今年の3月、東京の桜はつぼみのままだったが、音楽界は東京・春・音楽祭が開幕するなど名演、名舞台が目白押しで、桜よりひと足早く〝満開〟の様相を呈した。そこで今回は3月開催のステージからピカイチを、5月に予定されている公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただいた。
先月のピカイチ
◆◆24年3月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈オーケストラ・アンサンブル金沢 第479回定期公演〉
3月15日(金)石川県立音楽堂コンサートホール
マルク・ミンコフスキ(指揮)/ユリア・マリア・ダン(ソプラノ)/中島郁子(メゾ・ソプラノ)/小堀勇介(テノール)/妻屋秀和(バス)/東京混声合唱団
ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付」
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※ 2公演同率
〈新国立劇場 ワーグナー:「トリスタンとイゾルデ」〉
3月14日(木)新国立劇場オペラパレス
大野和士(指揮)/デイヴィッド・マクヴィカー(演出)/ゾルターン・ニャリ(トリスタン)/リエネ・キンチャ(イゾルデ)/エギリス・シリンス(クルヴェナール)/藤村実穂子(ブランゲーネ)他/新国立劇場合唱団/東京都交響楽団
〈東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.15「トリスタンとイゾルデ」〉演奏会形式
3月27日(水)東京文化会館大ホール
マレク・ヤノフスキ(指揮)/スチュアート・スケルトン(トリスタン)/フランツ=ヨゼフ・ゼーリヒ(マルケ王)/ビルギッテ・クリステンセン(イゾルデ)/マルクス・アイヒェ(クルヴェナール)他/東京オペラシンガーズ/NHK交響楽団
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~強烈な「第9」、卓越した競演の「トリスタン」~
本来なら3者同率のピカイチにしてもいい出来だったのだが、体裁を整えるため、あえてこういう形を採る。ミンコフスキの「第9」は強烈な表現に加え、ステージでの演出効果にも趣向を凝らした激演だった。また「トリスタン」では、舞台上演と演奏会形式上演それぞれの美点を発揮した快演が競われた。大野の指揮する都響、ヤノフスキの指揮するN響の演奏がともに見事で、しかも歌手陣がともに充実していたことも特筆したい。
来月のイチオシ
◆◆5月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉
5月25日(土)兵庫県立芸術文化センター/26日(日)千葉県南総文化ホール/27日(月)サントリーホール
山田和樹(指揮)/藤田真央(ピアノ)
ベートーヴェン:序曲「コリオラン」/同:ピアノ協奏曲第3番/ベルリオーズ:幻想交響曲
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〈大阪フィルハーモニー交響楽団 第578回定期演奏会〉
5月17日(金)、18日(土)フェスティバルホール
尾高忠明(指揮)/アンヌ・ケフェレック(ピアノ)
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番/シベリウス:組曲「レンミンカイネン」
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~絶好調ヤマカズの率いる欧州オケのひとつ~
モンテカルロ・フィル、今回は、2016年から音楽・芸術監督を務めている山田和樹の指揮で来る。他にサン=サーンス、ドビュッシー、ラヴェルなどフランス・プロで固めた公演もあるので、お好み次第。一方、大フィル5月定期では、尾高が最も得意とするシベリウスが聴ける。フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」を題材にしたこの組曲は、幻想的で素晴らしい。
先月のピカイチ
◆◆24年3月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈東京フィルハーモニー交響楽団 第999回サントリー定期〉
3月15日(金)サントリーホール
アンドレア・バッティストーニ(指揮)/ヴィットリアーナ・デ・アミーチス(ソプラノ)/彌勒忠史(カウンターテナー)/ミケーレ・パッティ(バリトン)/新国立劇場合唱団/世田谷ジュニア合唱団
レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア 第2組曲/オルフ:世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」
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〈東京・春・音楽祭2024 ショスタコーヴィチの室内楽〉
3月29日(金)東京文化会館小ホール
周防亮介(ヴァイオリン)/田原綾子(ヴィオラ)/上野通明(チェロ)/北村朋幹(ピアノ)
ショスタコーヴィチ:チェロ・ソナタ/同:ヴァイオリン・ソナタ/同:ヴィオラ・ソナタ
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~「カルミナ・ブラーナ」熱演以上のパフォーマンス~
新国立劇場&東京春祭の両「トリスタン〜」も良かったが、ここはバッティストーニの特長が最大限に発揮された東京フィルの「カルミナ〜」を一番に。躍動的でエキサイティングだったのはもちろん、ダイナミクス等の細かな配慮や、沈みがちな第2部のテンションが保たれた点など、ただの熱演にとどまらないパフォーマンスに感心させられた。俊英たちが渾身の演奏を繰り広げた東京春祭のショスタコーヴィチのソナタもインパクト大。
来月のイチオシ
◆◆5月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉
5月27日(月)、28日(火)サントリーホール、他
山田和樹(指揮)/藤田真央(ピアノ)
(27日)ベートーヴェン:序曲「コリオラン」/同:ピアノ協奏曲第3番/ベルリオーズ:幻想交響曲
(28日)ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲/ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調/サン=サーンス:交響曲第3番 「オルガン付」
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〈日本フィルハーモニー交響楽団 第760回東京定期演奏会〉
5月10日(金)、11日(土)サントリーホール
カーチュン・ウォン(指揮)
マーラー:交響曲第9番
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~山田×モンテカルロ・フィル 長年の信頼を聴く~
最近の好演で〝小澤の後継者〟ぶりを発揮している山田和樹が、8年間音楽監督を務めるモンテカルロ・フィルと共にいかなる演奏を聴かせるか? 山田自身が「〝ゾーン〟に入った時には、心から『世界一のオーケストラだ!』と思える凄さがある」と語るだけに、極めて楽しみだ。また在京各楽団にも注目すべき公演が多く、中でも昨年10月の交響曲第3番に感嘆させられたカーチュン・ウォンのマーラー(しかも第9番)への期待は大!
先月のピカイチ
◆◆24年3月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.15「トリスタンとイゾルデ」〉演奏会形式
3月27日(水)東京文化会館大ホール
マレク・ヤノフスキ(指揮)/スチュアート・スケルトン(トリスタン)/フランツ=ヨゼフ・ゼーリヒ(マルケ王)/ビルギッテ・クリステンセン(イゾルデ)/マルクス・アイヒェ(クルヴェナール)他/東京オペラシンガーズ/NHK交響楽団
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〈びわ湖ホール R・シュトラウス「ばらの騎士」〉
3月3日(日)滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 大ホール
阪哲朗(指揮)/中村敬一(演出)/田崎尚美(元帥夫人)/斉木健詞(オックス男爵)/山際きみ佳(オクタヴィアン)他/びわ湖ホール声楽アンサンブル/京都市交響楽団
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~ヤノフスキが引き出した最上のワーグナー・サウンド~
マレク・ヤノフスキのタクトはますます引き締まり、メトロポリタン歌劇場コンサートマスターのベンジャミン・ボウマンをゲストに迎えたNHK交響楽団から最上のワーグナー・サウンドを引き出した。びわ湖ホールの芸術監督、阪哲朗も京都市響を優美、しなやかに歌わせた。
来月のイチオシ
◆◆5月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉
5月28日(火)サントリーホール
山田和樹(指揮)/藤田真央(ピアノ)
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲/ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調/サン=サーンス:交響曲第3番 「オルガン付」
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〈札幌交響楽団 第661回定期演奏会〉
5月25日(土)、 5月26日(日)札幌コンサートホールKitara
井上道義(指揮)/北村朋幹(ピアノ)
武満徹:地平線のドーリア-17の弦楽器奏者のための/同:アステリズム-ピアノとオーケストラのための/クセナキス:ノモス・ガンマ/ラヴェル:ボレロ
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~モンテカルロ・フィル、フランス・プロに注目~
モンテカルロ・フィルが協奏曲の伴奏ではなく、オーケストラ主体の日本ツアーにシェフ山田和樹とともに初めて臨む。「フランス以上にフランス的」という音色をサン=サーンスの交響曲でサントリーホールのオルガンとともに味わいたい。井上道義の札響定期ラストは鬼才・北村朋幹を迎えた武満徹、クセナキスにラヴェルの「ボレロ」。
先月のピカイチ
◆◆24年3月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.15「トリスタンとイゾルデ」〉演奏会形式
3月30日(土)東京文化会館大ホール
マレク・ヤノフスキ(指揮)/スチュアート・スケルトン(トリスタン)/フランツ=ヨゼフ・ゼーリヒ(マルケ王)/ビルギッテ・クリステンセン(イゾルデ)/マルクス・アイヒェ(クルヴェナール)他/東京オペラシンガーズ/NHK交響楽団
次点
〈新国立劇場 ワーグナー:「トリスタンとイゾルデ」〉
3月17日(日)新国立劇場オペラパレス
大野和士(指揮)/デイヴィッド・マクヴィカー(演出)/ゾルターン・ニャリ(トリスタン)/リエネ・キンチャ(イゾルデ)/エギリス・シリンス(クルヴェナール)/藤村実穂子(ブランゲーネ)他/新国立劇場合唱団/東京都交響楽団
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~雄弁と陰影、2人のマエストロが異なる魅力を放ったワーグナー~
東京春祭の「トリスタンとイゾルデ」はワーグナー・シリーズを牽引してきたヤノフスキがスコアのすみずみまで旋律を炙り出すようなタクトで、N響もワーグナーらしい音のうねりを聴かせた。雄弁な管弦楽とスケルトン他ワーグナー歌手の声の饗宴も見事。新国立劇場では大野和士の陰影を引き出すタクトがマクヴィガーの舞台に調和し、都響の抒情性あふれる響きに魅了された。藤村実穂子のブランゲーネの深い表現力も強く印象に残った。
来月のイチオシ
◆◆5月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈読売日本交響楽団 第638回定期演奏会〉
5月21日(火)サントリーホール
ユライ・ヴァルチュハ(指揮)/エリザベス・デション(メゾ・ソプラノ)/国立音楽大学(女声合唱)/東京少年少女合唱隊(児童合唱)
マーラー:交響曲第3番
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〈歌曲の森 クリストフ・プレガルディエン&ミヒャエル・ゲース 第1・2夜〉
5月22日(水)、24日(金)トッパンホール
クリストフ・プレガルディエン(テノール)/ミヒャエル・ゲース(ピアノ)
(第1夜)シューベルト・アーベント―シューベルト:逢瀬と別れ、星、さすらい人の夜の歌、他/(第2夜)リーダー・アーベント―マーラー:「子供の不思議な角笛」より〝原光〟/シューベルト:白鳥の歌/モーツァルト:ラウラに寄せる夕べの想い、他
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~読響新時代へ、注目のヴァルチュハ登場~
読響の首席客演指揮者に就任したユライ・ヴァルチュハがマーラーの交響曲第3番を振る。2年前に同団とマーラーの9番を共演し、その多彩な音楽作りで鮮烈な印象を与えているだけに期待が高まる。トッパンホールのプレガルディエンとゲースによるリートは、これまでの名演の集大成とも言える。第1夜のシューベルトは10年前のプログラムを再現、第2夜はバッハからマーラーまで9人の作曲家が並ぶ。一期一会の歌となるだろう。
先月のピカイチ
◆◆24年3月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
※ 2公演同率
〈新国立劇場 ワーグナー:「トリスタンとイゾルデ」〉
3月14日(木)新国立劇場オペラパレス
大野和士(指揮)/デイヴィッド・マクヴィカー(演出)/ゾルターン・ニャリ(トリスタン)/リエネ・キンチャ(イゾルデ)/エギリス・シリンス(クルヴェナール)/藤村実穂子(ブランゲーネ)他/新国立劇場合唱団/東京都交響楽団
〈東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.15「トリスタンとイゾルデ」〉演奏会形式
3月30日(土)東京文化会館大ホール
マレク・ヤノフスキ(指揮)/スチュアート・スケルトン(トリスタン)/フランツ=ヨゼフ・ゼーリヒ(マルケ王)/ビルギッテ・クリステンセン(イゾルデ)/マルクス・アイヒェ(クルヴェナール)他/東京オペラシンガーズ/NHK交響楽団
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なし
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~〝春のトリスタン対決〟は引き分け~
2月アップのイチオシの通り「トリスタン…」の2公演をそのまま3月のピカイチとし、次点はなし。新国の大野、東京春祭のヤノフスキ、両者オペラの名匠だけにそれぞれの持ち味を発揮した演奏は聴き応え満点、甲乙付け難かった。フルステージの新国にわずかに利点があるかとも考えたが、春祭では普段舞台裏で吹かれるため見られない木管トランペットなど演奏会形式ならではの良さもあった。よって〝春のトリスタン対決〟は引き分けで閉幕。
来月のイチオシ
◆◆5月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団 東京公演〉
5月14日(火)、15日(水)サントリーホール
ドミンゴ・インドヤン(指揮)/辻井伸行(ピアノ)
(14日)ルーセル:「バッカスとアリアーヌ」第2組曲/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番/ショスタコーヴィチ:交響曲第5番
(15日)ウォルトン:喜劇的序曲「スカピーノ」/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番/チャイコフスキー:交響曲第5番
次点
〈モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉
5月27日(月)、28日(火)サントリーホール、他
山田和樹(指揮)/藤田真央(ピアノ)
(27日)ベートーヴェン:序曲「コリオラン」/同:ピアノ協奏曲第3番/ベルリオーズ:幻想交響曲
(28日)ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲/ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調/サン=サーンス:交響曲第3番 「オルガン付」
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~実力派指揮者と名門オーケストラ~
イチオシ、次点とも実力派指揮者とヨーロッパの名門オケの来日公演。双方人気の日本人ピアニストがソリストを務めるのも注目。インドヤンは1980年ベネズエラ生まれで、あのエル・システマの出身。日本との縁も深く2003、04年にはヴァイオリンのアカデミー生としてPMFに参加、14年には指揮台にも立っている。山田については今さら紹介の必要はないだろう。