国内最大の音楽フェスティバル、東京・春・音楽祭の芦田尚子事務局長に聞く、今年の同音楽祭の聴きどころ、観どころ紹介の第2回目。今回は主に東京文化会館大ホールで開催されるオーケストラの公演について聞いた。
(取材・構成 宮嶋 極)
今年の東京・春・音楽祭の聴きどころ、観どころ(上)はこちら
——次に東京文化会館大ホールで開催されるオーケストラなどの大規模公演についてご紹介ください。
芦田 (合唱付きの管弦楽の大作を演奏する)合唱の芸術シリーズはこれまで東京都交響楽団さんとご一緒していたのですが、今年はスケジュールが合わなかったため、「パルジファル」に続いてヤノフスキさんとN響の組み合わせでベートーヴェンのミサ・ソレムニスを取り上げます。ベートーヴェン晩年の大作にヤノフスキさんがどのような思いで取り組まれるのか、「パルジファル」と同じく、マエストロご自身はこの先、そう何度も指揮できるような作品ではないとお考えなので、私たちも昨年から打合せを重ねて準備を進めてきました。さらにこの作品は元々ベートーヴェン生誕250年の2020年に企画していたのですが、コロナ禍で中止になったことから、いわば5年越しの構想実現であり、私たちとしても楽しみにしています。

——独唱は?
芦田 ソプラノのアドリアナ・ゴンサレスさんを除いて「パルジファル」のソリストがそのまま残って出演します。
——「パルジファル」ではクンドリを歌うターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(メゾ・ソプラノ)、パルジファル役のステュアート・スケルトン(テノール)、グルネマンツ役のタレク・ナズミ(バス)ですね。〝ミサソレ〟は合唱も活躍しますね。
芦田 合唱が重要な役割を担う大作だけに東京オペラシンガーズも大活躍してくれることと思います。先ほどお話しした通り、マエストロは相当の思いをもって臨んでいますので、かなりの高いレベルの演奏をお届けできるものと確信しています。

——ムーティ指揮の東京春祭オーケストラの公演も予定されています。
芦田 今回はイタリアの作品を集めたプログラムを披露します。前半はイタリア・オペラの序曲や間奏曲を集めた構成です。後半はレスピーギの「ローマの松」を演奏します。
今までムーティさんの指揮でヴェルディの序曲などを取り上げたことはありましたが、レスピーギは初めてとなります。お客さまの期待も高まっているそうです。(チケットは完売)昨年のイタリア・オペラ・アカデミーで演奏したヴェルディの「アッティラ」や春の「アイーダ」も毎日クラシックナビをはじめ各方面から高い評価をいただきましたが、やはりムーティさんが指揮する若い音楽家たちのオーケストラとの組み合わせに皆さまが注目してくださっていることが実感されます。また、マエストロも紹介したい曲があり、それがカタラーニのコンテンプラツィオーネです。ヨーロッパでも何度か指揮をしているそうで、こちらもお楽しみいただければ、と思います。

——イタリア・オペラ・アカデミーは昨年と同じく秋開催ですね?
芦田 秋に開催することになっていて、現在、細部を詰めているところなので、音楽祭の開催中には詳細がオープンになっているはずです。加えてマエストロが初めて来日してこの春でちょうど50年になります。1975年3月にカール・ベームさんとともにウィーン・フィルを率いて来日されました。マエストロはいつもその話をなさるのですが、それだけ思い入れの深い節目の年なので、プログラムを何にしようかという相談を随分してきました。今年、ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートを指揮したので、ウィンナ・ワルツを演奏してもいいとのお話もありましたが、せっかくの節目なので、これまで(東京春祭で)やったことのない作品、そして逆にこれまでマエストロが紹介してきたことの集大成という意味では、イタリア・オペラを入れた方がいいのでは、とのご相談もしました。こうした経緯で今年のプログラムが決まりましたが、本当にお楽しみいただけるものだと考えています。

リッカルド・ムーティの初来日は前述のとおり1975年3月のウィーン・フィルの来日公演。当時33歳のムーティはベームの副指揮者的な位置付けで帯同したもので、ブラームスの交響曲第4番とドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」をそれぞれメインに据えたプログラムで東京、大阪、名古屋、札幌などで公演を行った。歴史的名演といわれたベームとの演奏とは、ガラリと趣(おもむき)を異にしたサウンドをウィーン・フィルから引き出し、多くの音楽ファンに強烈な印象を残した。
※各公演の詳細は東京・春・音楽祭のホームページをご参照ください。
㊦室内楽やリサイタルなどの注目公演に続く

みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。