指揮者の秋山和慶氏が1月26日に急逝、お別れの会が開催された
東京交響楽団の桂冠指揮者で、幅広い音楽活動を続けていた秋山和慶氏が、1月26日に肺炎で亡くなった。84歳だった。ことしの元日に自宅で転倒し頸随を傷めて入院、同23日に音楽活動からの引退を表明したばかりだった。1月31日にはミューザ川崎シンフォニーホールで、約800人が参列して「お別れの会」が開かれた。
桐朋学園で斎藤秀雄から指揮法を学び、1963年に同大音楽学部を卒業。翌64年2月に東京交響楽団を振って指揮者デビューを飾った。その後、同響の音楽監督・常任指揮者を40年にわたって務めたほか、大阪フィルや札幌交響楽団、広島交響楽団などでも同様のポストを歴任した。海外でもバンクーバー交響楽団や、シラキュース交響楽団で音楽監督などに就いた。2011年に旭日小綬章、2014年に文化功労者。
誠実な音楽作りや安定したバトンテクニックで定評を築き、東京交響楽団とは生涯に1350回もの共演を果たした。ラッヘンマン「マッチ売りの少女」や、ジョン・アダムス「エル・ニーニョ」といった大規模な現代作品の日本初演を次々に手がけ、高く評価された。昨年9月には指揮者生活60周年の記念演奏会を東響の定期で開き、おおみそかの「MUSAジルベスターコンサート2024」が最後の舞台となった。
「お別れの会」では松居直美のオルガン献奏の後、参列者全員で黙とう。3人の関係者がお別れの言葉を捧げた。福田紀彦・川崎市長は「穏やかで温和なお人柄だった。最後のジルベスター終演後の笑顔が忘れられない。たくさんの素晴らしい思い出をありがとうございました」とメッセージを寄せた。
門下生でもある指揮者の下野竜也氏は「寂しいです、会いたいです、きちんとありがとうございましたと申し上げたかった」と、おえつを漏らしながら呼びかけ、「秋山和慶という最高の音楽家がいたことを次の世代に伝えていきます」と誓った。東京交響楽団の岡崎哲也理事長は「いまだに信じることができず、今は感謝を捧げるばかりです。神様がつかわした音楽の守り神でした」と謝意を表した。
東響の楽員がバッハ「G線上のアリア」を献奏し、妻の圭子さんは「温かい会を開いていただき、ありがとうございました。これからも主人の音楽が皆さまのもとで鳴っているよう、祈っています」とあいさつ。参列者は遺影前に置かれた献花台に花を手向け、冥福を祈った。
(深瀬 満)
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。