今回は6月に行われたステージからピカイチを、8月開催予定の公演の中からイチオシを選者の皆さんに紹介していただきました。6月は英国ロイヤル・オペラ(ROH)とニューヨーク・メトロポリタン歌劇場管弦楽団(METオケ)の競演など話題満載の1カ月となりました。そうした中で5人の選者は何をピカイチに挙げたのでしょうか……。
先月のピカイチ
◆◆24年6月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈東京フィルハーモニー交響楽団 第1001回サントリー定期〉
6月24日(月)サントリーホール
チョン・ミョンフン(指揮)/務川慧悟(ピアノ)/原田節(オンド・マルトノ)
メシアン:トゥランガリーラ交響曲
次点
〈東京都交響楽団 第1000回定期演奏会B〉
6月4日(火)サントリーホール
エリアフ・インバル(指揮)
ブルックナー:交響曲第9番(2021~22年SPCM版第4楽章付)日本初演
コメント
~入魂の快演2選 国内オケの高水準に感慨~
6月のオーケストラ界には、高水準の入魂の快演が目白押しだった。チョン・ミョンフンと東京フィルの「トゥランガリーラ」は、まさに豪壮華麗、「沸騰する愛の音楽」。インバルと都響のブルックナーの9番も、身の毛のよだつような、魔性的な力を噴出した豪演だ(補訂版の終楽章はブルックナーに似て非なる音楽なので、まずどうでもよい)。この他、デュトワ指揮新日本フィルと、阪哲朗指揮山形響の東京公演も加えたかったところだが。
来月のイチオシ
◆◆8月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈セイジ・オザワ 松本フェスティバル(OMF) オーケストラコンサートB・C〉
8月16日(金)、17日(土)、21日(水)、22日(木)キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
アンドリス・ネルソンス(指揮)/サイトウ・キネン・オーケストラ
ブラームス:交響曲第1番、第2番(16、17日)/同:交響曲第3番、第4番(21、22日)
次点
〈フェスタ サマーミューザKAWASAKI 2024 新日本フィルハーモニー交響楽団〉
8月2日(金)ミューザ川崎シンフォニーホール
井上道義(指揮)
マーラー:交響曲第7番「夜の歌」
※本公演は記事掲載後に出演者が変更となりました
変更後⇒ジョナサン・ノット(指揮)
コメント
~OMF、小澤の遺志をブラームス・ツィクルスで体現~
故・小澤征爾総監督の遺志を継ぐセイジ・オザワ 松本フェスティバルが放つ初の「同一年内の交響曲全曲連続演奏会」。ブラームスの交響曲全4曲を2週に分けて2回ずつ、アンドリス・ネルソンスが指揮する。これらは小澤とサイトウ・キネン・オーケストラの活動の初期を飾ったレパートリーだったのだ。マーラーの神秘的な曲想にあふれた「夜の歌」を井上道義が指揮するのも興味津々、ショスタコーヴィチばかりが彼の十八番ではない。
先月のピカイチ
◆◆24年6月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈英国ロイヤル・オペラ 日本公演「リゴレット」〉
6月25日(火)神奈川県民ホール
アントニオ・パッパーノ(指揮)/オリヴァー・ミアーズ(演出)/ハビエル・カマレナ(マントヴァ公爵)/エティエンヌ・デュピュイ(リゴレット)/ネイディーン・シエラ(ジルダ)/ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団、他
ヴェルディ:歌劇「リゴレット」
次点
〈メトロポリタン歌劇場管弦楽団 日本公演〉
6月27日(木)サントリーホール
ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)/エリーナ・ガランチャ(メゾ・ソプラノ)/クリスチャン・ヴァン・ホーン(バリトン)/メトロポリタン歌劇場管弦楽団
ワーグナー:「さまよえるオランダ人」序曲/ドビュッシー(ラインスドルフ編):「ペレアスとメリザンド」組曲/バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」(演奏会形式)
コメント
~パッパーノ音楽監督の掉尾(とうび)にふさわしいROHの「リゴレット」~
ロイヤル・オペラの「リゴレット」は、パッパーノの手腕が光ったドラマ性抜群の上演。たゆまぬ緊迫感と、リゴレット、ジルダ両役のリアルな演唱が相まった迫真的舞台に、終始惹きつけられた。中でも瀕死のジルダの絶妙な歌声には感嘆しきり。次点は、チョン・ミョンフン/東京フィルの「トゥランガリーラ交響曲」との選択に迷ったが、「青ひげ〜」の両歌手の強靭な歌声と〝オペラ・オーケストラ〟の本領に魅せられたMETオケに。
来月のイチオシ
◆◆8月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈セイジ・オザワ 松本フェスティバル オーケストラコンサートA〉
8月10日(土)、11日(日)キッセイ文化ホール
沖澤のどか(指揮)/エルザ・ヴァン・デン・ヒーヴァー*(ソプラノ)/サイトウ・キネン・オーケストラ
メンデルスゾーン:「夏の夜の夢」より/R・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」/R・シュトラウス:四つの最後の歌
次点
〈フェスタ サマーミューザKAWASAKI 2024 新日本フィルハーモニー交響楽団〉
8月2日(金)ミューザ川崎シンフォニーホール
井上道義(指揮)
マーラー:交響曲第7番「夜の歌」
※本公演は記事掲載後に出演者が変更となりました
変更後⇒ジョナサン・ノット(指揮)
コメント
~沖澤&サイトウ・キネン・オケのシンフォニック・プログラムに注目~
サイトウ・キネン・オーケストラは、一昨年「フィガロの結婚」で快演を展開した沖澤が、強者オケを振ってシンフォニック・レパートリーをどう表現するか? 大いに注目される。むろんもう一つのプロ、ネルソンス指揮のブラームス交響曲全曲にも期待。また、渾身の名演が続く井上のラスト・イヤーに、マーラーの中でも難儀な「夜の歌」を生体験できるのは嬉しい限り。ただここは、フェスタ サマーミューザ全体を推す意味合いも強い。
先月のピカイチ
◆◆24年6月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈メトロポリタン歌劇場管弦楽団 日本公演〉
6月25日(火)サントリーホール
ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)/エリーナ・ガランチャ(メゾ・ソプラノ)/クリスチャン・ヴァン・ホーン(バリトン)/メトロポリタン歌劇場管弦楽団
ワーグナー:「さまよえるオランダ人」序曲/ドビュッシー(ラインスドルフ編):「ペレアスとメリザンド」組曲/バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」(演奏会形式)
次点
〈サントリーホール チェンバーミージック・ガーデン 小菅 優プロデュース「月に憑かれたピエロ」
6月5日(水)ブルーローズ
ピアノ:小菅優/ヴァイオリン&ヴィオラ:金川真弓/チェロ:クラウディオ・ボルケス/フルート&ピッコロ:ジョスラン・オブラン/クラリネット&バス・クラリネット:吉田誠/メゾ・ソプラノ:ミヒャエラ・ゼリンガー
ストラヴィンスキー:シェイクスピアの3つの歌/ラヴェル:「マダガスカル島民の歌」/ベルク:室内協奏曲より第2楽章アダージョ(ヴァイオリン、クラリネット、ピアノ用編曲)/シェーンベルク:「月に憑かれたピエロ」他
コメント
~ネゼ=セガン&METオーケストラ、圧巻の「青ひげ公…」~
ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の管弦楽団がMETオーケストラの名称で初の単独来日、現音楽監督ネゼ=セガンとのコンビのお披露目でもあった。AB2つのプログラムではオペラ色の強いA、とりわけ2人の強力なソリストをそろえたバルトーク「青ひげ公の城」が圧巻だった。サントリーCMGの「月に憑かれたピエロ」はオーストリアの超人メゾ・ソプラノ、ゼリンガーを得て小菅優が傑出した音楽性を発揮した。
来月のイチオシ
◆◆8月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈セイジ・オザワ 松本フェスティバル オーケストラコンサートA〉
8月10日(土)、11日(日)キッセイ文化ホール
沖澤のどか(指揮)/エルザ・ヴァン・デン・ヒーヴァー*(ソプラノ)/サイトウ・キネン・オーケストラ
メンデルスゾーン:「夏の夜の夢」より/R・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」/R・シュトラウス:四つの最後の歌*
次点
〈東京都交響楽団 第1006回定期演奏会B〉
8月9日(金)サントリーホール
ダニエル・ハーディング(指揮)/ニカ・ゴリッチ(ソプラノ)
ベルク:7つの初期の歌/マーラー:交響曲第1番「巨人」
コメント
~両公演、指揮者とオケの相性はいかに~
夏の松本の音楽祭は創立以来の総監督、小澤征爾を失って初めての年。サイトウ・キネン・オーケストラ首席客演指揮者に就いた沖澤のどかとの今後を占う上で、重要な節目になるコンサートだ。ハーディングと都響の初共演は2021年7月に予定されながら、コロナ禍で流れ、3年ぶりに実現する。どちらのコンサートにも、ソプラノ独唱と管弦楽の共演の楽しみが組み込まれている。
先月のピカイチ
◆◆24年6月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈メトロポリタン歌劇場管弦楽団 日本公演〉
6月25日(火)サントリーホール
ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)/エリーナ・ガランチャ(メゾ・ソプラノ)/クリスチャン・ヴァン・ホーン(バリトン)/メトロポリタン歌劇場管弦楽団
ワーグナー:「さまよえるオランダ人」序曲/ドビュッシー(ラインスドルフ編):「ペレアスとメリザンド」組曲/バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」(演奏会形式)
次点
〈ベルチャ・クァルテット 日本公演〉
6月28日(金)トッパンホール
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第4番/ブリテン:弦楽四重奏曲第3番/ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第12番/(アンコール)ドビュッシー:弦楽四重奏曲より第3楽章
コメント
~演奏会形式オペラと室内楽、それぞれ本領発揮の名演~
ネゼ=セガン率いるMETオーケストラは歌劇場のオケらしいプログラミング、オペラ3作の魅力と繋がりを十二分に味わうことが出来た。ドビュッシーのファンタジックな響きも出色だったが、ガランチャ、ヴァン・ホーンが迫真の声を聴かせた「青ひげ公の城」はMETならではの名演。ベルチャ・クァルテットのブリテンは、弦楽四重奏の新しい可能性が満載で、全てのフレーズは勿論、音の余白にさえ聴き入ってしまうほど魅せられた。
来月のイチオシ
◆◆8月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈ミシェル・プラッソン 日本ラストコンサート〉
8月13日(火)、15日(木)東京オペラシティ コンサートホール
ミシェル・プラッソン(指揮)/大村博美(ソプラノ)/小森輝彦(バリトン)/二期会合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団
ラヴェル:「マ・メール・ロワ」、「ダフニスとクロエ」より第2組曲/フォーレ:「レクイエム」
次点
〈サントリー音楽賞受賞記念コンサート オペラ「リナルド」〉
8月17日(土)サントリーホール
濱田芳通(指揮・リコーダー)/中村敬一(演出)/彌勒忠史(リナルド)/中川詩歩(アルミレーナ)/中島俊晴(ゴッフレード)/中山美紀(アルミーダ)/アントネッロ(管弦楽)他
ヘンデル:オペラ「リナルド」
コメント
~フランス音楽の巨匠プラッソンで聴くフォーレの「レクイエム」~
90歳のプラッソンにとって最後の来日コンサートは、得意とするフランスものが並ぶ。19年に振ったマスネの「エロディアード」で煌めく旋律を絶妙なバランスで歌い上げたのが記憶に新しい。フランス・オペラで共演を重ねてきた二期会合唱団、東フィルとともに有終の美を飾るだろう。日本の古楽界を牽引してきた濱田芳通とアントネッロによるヘンデルの「リナルド」、サントリーホールでバロック・オペラの極みに触れる貴重な機会だ。
先月のピカイチ
◆◆24年6月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈英国ロイヤル・オペラ 日本公演「リゴレット」〉
6月22日(土)神奈川県民ホール
アントニオ・パッパーノ(指揮)/オリヴァー・ミアーズ(演出)/ハビエル・カマレナ(マントヴァ公爵)/エティエンヌ・デュピュイ(リゴレット)/ネイディーン・シエラ(ジルダ)/ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団、他
ヴェルディ:歌劇「リゴレット」
次点
〈メトロポリタン歌劇場管弦楽団 日本公演〉
6月27日(木)サントリーホール
ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)/エリーナ・ガランチャ(メゾ・ソプラノ)/クリスチャン・ヴァン・ホーン(バリトン)/メトロポリタン歌劇場管弦楽団
ワーグナー:「さまよえるオランダ人」序曲/ドビュッシー(ラインスドルフ編):「ペレアスとメリザンド」組曲/バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」(演奏会形式)
コメント
~名門オペラ劇場の底力が存分に発揮されたROHの「リゴレット」~
音楽監督パッパーノの任期の締めくくりとなったROH日本公演。歌唱、演技、演奏が混然一体となったち密なステージはパッパーノ時代の集大成にふさわしい充実ぶり。デュピュイ(題名役)、シエラ(ジルダ)ら歌手陣の役を掘り下げた歌唱と演技など名門オペラ劇場の底力が存分に発揮された公演だった。ネゼ=セガン率いるMETオケも特に「青ひげ」でのガランチャ、ホーンの2人とオケが緊密に絡み合っての切れ込み鋭い表現に圧倒された。
来月のイチオシ
◆◆8月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈東京都交響楽団 第1006回定期演奏会B/都響スペシャル〉
8月9日(金)、10日(土)サントリーホール
ダニエル・ハーディング(指揮)/ニカ・ゴリッチ(ソプラノ)
ベルク:7つの初期の歌/マーラー:交響曲第1番「巨人」
次点
〈フェスタ サマーミューザKAWASAKI 2024 新日本フィルハーモニー交響楽団〉
8月2日(金)ミューザ川崎シンフォニーホール
井上道義(指揮)
マーラー:交響曲第7番「夜の歌」
※本公演は記事掲載後に出演者が変更となりました
変更後⇒ジョナサン・ノット(指揮)
コメント
~都響得意のマーラーでハーディングとの初共演~
ハーディングと都響の初共演。それも都響が得意とするマーラーでとなれば注目せざるを得ない。世界の名門オケの常連であるハーディングはその楽団のポテンシャルを存分に引き出す卓越した手腕で知られる。それは2012年のサイトウ・キネン・オケへの客演でも明らか。都響にどんな化学反応をもたらすのか楽しみ。次点は勇退までのカウントダウンの過程で名演を連発している井上が新日本フィルを指揮してのマーラー7番。深みのある「夜の歌」が期待される。