今年のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサートでは、ヨーゼフ・シュトラウスの作品が8曲も取り上げられた。そのうち7曲はニューイヤー・コンサートでの初レパートリーであった。
ヨーゼフ・シュトラウスは、“ワルツ王”ヨハン・シュトラウス2世の弟であり、ヨハン・シュトラウス1世の息子である。本人は、エンジニアの道を歩むつもりであったが(実際、ウィーン工科大学の前身の総合技術学校で学んだ)、父の急逝により「シュトラウス楽団」を受け継いだ兄が体を壊すほどの多忙であったので、母の説得によって、兄の代役を務めるようになり、音楽界に入った。
彼の最も演奏頻度の高い作品は「天体の音楽」であろう。カラヤンが唯一登場した1987年のニューイヤー・コンサートとクライバーが2度目に登場した1992年とで、「天体の音楽」が演奏され、この曲が真の傑作であることに気づかされた。
ヨーゼフ自身が理系の道を進んでいたこともあり、彼の作品には、テクノロジーや自然科学と関わりの深い作品がある。「天体の音楽」もそうであるし、「金星の軌道」、「ディナミーデン(秘めた引力)」などもそれにあたる。また、自然そのもの(特に鳥)を愛でるような作品も多い。「オーストリアの村つばめ」や「とんぼ」、そして今年のニューイヤー・コンサートでもとりあげられた「まひわ」などである。
ヨーゼフとヨハン2世との大きな違いに、ヨーゼフは兄のようにオペレッタの創作に足を踏み入れなかったことがあげられる。その分、ヨーゼフは、純音楽志向が強かったように思われる。今年のニューイヤー・コンサートで演奏されたオーケストラ・ファンタジー「アレグロ・ファンタスティーク」はその代表例の一つといえよう。「愛の真珠」も演奏会用ワルツと銘打たれ、彼は、踊るワルツではなく、聴くワルツを考えたに違いない。そして、ヨーゼフの音楽は、兄の音楽よりも、哀愁を感じさせる。
今年のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートは、第1ヴァイオリン16名のフル編成で演奏されていたが、もともとの「シュトラウス楽団」の編成はそんなに大きなものではなかった。ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートの始まりが1939年の大晦日コンサートであることを考えたとき、一度、19世紀後半のシュトラウス・ファミリー当時の編成でウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートを聴いてみたいという思いに駆られる。古楽演奏のパイオニア、アーノンクールが登場したときに、19世紀後半の奏法や編成を取り入れた〝オーセンティック〟な演奏を聴かせてくれたら面白かったのにと今でも思う。
そのほか今のニューイヤー・コンサートを見ていて思うのは、一度だけカラヤンの時にそうであったように、独唱者を招けば、一層華やかなものになるであろうということ。もちろん、ウィーン・フィルが主役であり、それだけで華やかではあるが、また、華麗なゲストを交えてのウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートを聴いてみたい。
やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。