レーガー&ラフマニノフ生誕150年記念 
東京都交響楽団 第989回定期演奏会Cシリーズ

濃密な音楽が充足感をもたらした好演

大野和士&東京都交響楽団の平日午後定期。前半は、レーガーのベックリンによる4つの音詩とラフマニノフのピアノ協奏曲第1番(独奏はニコライ・ルガンスキー)、後半はシューマンの交響曲第4番である。前半は今年生誕150年の作曲家を取り上げ、ラフマニノフと後半に演奏されるシューマンは後年に大幅改訂された作品という括(くく)り。平日午後とは思えぬこの凝ったプロをまずは評価したい。

凝ったプログラムで濃密な音楽を披露した指揮者の大野和士と都響、ピアノ独奏のニコライ・ルガンスキー(C)堀田力丸
凝ったプログラムで濃密な音楽を披露した指揮者の大野和士と都響、ピアノ独奏のニコライ・ルガンスキー(C)堀田力丸

最初はレーガーには珍しい標題音楽。ここではその内容が精妙に描かれる。「ヴァイオリンを弾く隠者」はしなやかかつ繊細な響きの中で、矢部達哉のヴァイオリンが美しく映える。「波間の戯れ」は軽妙な動きが生き生きと綾をなし、「死の島」はダイナミクスと表情の変化で魅せる。「バッカナール」は躍動的で激烈な締めくくり。これは終始隙のない名演だ。

 

ラフマニノフではルガンスキーの細部までクリアなピアノが真価を発揮。その確信に満ちた独奏と豊穣なオーケストラが、フレッシュさと熟したロマンを併せ持つ第1番の改訂版の魅力を十全に表出する。

細部までクリアなピアノを響かせるルガンスキー(C)堀田力丸
細部までクリアなピアノを響かせるルガンスキー(C)堀田力丸

シューマンは強いアタックを伴わないズシリとした出だしから耳を奪う。第1楽章は以降も堂々たる進行で魅了し、第2楽章はオーボエとチェロが溶け合う主題の色調が妙味十分。第3楽章は豊麗で力強く、第4楽章は軽快ながらも迫真的に畳み込む。同曲は16型の重量感と都響ならではの重層感―特に分厚い弦楽陣―が生きた快演。全体に、大野の濃密な音楽が充足感をもたらした良き公演だった。
(柴田 克彦)

公演データ

レーガー&ラフマニノフ生誕150年記念
東京都交響楽団 第989回定期演奏会Cシリーズ

2023年12月8日(金)14:00 東京芸術劇場コンサートホール

指揮:大野和士
ピアノ:ニコライ・ルガンスキー

プログラム
レーガー:ベックリンによる4つの音詩 op.128
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1番 嬰ヘ短調 op.1
シューマン:交響曲第4番 ニ短調 op.120(1851年改訂版)

ソリスト・アンコール
ラフマニノフ:12の歌曲より ≪リラの花≫ op.21-5
(ピアノ:ニコライ・ルガンスキー)

柴田克彦
柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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