アンドレス・オロスコ・エストラーダ指揮 NHK交響楽団 第2023回定期公演11月Cプロ

力強さと繊細さを兼備した表現で、エストラーダの才能が全開となったN響との初顔合わせ

N響との初顔合わせで、非凡な才能を発揮してみせたアンドレス・オロスコ・エストラーダ 写真提供=NHK交響楽団
N響との初顔合わせで、非凡な才能を発揮してみせたアンドレス・オロスコ・エストラーダ 写真提供=NHK交響楽団

コロンビア出身でウィーンを拠点に活躍中の指揮者、アンドレス・オロスコ・エストラーダがNHK交響楽団11月定期公演に客演、初顔合わせのN響相手にその非凡な才能を存分に発揮してみせた。

1曲目、ワーグナーの「タンホイザー」序曲は冒頭のクラリネットとホルンによる〝巡礼の合唱〟の旋律からアウフタクト(曲やフレーズの第1小節目の前拍)を深く歌い込んだドイツ的なスタイル。オケがフォルティシモで全開となると金管楽器、特にトロンボーンをしっかり鳴らし、力強い推進力を際立たせる。一方、中間部〝ヴェーヌスベルクの音楽〟では弦楽器、特に第1ヴァイオリンに微細なニュアンスをつけて管楽器の主旋律に彩りを添えるなど、ドイツ的表現をベースにしながら自らの個性もしっかりと投影させていた。

2曲目はルツェルン祝祭管の首席トランペット奏者としても知られるラインホルト・フリードリヒをソリストに、ヴァインベルクのトランペット協奏曲。超絶技巧のソロ・パートをフリードリヒは伸びやかな美音を巧みに操り、細かいパッセージでも驚異的な滑らかさで演奏。メンデルスゾーンの結婚行進曲やビゼーの「カルメン」などに登場するファンファーレ風のソロをコラージュしたような旋律が現れるくだりでは、オケとの間で軽妙な掛け合いを繰り広げた。盛大な喝采に応えて「My Song for Japan」と客席に語りかけ、「さくら さくら」の旋律を題材に自ら作・編曲した小品をアンコールした。

よく伸びるサウンドと高い技術で聴衆を魅了したラインホルト・フリードリヒ 写真提供=NHK交響楽団
よく伸びるサウンドと高い技術で聴衆を魅了したラインホルト・フリードリヒ 写真提供=NHK交響楽団

メインのショスタコーヴィチ5番は圧倒的な推進力と繊細さを兼ね備えた、秀演。特筆すべきは第2、第3楽章。第2楽章は木管、特にコントラファゴットを強調しつつ、それに呼応する弦楽器のピッチカートにまで細かく表情付けすることで、諧謔的(かいぎゃくてき)な雰囲気が増し、作品の別の顔が浮かび上がってきた。第3楽章は、すすり泣くような一般的な表現ではなく、極限まで抑えた弱音で感情を押し殺したかのような重苦しい静けさが支配するような音作りに引き込まれた。第4楽章はやや遅めのテンポで怒涛(どとう)のような力強さをもって進み、コーダで爆発的に頂点を築き締めくくった。指揮者の要求に的確に応える今のN響のポテンシャルの高さも光るショスタコ―ヴィチの演奏であった。
(宮嶋 極)

エストラーダの要求に応え、指揮者の個性を的確に反映させる演奏を披露したNHK交響楽団 写真提供=NHK交響楽団
エストラーダの要求に応え、指揮者の個性を的確に反映させる演奏を披露したNHK交響楽団 写真提供=NHK交響楽団

公演データ

NHK交響楽団 第2023回定期公演
11月15日(金)19:00、16日(土)14:00 NHKホール

指揮:アンドレス・オロスコ・エストラーダ
トランペット:ラインホルト・フリードリヒ
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:長原 幸太

プログラム
ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲
ヴァインベルク:トランペット協奏曲変ロ長調Op.94
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番ニ短調Op.47

ソリスト・アンコール
日本古謡(フリードリヒ編):さくらさくら

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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