デビュー15周年 三浦文彰「ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会Ⅱ」

2月に続くベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会のツィクルス2回目を間近に控える三浦と清水 (C) Yuji Hori
2月に続くベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会のツィクルス2回目を間近に控える三浦と清水 (C) Yuji Hori

人気ヴァイオリニストの代表格となった三浦文彰は30代に入り、確かな存在感が一層、高まってきた。そんな彼が、デビュー15周年の節目を祝う一大プロジェクトとして始めたのが、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会だ。心強い先輩の清水和音をパートナーに迎え、2月に催した初回は無事、成功裏に終わった。続くツィクルス第2回が7月15日に迫っている。(深瀬 満)

 

昇竜の勢いにある若武者の三浦の相手に、円熟の域に達した清水を配するアイデアは実に絶妙。この二人、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ全集のCD(エイベックス)を今春に出すなど、すでに十分な共演を重ねている。ベートーヴェンのツィクルス初回でも、それぞれ個性を発揮し、当意即妙(とういそくみょう)なライヴを展開しただけに、2回目のステージが一段と気になってくる。曲目は第3、6、7番と、さらにベートーヴェンらしい世界へ足を踏み入れる。

ツィクルス第1回目、サントリーホールにおける公演
ツィクルス第1回目、サントリーホールにおける公演

初回で取り上げた4曲のうち第1、2番は、ヴァイオリンの助奏を伴ったピアノフォルテのためのソナタ、という初期のスタイルを採る。ピアノが主導権をもつが、そこは老獪(ろうかい)な清水のこと、三浦を引き立てつつ、様式感を踏まえた優美なピアニズムで唸らせた。三浦は、新たに愛器としたグァルネリ・デル・ジェス「カストン」の濃厚な音色を武器に、豊かな音量で悠然とヴィブラートをかける巨匠風の構えで応じた。

ツィクルス第2回は、この2曲と同じ「作品12」のセットの最後を飾る第3番で、幕を開ける。困難な技巧が求められるピアノと、より積極的に振る舞うヴァイオリンとが、どう絡んでいくのか、最初から目が離せない。

 

初回の後半に置かれた第4番、第5番「春」は2曲セットで構想され、ヴァイオリンとピアノの関係が対等になって、ソナタの歴史を変えた。2回目では、これに続く「作品30」の3曲から、第6、7番が取り上げられる。1801~2年に書いた作品30で、ベートーヴェンはヴァイオリン・ソナタのスタイルをさらに変革した。ヴァイオリンに一段と高度な演奏技術を求め、曲の形式でも新しい試みに挑むなど、書法を進化させた。1802年といえば「ハイリゲンシュタットの遺書」を残した一方、交響曲では第3番「英雄」を構想するなど、ベートーヴェン自身も激動の時期にさしかかっていた。

そんな中での第6番は、洒脱な感覚と余裕ある静ひつさを漂わせる佳品で、なんとも味わい深い。これに対し、交響曲第5番「運命」などと同じハ短調の第7番は、緊張感が支配する劇的な曲想が特徴。三浦と清水のコンビは、両者のコントラストに留意しながら、ベートーヴェンの作風が着々と深化するさまを、きっちり明かしてくれるだろう。

一見、地味にみえる3曲だが、楽聖のヴァイオリン・ソナタを聴き進める上での重要度は、他の作品に引けを取らない。サントリーホールでの真剣勝負を、ぜひ見届けたい。

円熟を極める清水をパートナーに

公演データ

清水和音×三浦文彰 ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会Ⅱ

7月15日(月・祝)14:00 サントリーホール
7月27日(土)14:00 ザ・シンフォニーホール(大阪)

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ
第3番変ホ長調Op.12-3
第6番イ長調Op.30-1
第7番ハ短調Op.30-2

三浦文彰(ヴァイオリン)
清水和音(ピアノ)


◆関連サイト

清水和音×三浦文彰 ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会Ⅱ

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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