サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン CMGフィナーレ 2025

室内楽の祭典を鮮やかに締め括(くく)った濃密なフィナーレ

室内楽の祭典「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン」の最終日は「CMGフィナーレ2025」。2時間40分を超える盛り沢山のコンサートであった。

まず最初に登場したのは、カルテット風雅(落合真子、小西健太郎、川邉宗一郎、松谷壮一郎)。CMGフィナーレでは、サントリーホール室内楽アカデミーのフェロー(受講生)から1団体が出演することになっているが、今年選ばれたのは彼ら。昨年の秋吉台音楽コンクール室内楽(弦楽四重奏)部門で第1位を獲得している注目の若手弦楽四重奏団である。シューマンの弦楽四重奏曲第1番第1楽章を演奏。4人それぞれの能力が高く、アンサンブルも緊密である。

続いて、渡辺玲子、秋元孝介とフェロー(高麗愛子、鈴木双葉、宮之原陽太)とがバルトークのピアノ五重奏曲第1楽章を演奏した。渡辺が表情の大きな音楽でアンサンブルをリード。フェローたちも渡辺の動きによく反応。

バルトークのピアノ五重奏曲第1楽章
バルトークのピアノ五重奏曲第1楽章

ヘーデンボルク・トリオは、クライスラー絡みの4つの小品を取り上げた。ウィーンのサロンを思わせる温かい演奏。

そして、原田幸一郎、池田菊衛、磯村和英、毛利伯郎、堤剛がシューベルトの弦楽五重奏曲第2楽章を弾いた。原田、池田、磯村、毛利は室内楽アカデミーのファカルティ(講師)であり、堤は室内楽アカデミーのディレクターである。旋律を奏でる原田とピッツィカートの堤の対話、そして、他の三人のロングトーンでの抑揚など、レジェンドたちの音楽的な会話にあふれた演奏を堪能した。

レジェンドたちの音楽的な会話にあふれたシューベルト「弦楽五重奏曲第2楽章」

後半は、CMAアンサンブルによる芥川也寸志の「弦楽のための三楽章」で始まる。指揮者なしでの、フェロー15名のアンサンブル。フェローのなかには既にプロの音楽家として活躍している者もいるが、この日、コンサートマスターを務めた岸本萌乃加も読売日本交響楽団の団員である。岸本が良いリーダーシップを示し、キレの良い演奏となった。

CMAアンサンブルによる芥川也寸志の「弦楽のための三楽章」
CMAアンサンブルによる芥川也寸志の「弦楽のための三楽章」

吉野直子とベルリン・フィルのマリー=ピエール・ラングラメによるハープ二重奏は、2つの小品で和(なご)やかで優美なアンサンブルを聴かせてくれた。

葵トリオは、フェローの森智明を交えて、細川俊夫の「レテ(忘却)の水」を演奏。無音から高揚した音までがピアノ四重奏で描かれる。

最後はシューマン・クァルテットの登場。シュルホフの「弦楽四重奏のための5つの小品」(「ウィンナ・ワルツ風に」、「チェコ風に」、「タンゴ・ミロンガ風に」など)を取り上げ、その2曲目と3曲目の間に、チャイコフスキーの「アンダンテ・カンタービレ」を挟んだ。それぞれ少し捻りのある小品。チャイコフスキー作品を加えたのは「ロシア風」を添えるためであろうか。シューマン・クァルテットは、4人それぞれが技巧の冴えと音の豊かさを披露。16日間にわたる祭典を鮮やかに締め括(くく)った。

(山田治生)

シューマン・クァルテットの4人それぞれが技巧の冴えと音の豊かさを披露した

公演データ

サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン CMGフィナーレ 2025

6月22日(日) 14:00サントリーホール ブルーローズ(小ホール)

ヴァイオリン:原田幸一郎、池田菊衛、渡辺玲子
ヴィオラ:磯村和英
チェロ:堤剛、毛利伯郎
ハープ:吉野直子、マリー=ピエール・ラングラメ
弦楽四重奏:シューマン・クァルテット
ピアノ三重奏:ヘーデンボルク・トリオ、葵トリオ
サントリーホール室内楽アカデミー選抜フェロー

プログラム
シューマン:弦楽四重奏曲第1番イ短調 Op.41-1より第1楽章
バルトーク:ピアノ五重奏曲ハ長調より第1楽章
ワーグナー(ヴィルヘルミ、クライスラー 編曲):楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より 第3幕 ヴァルターの歌〝朝はバラ色に輝いて〟
クライスラー:「ウィーン風小行進曲」
クライスラー:シンコペーション
アイルランド民謡(クライスラー 編曲):ロンドンデリーの歌
シューベルト:弦楽五重奏曲ハ長調 D.956より第2楽章
芥川也寸志:弦楽のための三楽章(トリプティーク)
アルベニス(キャンバーン編曲):組曲「スペインの歌」Op.232より第4曲「コルドバ」
ラヴェル(ソーニエール 編曲):組曲「鏡」より第4曲〝道化師の朝の歌〟
細川俊夫:「レテ(忘却)の水」
シュルホフ:弦楽四重奏のための5つの小品より第1曲「ウィンナ・ワルツ風に」、第2曲「セレナーデ風に」
チャイコフスキー:弦楽四重奏曲第1番ニ長調 Op.11より第2楽章
シュルホフ:弦楽四重奏のための5つの小品より第3曲「チェコ風に」、第4曲「タンゴ・ミロンガ風に」、第5曲「タランテラ風に」

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山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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