セバスティアン・ヴァイグレ指揮 読売日本交響楽団 第642回定期演奏会

欧州ツアーの前哨戦で好演!読響が誇る奏者たちがソロイスティックなパッセージで存在感を放つ

この10月、読響は楽団史上12回目の、現常任指揮者セバスティアン・ヴァイグレとは初めての欧州ツアーに赴く。当夜の演奏会は、その前哨戦的な意味あいを持ったもので、ツアーに携えてゆく演目から3曲が並んだ。うち、メインとなる後半、ラフマニノフの交響曲第2番が、たいへんな好演であった。

欧州ツアーに携えてゆく演目から3曲を披露した ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
欧州ツアーに携えてゆく演目から3曲を披露した ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

低声部をつねに厚く明瞭にして和声的骨格をおろそかにしないあたり、いかにもこのコンビらしい。リズムにも確たる芯がある。その様は「ドイツ的」と言ってもよいかもしれない。そういえばラフマニノフはこれを書いた頃ドレスデンに暮らしていたなと、ふと思う。
だが最も注目すべきは、日本のオーケストラにはちょっと珍しいくらいの、情熱的なメロスの発露だろう。ヴァイグレが、その大きな体で、あたかも水泳選手が水をかき分けるようにして、宙空に旋律の起伏を描いてゆく。それに焚きつけられて弦楽器群が波うつ光景は、一面の麦穂が風にゆれ、うねるかのよう。

ヴァイグレは、宙空に旋律の起伏を描いてゆくような指揮でオーケストラを統率した ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
ヴァイグレは、宙空に旋律の起伏を描いてゆくような指揮でオーケストラを統率した ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

だがあくまでもハーモニーとリズムに不明なところがないので、上っ面の通俗には陥らない。あの第3楽章アダージョでさえそうなのだ。当楽章のゲネラルパウゼの後、コンサートマスター(日下紗矢子)をはじめ、次々とソロイスティックなパッセージが繰り出されるシーンでは、読響がいかに優れた奏者たちを擁しているか、欧州の人々に思い知らせることができるだろう。

当夜最初に置かれた伊福部昭作品は、舞踊曲「サロメ」から〝7つのヴェールの踊り〟1987年版。本来舞曲である音楽を、いささかノリに任せてショーピース化した嫌いがなくもないが、本作の見事なオーケストレーションはしかと伝わった。

クリスティアン・テツラフを独奏に迎えたブラームス「ヴァイオリン協奏曲」©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
クリスティアン・テツラフを独奏に迎えたブラームス「ヴァイオリン協奏曲」©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

前半の2曲目、ブラームスのヴァイオリン協奏曲では、独奏者にクリスティアン・テツラフが登場。彼もまた欧州ツアーに帯同する一人だ。ときに音程を大きく外し、指がもつれるテツラフは、どこか勢いに任せたフィドル奏者のようにも見える。しかし付点リズム一つにも、どんなあえかな弱音にも魂を込める彼は、至極まじめなヴァイオリニストなのだった。

(舩木篤也)

公演データ

読売日本交響楽団 第642回定期演奏会

10月9日(水)19:00サントリーホール

指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
ヴァイオリン:クリスティアン・テツラフ
管弦楽:読売日本交響楽団

プログラム
伊福部昭:舞踊曲「サロメ」から〝7つのヴェールの踊り〟
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調 作品27

ソリストアンコール
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番「ラルゴ」

Picture of 舩木 篤也
舩木 篤也

ふなき・あつや

1967年生まれ。広島大学、東京大学大学院、ブレーメン大学に学ぶ。19世紀ドイツを中心テーマに、「読売新聞」で演奏評、NHK-FMで音楽番組の解説を担当するほか、雑誌等でも執筆。東京藝術大学ほかではドイツ語講師を務める。共著に『魅惑のオペラ・ニーベルングの指環』(小学館)、共訳書に『アドルノ 音楽・メディア論』(平凡社)など。

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