久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.7

久石譲、スティーヴ・ライヒの世界観を存分に味わった歴史的な公演

久石譲のFUTURE ORCHESTRA CLASSICS(FOC) VOL.7がサントリーホールにおいて2日連続で開催され、2日目(8月1日)の公演を聴いた。満席の盛況。この日は、先週の室内アンサンブルの演奏会(MUSIC FUTURE VOL.11)にも増して、外国人の聴衆が多いように思われた。

久石譲とスティーヴ・ライヒの声楽付きの大作を取り上げる貴重な公演(C)金丸圭
久石譲とスティーヴ・ライヒの声楽付きの大作を取り上げる貴重な公演(C)金丸圭

これまでFOCでは、ブラームスなどの19世紀の交響曲と久石ら現代の作曲家の作品を組み合わせる公演プログラムが演奏されてきたが、今回は、久石とスティーヴ・ライヒの声楽付きの大作が取り上げられた。
演奏会の前半は、久石譲の「ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド」。2001年同時多発テロ(911)をテーマとしたシリアスな作品。ニューヨークのグラウンド・ゼロの印象に基づく第1楽章、その近くのセント・ポール教会を描く第2楽章、「D.e.a.d(=死)」と題され「レ・ミ・ラ・レ」に基づき、ソプラノ独唱の入る第3楽章、世界の終わりと愛による克服が混声合唱によって歌われる第4楽章の4つの楽章からなり、それに久石がインスピレーションを受けたスキータ・デイヴィスのヒット曲「この世の果てまで(The End of the World)」をリコンポーズしたものを加えた全5曲(約40分)のバージョン(2015年初演)が演奏された。ミニマル音楽、チェロの哀歌、ジャズ風の音楽、現代音楽風のアリア、ラテン語合唱による高揚、そしてモダンにアレンジされたヒット曲など、多様な音楽が一つのテーマのもとに編まれ、久石の世界観が示された聴きごたえのある作品であった。エラ・テイラーが心にしみる独唱。

久石譲「ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド」(C)金丸圭
久石譲「ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド」(C)金丸圭

演奏会の後半は、スティーヴ・ライヒの「砂漠の音楽」。オリジナル版(1984年初演)での全曲上演は日本で初めて。舞台には、4管編成の大オーケストラ(弦楽器は3群に分かれる)、10名の打楽器奏者(ティンパニを含む)、4名の鍵盤楽器奏者(ピアノとシンセサイザー)、そして混声合唱が並ぶ。ライヒの代表作の一つ(ライヒの最大の作品)でありながらこれまで日本で演奏されることがなかったのは、巨大編成を要する約45分の大曲ゆえであろう。5つの楽章からなり、その中心である第3楽章で原爆がテーマとして扱われ、全体はABCBAという対称構造になっている。音楽の巨大さからもそのテーマからも、ライヒの世界観や宇宙観が伝わってくる。音型の繰り返しが多く、対位法なども使われ、演奏は決して容易ではないが、久石は情熱を込めて音楽を生き生きと再現。FOC(コンサートマスター:近藤薫)の献身的な演奏も特筆される。東京混声合唱団がまさにプロの合唱を披露。世界初演から40年後ではあったが、ライヒの重要作品の日本初演の意義は大きく、指揮者・久石譲にとっても記念すべき歴史的な公演となった。

(山田治生)

公演データ

久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.7

8月 1日(木)19:00サントリーホール

指揮:久石譲
ソプラノ:エラ・テイラー
管弦楽 : FUTURE ORCHESTRA CLASSICS
コンサートマスター : 近藤薫
合唱:東京混声合唱団

プログラム
久石譲:ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド
スティーヴ・ライヒ:砂漠の音楽(日本初演)

Picture of 山田 治生
山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

連載記事 

新着記事 

SHARE :