高関健指揮 富士山静岡交響楽団第129回定期演奏会 浜松公演

豪華絢爛!濃密なプログラムで聴かせた静響の多彩な表現力

富士山静岡交響楽団2月の定期演奏会に、首席指揮者の高関健が登場。特色のある3曲を並べた濃密なプログラムを披露した。

ドヴォルザークの序曲「謝肉祭」のはじけるような冒頭主題が、会場を一気に惹きつけた。間もなく沸点に達した音楽は、賑やかに展開。中間部で〝自然をあらわす主題〟が現れると、しばし喧噪から離れ、牧歌的な風景が広がった。

ドヴォルザークの序曲「謝肉祭」で、一気に会場の温度が上昇した 写真提供:富士山静岡交響楽団
ドヴォルザークの序曲「謝肉祭」で、一気に会場の温度が上昇した 写真提供:富士山静岡交響楽団

続くラフマニノフのピアノ協奏曲第4番のソリストは、静響と2度目の共演となる松田華音。今回、松田の強い希望により、演奏機会が極めて少ない第4番を取り上げることになった。
人気の高い2、3番に比べると記憶に残る旋律が少ないようだが、米国に渡ったラフマニノフがガーシュウィンの音楽と出合い、新たな領域に踏み込もうとした痕跡が散見される意欲作だ。打楽器を多彩に使用したのも特徴で、第1楽章冒頭でティンパニのリズムを伴う序奏や、第3楽章のタンバリンに合わせてピアノが独特のリズムを刻む楽節などで、効果的に登場する。
松田のピアノは、その麗しく流れるアルペジオ、ラフマニノフらしい旋律を抒情美たっぷりに歌うところなど、特筆すべき点が多々あるが、中でも和音の強奏において、その美質が発揮されていた。和音の一つひとつに色彩を持たせてグラデーション豊かな和声を創り、音楽全体を牽引しているようだった。

多様な表現力が求められるラフマニノフのピアノ協奏曲第4番。ピアノ独奏の松田華音は様々な表情を見せ、鮮やかに奏でた 写真提供:富士山静岡交響楽団
多様な表現力が求められるラフマニノフのピアノ協奏曲第4番。ピアノ独奏の松田華音は様々な表情を見せ、鮮やかに奏でた 写真提供:富士山静岡交響楽団

後半はシベリウスの交響曲第2番。イタリア旅行中に作曲され、南国らしい明るさを持つ一方で、愛娘をチフスで亡くしたシベリウスの深い悲しみが根底にある。今日の演奏からは、雄大な自然の風景よりもむしろ、シベリウスの内面的なもの、自身を奮い立たせて悲しみを乗り越えようとする決意を感じた。
第1楽章の第1主題は、清流のように爽やか。第2楽章では冒頭から不気味に響くティンパニ、続くコントラバスとチェロのピッツィカートが不穏な空気を創り出した。これら「死の予感」は、キリストをイメージさせる第2主題をもってしても払しょくされない。明確に「死」が勝利したことを伝える演奏で2楽章を終えた。

特徴的な第2楽章を、高関は劇的に描き出した 写真提供:富士山静岡交響楽団
特徴的な第2楽章を、高関は劇的に描き出した 写真提供:富士山静岡交響楽団

終楽章は、シベリウスの心の叫びのよう。クライマックスまで、スケールを増しながら何度も重ねてきた主題がついに限界に達し、金管によるファンファーレで曲を閉じた。
高関のタクトが振り下ろされた瞬間、客席から「ブラボー!」の嵐。圧巻の演奏に心をわしづかみにされた聴衆が、心からの拍手を贈った。

(野崎裕美)

会場ロビーに、令和7年1月1日に逝去した静響専務理事・宮澤敏夫さんの思い出の写真が展示された。宮澤さんは、静響の公益財団法人化や日本オーケストラ連盟の正会員加入を目指し(令和6年6月に正式会員として承認)、楽団の発展に尽力した 写真提供:富士山静岡交響楽団
会場ロビーに、令和7年1月1日に逝去した静響専務理事・宮澤敏夫さんの思い出の写真が展示された。宮澤さんは、静響の公益財団法人化や日本オーケストラ連盟の正会員加入を目指し(令和6年6月に正式会員として承認)、楽団の発展に尽力した 写真提供:富士山静岡交響楽団

公演データ

富士山静岡交響楽団 第129回定期演奏会 浜松公演

2月9日(日)14:00アクトシティ浜松 中ホール

指揮:高関 健
ピアノ:松田 華音
管弦楽:富士山静岡交響楽団

プログラム
ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」Op.92(B.169)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 ト長調 Op.40
シベリウス:交響曲 第2番 ニ長調 Op.43

ソリスト・アンコール
チャイコフスキー:「くるみ割り人形」組曲 Op.71a
(プレトニョフ編曲 ピアノ版)より 第4曲「間奏曲(アンダンテ)」

Picture of 野崎 裕美
野崎 裕美

のざき・ひろみ

クラシック音楽専門誌「音楽の友」ほか音楽誌の編集者を経て、現在はフリーランスのライター・編集者として活動。毎日クラシックナビでは速リポ等を担当し、クラシック音楽のコンサートに通う人が増えるような情報発信に日々情熱を燃やす。

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