~115~ オーケストラのエキストラをめぐって

存続が危ぶまれる中、多くの聴衆が集った神戸市室内管弦楽団の6月定期演奏会
存続が危ぶまれる中、多くの聴衆が集った神戸市室内管弦楽団の6月定期演奏会 (C)米田フォト

神戸市からの補助金の打ち切りが問題となっている神戸市室内管弦楽団。多くの人々が注目していた2026年6月の定期演奏会では、ややマニアックなプログラムにも関わらず、ホールには満席に近い約1700名が来場し、多くの聴衆の楽団を支持する気持ちが示された。

その演奏会が終わったあと、神戸市長は気になったこととして「あのすばらしい演奏が、客演の演奏者が大きな役割を果たして実現されたということ」(注:報道によると43名中19人、つまり約4割が客演奏者だった)をあげた。そして、「守らなければいけないという対象の神戸市室内管弦楽団は、そのすばらしい演奏をされた神戸市室内管弦楽団と同じものなのか」という疑問も呈した。その発言は多分に政治的でここでそれについては多くを述べないが、オーケストラにおける客演奏者の存在については改めて考える必要があると思う。

オーケストラ業界において、客演奏者のことをエキストラ(あるいは略して「トラ」)と呼ぶ。オーケストラはエキストラを加えて演奏会をするのが普通である。大きな編成の曲のときはもちろん、組織である以上、メンバーが順番に(ローテーションで)休みをとっていったりもするので、それを補充するエキストラは必ず必要である。エキストラに頼る必要のないほど余裕をもって正団員を擁しているオーケストラは、世界に数えるほどしかないだろう。

オーケストラのエキストラは、映画のエキストラのように誰でもいいということはない。オーディションなしで本番を任せるわけなので、すでにまわりから認められている人しかエキストラの仕事はまわってこない。オーケストラによっては、正団員ではないけれど、常連のように招かれるエキストラもいて、彼らは「常トラ」と呼ばれている。多くのオーケストラでは、各パートに「エキストラ係」がいて、正団員が休むときには、エキストラ係が、人脈を使って、信頼のおける奏者を集めている。

また、楽団が採用を考えている首席クラスの奏者をゲストとして呼んでみて、楽団との相性を試すケースもある。そのほか、オーケストラが独自のアカデミーを持つところもあり、そういうところでは、アカデミー生はエキストラとして本番に出演しながら学ぶ。正団員とアカデミー生とで演奏上の区別はない。オーケストラのアカデミーは、教育システムであると同時に若い人材の確保の場としても機能している。

つまり、オーケストラにおいて、エキストラは、単なる数合わせではない。エキストラを含めた総合力こそがオーケストラの力だといえる。

公営オーケストラの場合、最も大切なことは、聴衆(市民)に上質の音楽を届けられるかどうかではないだろうか。例えば、水戸市の水戸室内管弦楽団の場合、春秋の演奏会のたびに、世界中から優秀な奏者がメンバーとして集うスタイルが取られている。神戸市をはじめとするそれぞれの自治体で、市民に音楽文化を還元する最良の方法はどうあるべきなのかが、今まさに問われている。

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山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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