ディマ・スロボデニューク指揮 NHK交響楽団第2024回定期公演Bプログラム

変化に富んだロシア・プログラムを表情豊かに聴かせる

11月のN響B定期は、1975年モスクワに生まれたフィンランドの指揮者ディマ・スロボデニュークの登場。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(独奏はニキータ・ボリソグレブスキー)、プロコフィエフのバレエ音楽「石の花」〜「銅山の女王」「結婚組曲」、ストラヴィンスキーの3楽章の交響曲というロシア・プログラムが披露された。

フィンランドの指揮者、ディマ・スロボデニュークが登場 写真提供:NHK交響楽団
フィンランドの指揮者、ディマ・スロボデニュークが登場 写真提供:NHK交響楽団

スロボデニュークは2019年7月に続く2度目の共演(定期は初)、ボリソグレブスキーは、2017年7月のチャイコフスキー、19年12月のグラズノフの協奏曲に続く3度目の共演となる。
それだけに前半のチャイコフスキーの協奏曲は、安定感のある完成度の高い演奏となった。ボリソグレブスキーは、アトリウム弦楽四重奏団の第1ヴァイオリン奏者としてサントリーホール・チェンバーミュージック・ガーデンでベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を演奏しているとの由。今回もそうした高い技量と的確なアプローチでほぼ完璧なソロを聴かせた。彼は豊潤な音でよく歌う。それゆえ第2楽章ではいつも以上に濃厚な味わいが醸し出されたし、バックが快速テンポで突き進んだ第3楽章も鮮やかな快演だった。アンコールはバッハの無伴奏パルティータ第2番のサラバンド。

高い技量と的確なアプローチでほぼ完璧なソロを聴かせたニキータ・ボリソグレブスキー 写真提供:NHK交響楽団
高い技量と的確なアプローチでほぼ完璧なソロを聴かせたニキータ・ボリソグレブスキー 写真提供:NHK交響楽団

「石の花」は、スロボデニュークが今回と同じ楽曲をCD録音(オケはラハティ響)している演目だけに、ストレートかつ表情豊かな演奏が展開された。ただし、今ひとつ即物的な音楽ゆえか、一度の生演奏で曲の魅力を実感するのは難しいとの印象も受けた。ストラヴィンスキーは、以前パーヴォ・ヤルヴィが創造したモダンでシャープな切れ味よりも、民族色や温度を強く感じさせる方向性。新古典主義時代の曲なのでこれも1つの在り方だろう。

それにしてもN響の対応力と表現力は、今更ながら素晴らしい。特に今回は、雄弁で強靭な管楽器陣─中でもオーボエ客演首席の吉井瑞穂─にいたく感心させられた。

(柴田克彦)

あらためてN響の対応力と表現力の素晴らしさを実感する演奏だった 写真提供:NHK交響楽団
あらためてN響の対応力と表現力の素晴らしさを実感する演奏だった 写真提供:NHK交響楽団

※取材は11月21日(木)の公演

公演データ

NHK交響楽団第2024回 定期公演Bプログラム

11月21日(木)、22日(金)19:00サントリーホール大ホール

指揮:ディマ・スロボデニューク
ヴァイオリン:ニキータ・ボリソグレブスキー
管弦楽:NHK交響楽団

プログラム
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
プロコフィエフ:バレエ音楽「石の花」─「銅山の女王」「結婚組曲」
ストラヴィンスキー:3楽章の交響曲

ソリスト・アンコール
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV1004サラバンド

 

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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