毎日クラシックナビが選ぶ2024年開催公演ベスト10

【筆者個別評】

◆◆東条碩夫(音楽評論家)選◆◆

〇マルク・ミンコフスキ指揮 オーケストラ・アンサンブル金沢 第479回定期公演
3月15日(金)石川県立音楽堂コンサートホール
ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付」

〇山田和樹指揮 モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団
5月27日(月)サントリーホール
ベルリオーズ:「幻想交響曲」他

〇エリアフ・インバル指揮 東京都交響楽団 第1000回定期演奏会
6月4日(火)サントリーホール
ブルックナー:交響曲第9番(SPCM版)

〇ペトル・ポペルカ指揮 プラハ放送交響楽団
7月9日(火)高崎芸術劇場大劇場
スメタナ:連作交響詩「わが祖国」

〇高関健指揮 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第373回定期演奏会
10月3日(木)東京オペラシティ コンサートホール
スメタナ:連作交響詩「わが祖国」

常任指揮者の高関との取り組みの数々も、今回複数の選者から高評価を得ている (C)大窪道治
常任指揮者の高関との取り組みの数々も、今回複数の選者から高評価を得ている (C)大窪道治

〇全国共同制作オペラ プッチーニ「ラ・ボエーム」
11月2日(土)ミューザ川崎シンフォニーホール
井上道義(指揮)/森山開次(演出)/中川郁文(ミミ)/工藤和真(ロドルフォ)他/東京交響楽団

〇新国立劇場 ロッシーニ「ウィリアム・テル」
11月26日(火)新国立劇場オペラパレス
大野和士(指揮)/ヤニス・コッコス(演出)/ゲジム・ミシュケタ(ギヨーム・テル)他/東京フィルハーモニー交響楽団

〇サイモン・ラトル指揮 バイエルン放送交響楽団
11月27日(水)サントリーホール
ブルックナー:交響曲第9番(コールス版)

〇尾高忠明指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団 特別演奏会
12月13日(金)ザ・シンフォニーホール
ブルックナー:交響曲第8番(ハース版)

〇ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団 R・シュトラウス「ばらの騎士」
12月15日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール
ミア・パーション(元帥夫人)/カトリオーナ・モリソン(オクタヴィアン)/アルベルト・ペーゼンドルファー(オックス男爵)他

~意欲的な取り組みと快演の数々~
ブルックナーとスメタナの各生誕200年記念の年に、その作品群において内外のオーケストラから快演が生まれたことを喜びたい。ノットと東京響の演奏会形式オペラ・シリーズの総決算たる「ばらの騎士」は驚異的な官能美の秀演、大野和士指揮の「ウィリアム・テル」は新国立劇場のレパートリー拡大の成功例。山田和樹とミンコフスキの見事なオーケストラ操縦術と、12月末に引退した井上道義の精魂込めた指揮にも賛辞を贈る。

◆◆青澤隆明(音楽評論家)選◆◆

♦ピカイチ

アレクサンドル・カントロフ ピアノ・リサイタル
11月30日(土)サントリーホール/11月27日(水)ミューザ川崎シンフォニーホール
バッハ=ブラームス:シャコンヌ、他

独自の世界観を築いたカントロフのリサイタル (C)Tatsuya Shiraishi
独自の世界観を築いたカントロフのリサイタル (C)Tatsuya Shiraishi

♦次点

ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団 R・シュトラウス「ばらの騎士」
12月13日(金)サントリーホール/15日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール
ミア・パーション(元帥夫人)/カトリオーナ・モリソン(オクタヴィアン)/アルベルト・ペーゼンドルファー(オックス男爵)他

〇イアン・ボストリッジ(テノール)、アレッシオ・アレグリーニ(ホルン)、ジュリアス・ドレイク(ピアノ)
1月23日(火)トッパンホール
ブリテン:ザ・ハート・オブ・ザ・マター、他

〇ピョートル・アンデルシェフスキ ピアノ・リサイタル
4月13日(土)紀尾井ホール
シマノフスキ:20のマズルカより、他

〇東京春祭 ヴェルディ「アイーダ」
4月17日(水)東京文化会館
リッカルド・ムーティ(指揮)/マリア・ホセ・シーリ(アイーダ)/ルチアーノ・ガンチ(ラダメス)/ユリア・マトーチュキナ(アムネリス)他/東京春祭オーケストラ

〇英国ロイヤル・オペラ ヴェルディ「リゴレット」
6月22日(土)神奈川県民ホール
アントニオ・パッパーノ(指揮)/オリヴァー・ミアーズ(演出)/エティエンヌ・デュピュイ(リゴレット)/ネイディーン・シエラ(ジルダ)/ハビエル・カマレナ(マントヴァ侯爵)他/ロイヤル・オペラハウス管弦楽団

〇ポール・ルイス シューベルト ピアノ・ソナタ・シリーズ
9月7日(土)、8日(日)ヤマハホール
シューベルト:ビアノ・ソナタ第21番、他

〇サントリーホール サマーフェスティバル2024 室内楽コンサート1
8月22日(木)サントリーホール ブルーローズ
アルディッティ弦楽四重奏団/北村朋幹(ピアノ)
細川俊夫:オレクシス(日本初演)、他

〇アンドリス・ネルソンス指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
11月13日(水)サントリーホール
イェフィム・ブロンフマン(ピアノ)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番、他

〇井上道義指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団 第659回定期演奏会
11月18日(月)サントリーホール
ショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」

~真率な希求と模索に心打たれて~
幾度もの驚きがあった。多種多様な音楽作品に臨んで、創造の神秘に触れ、歌への切望に焦がれ、人間の成熟に感じ入り、使命の深さに叩かれ、信頼と共感をみつめ、不断の挑戦に焚きつけられた。
ここに挙げた方々に限ることなく、それぞれの生きざま、真率な希求と模索に打たれたことを記すばかりだ。1年を通じて多くの示唆を受けたのは、ノット、北村朋幹、くるりの冒険の数々。このほか、清水和音ひさびさのリサイタルや三浦文彰とのデュオも稀有な存在感。続きが切に待たれる。

◆◆池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選◆◆

♦ピカイチ

東京春祭 リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミー ヴェルディ「アッティラ」
9月14日(土)東京音楽大学100周年記念ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/イルダール・アブドラザコフ(アッティラ)他/東京春祭オーケストラ

♦次点

ヤニック・ネゼ=セガン指揮METオーケストラ
6月25日(火)サントリーホール
エリーナ・ガランチャ(ユディット)/クリスチャン・ヴァン・ホーン(青ひげ公)
バルトーク:「青ひげ公の城」

音楽監督ネゼ=セガンとのコンビ初来日となった昨年の日本公演 (C)長澤直子
音楽監督ネゼ=セガンとのコンビ初来日となった昨年の日本公演 (C)長澤直子

③東京春祭 R・シュトラウス「エレクトラ」
4月18日(木)東京文化会館
セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/エレーナ・パンクラトヴァ(エレクトラ)他/読売日本交響楽団

④新国立劇場 ベッリーニ「夢遊病の女」
10月9日(水)新国立劇場オペラパレス
マウリツィオ・ベニーニ(指揮)/バルバラ・リュック(演出)/クラウディア・ムスキオ(アミーナ)/アントニーノ・シラグーザ(エルヴィーノ)他/東京フィルハーモニー交響楽団

⑤ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団 R・シュトラウス「ばらの騎士」
12月15日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール
ミア・パーション(元帥夫人)/カトリオーナ・モリソン(オクタヴィアン)/アルベルト・ペーゼンドルファー(オックス男爵)他

⑥新国立劇場 ロッシーニ「ウィリアム・テル」
11月20日(水)新国立劇場オペラパレス
大野和士(指揮)/ヤニス・コッコス(演出)/ゲジム・ミシュケタ(ギヨーム・テル)他/東京フィルハーモニー交響楽団

⑦東京二期会 モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」山形公演
11月10日(日)やまぎん県民ホール
クレリア・カフィエーロ(指揮)/ロラン・ペリー(演出)/山形交響楽団、他

⑧日生オペラ ドニゼッティ「連隊の娘」
11月9日(土)日生劇場
原田慶太楼(指揮)/粟國淳(演出)/砂田愛梨(マリー)/澤原行正(トニオ)他/読売日本交響楽団

⑨東京春祭 ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」
3月27日(水)東京文化会館
マレク・ヤノフスキ(指揮)/ステュアート・スケルトン(トリスタン)/ビルギッテ・クリステンセン(イゾルデ)、他/NHK交響楽団

⑩カンタームス シュレーカー「クリストフォロス」
6月23日(日)清瀬けやきホール
佐久間龍也(指揮)/舘亜里沙(演出)/クライネス・コンツェルトハウス、他

~舞台上演、セミステージ、演奏会形式と百花繚乱のオペラ~
オペラ限定のベストテン。国外からの大規模「引越公演」は減少した半面、国内の劇場や音楽祭、交響楽団が制作する舞台や演奏会形式の上演の水準が極めて高かった1年だった。中でもムーティが若手に自身のヴェルディ観を授けようと獅子奮迅(ししふんじん)の指導を続けるアカデミーは、レア作品の「アッティラ」で最高の成果を上げた。井上道義最後のオペラ指揮で全国共同制作の「ラ・ボエーム」や園田隆一郎の藤沢市民オペラ「魔笛」なども素晴らしい上演。

◆◆香原斗志(音楽評論家)選◆◆

♦ピカイチ

東京春祭 ヴェルディ「アイーダ」
4月17日(水)、20日(土)東京文化会館
リッカルド・ムーティ(指揮)/マリア・ホセ・シーリ(アイーダ)/ルチアーノ・ガンチ(ラダメス)他/東京春祭オーケストラ

「アッティラ」同様、演奏会形式でムーティのヴェルディ観が全開となった「アイーダ」 (C)池上直哉/東京・春・音楽祭2024
「アッティラ」同様、演奏会形式でムーティのヴェルディ観が全開となった「アイーダ」 (C)池上直哉/東京・春・音楽祭2024

♦次点

英国ロイヤル・オペラ ヴェルディ「リゴレット」
6月30日(日)NHKホール
アントニオ・パッパーノ(指揮)/オリヴァー・ミアーズ(演出)/エティエンヌ・デュピュイ(リゴレット)/ネイディーン・シエラ(ジルダ)/ハビエル・カマレナ(マントヴァ侯爵)他/ロイヤル・オペラハウス管弦楽団

③マキシム・ミロノフ テノール・リサイタル
2月18日(日)浜離宮朝日ホール
ロッシーニ:「セビリャの理髪師」よりアリア「もう逆らうのはやめろ」他

④ヤニック・ネゼ=セガン指揮METオーケストラ
6月25日(火)サントリーホール
エリーナ・ガランチャ(ユディット)/クリスチャン・ヴァン・ホーン(青ひげ公)
バルトーク:「青ひげ公の城」

⑤アントネッロ モンテヴェルディ「聖母マリアの夕べの祈り」
1月5日(金)川口総合文化センター・リリア 音楽ホール
濱田芳通(指揮)/中山美紀(ソプラノ)、新田壮人(アルト)他

⑥新国立劇場 ベッリーニ「夢遊病の女」
10月3日(木)新国立劇場オペラパレス
マウリツィオ・ベニーニ(指揮)/バルバラ・リュック(演出)/クラウディア・ムスキオ(アミーナ)/アントニーノ・シラグーザ(エルヴィーノ)他/東京フィルハーモニー交響楽団

⑦アンドリス・ネルソンス指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
11月12日(火)サントリーホール
五嶋みどり(ヴァイオリン)
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番/マーラー:交響曲第5番

⑧ヌッチ、来日~イタリアの至宝レオ・ヌッチ(バリトン)、有終の美~
2月10日(土)サントリーホール
フランチェスコ・イヴァン・チャンパ(指揮)/東京フィルハーモニー交響楽団

⑨東京春祭 コンスタンティン・クリンメル(バリトン)×ダニエル・ハイデ(ピアノ)
4月12日(金)東京文化会館小ホール
シューベルト:「美しき水車小屋の娘」

⑩ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団 R・シュトラウス「ばらの騎士」
12月13日(金)サントリーホール
ミア・パーション(元帥夫人)/カトリオーナ・モリソン(オクタヴィアン)/アルベルト・ペーゼンドルファー(オックス男爵)他

~欧州のすぐれた公演に負けていないものを~
昨年は欧州に足を運ぶ機会が増え、感銘を受けた公演も多い。日本でも負けないくらいすぐれた公演に出会いたいという思いが強くなり、そういう基準で選定した。欧州では作品の原点に立ち戻ろうという志向がさらに強まっており、ムーティやパッパーノはその先頭にいる(ムーティは「アッティラ」も選びたかったが、「アイーダ」に代表させた)。ミロノフの歌唱も同様である。「ばらの騎士」はあと一息だが、激励を込めて入選させた。

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