端正な秀演で幕を開けたN響創立100年記念のベートーヴェン交響曲ツィクルス
来月、創立100年を迎えるNHK交響楽団。記念シリーズの一環として9月から12月までの定期公演Cプログラムでベートーヴェンの交響曲を1番から8番まで取り上げ、年末の第9公演で完結させる交響曲ツィクルスを行う。その第1弾となる9月C定期、1番、3番の公演を聴いた。指揮は首席指揮者のファビオ・ルイージ。
第1番は弦楽器が14型の編成でヴィブラートは少し抑制的ではあったが全曲にわたってかけていた。管楽器は譜面の指定通りの数でアシスタント奏者はなし。楽譜はベーレンライター社の校訂版を採用。譜面に記された繰り返しはすべて実行し、全曲の所要時間は約25分とやや速めのテンポ設定。全体としてはピリオド奏法に寄せたスタイルというよりは、現代的な感覚にあふれた明るく清新なイメージの演奏であった。
低弦楽器が基本構造をしっかりと構築した上に高弦や管楽器が活発なアンサンブルを繰り広げていく、N響らしさが前面に出た音楽作り。この日、チェロは向山佳絵子元首席がゲストとして久しぶりにトップを務めていた。トランペットを少し強めに演奏させることで作品の持つ若々しい推進力が勢いをもって表出されていたところはルイージの工夫であろう。トランペットの1番は菊本和昭首席で、安定した音程で伸びのある美音を響かせた。
第3番では弦楽器が16型、テンポを幾分落として各フレーズを丁寧に掘り下げていくようなアプローチ。全体の所要時間は約50分強。使用譜は1番と同じくベーレンライター版。響きの作り方は第1番と共通だったが、第1番の時代に比べて対位法などベートーヴェンの作曲手法の進化に光を当てようとのルイージの意図が伝わってきた。管楽器は歌心にあふれた演奏で、特に第2楽章のオーボエ(中村周平首席)のソロ、第3楽章トリオのホルンの三重奏(今井仁志首席、勝俣泰、庄司雄大)が印象に残った。
N響のSNSでティンパニの久保昌一首席がベートーヴェンのティンパニの使い方の革新性を紹介していたが、その言葉通り明確な音程感をもって、全体を引き締める重要な役割を見事に果たしていた。フォルティシモでも濁った衝撃音を出さない彼のティンパニは師のペーター・ゾンダーマン(故人、元シュターツカペレ・ドレスデン首席)の名人芸を彷彿とさせてくれるものであった。
記念ツィクルスの初回は端正ながらもN響の合奏力と個々のプレイヤーの高いポテンシャルを示す上々のスタートとなった。次回(10月23、24日)はクリストフ・エッシェンバッハの指揮で第8番、第5番などが取り上げられる。
(宮嶋 極)
公演データ
NHK交響楽団 第2071回 定期公演 Cプログラム
N響100年特別企画 ベートーヴェン交響曲全曲演奏1
9月25日(金)19:00 NHKホール
指揮:ファビオ・ルイージ
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:長原 幸太
プログラム
ベートーヴェン:交響曲第1番 ハ長調Op.21
ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調Op.55「英雄」
他日公演
9月26日(土)14:00 NHKホール
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










