクソスジャパン) NYCX-10324

コメント

 フランソワ=グザヴィエ・ロトの快進撃が止まらない。マーラーの交響曲録音は、ピリオド楽器によるレ・シエクルと、ドイツの古豪、ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団を使い分ける形で進んでいる。前にご紹介した第3番と第5番では後者を起用したが、天国的とも評される第4番では、第1番「巨人」と同じく、みずから主宰する前者に戻った。ロトは解説書のインタビューで、ピリオド楽器をマーラー演奏に用いる意味合いに言及し、曲本来の色合いをもたらし、原点を確認する大切さを説いている。

 

 したがって本作には、新鮮な驚きが満載だ。弦楽器とほぼ対等のバランスで浮かぶ管楽器は作品の構造を一変させ、ちょっとした合いの手にも、はっとさせるインパクトがある。第1楽章から、ぼろぼろ目からウロコが落ちる。7月の東京オペラシティ公演で評判になったブルックナーもそうだったようだが、この手の原点を洗い直す解釈では、ロトの強みが最大限に発揮される。

 

 ブルックナー生誕200周年となる2024年に向け、クリスティアン・ティーレマンとウィーン・フィルは、交響曲の全曲録音と映像収録を着々と進めている。今回の第5番はCD5作目で、ほぼ折り返し点に来た。以前の強引なハッタリが影をひそめ、スムーズで細部まで磨きぬかれた練達の解釈を聴かせる。どっしりした重量感や揺るぎない呼吸には、ドイツ本流の高い安定感がある。全集後半の仕上がりも楽しみだ。

 

 ドイツのバイエルン州立歌劇場からは、再開後、最初の劇場楽団定期公演のライヴ盤が届いた(自主レーベル)。指揮は新たに音楽総監督に迎えられた俊英ウラディーミル・ユロフスキ。ベートーヴェンの有名な遺書に刺激された新作と、遺書と同時期の交響曲第2番を並べた意欲的な構成。見通しの良いタクトで、ホットなドラマを引きだしている。

深瀬 満
深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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