好相性の指揮者とオーケストラが楽曲の精髄を伝える
首席客演指揮者アラン・ギルバートを迎えた東京都交響楽団公演。アイヴズ(ブラント編曲)の「コンコード交響曲」より〝オルコット家の人々〟、モーツァルトのヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲(ヴァイオリン:樫本大進、ヴィオラ:アミハイ・グロス)、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」の3曲が披露された。
アイヴズ作品は、ピアノ曲「コンコード・ソナタ」の管弦楽版で、本演目は第3楽章。ベートーヴェンの運命動機を用いた楽章ゆえに、後半との関連性が明白だ。演奏自体は、冒頭から木管楽器陣が豊潤な響きを醸成し、運命動機も流れの中で自然に姿を主張。楽曲自体の美感が衒(てら)いなく表出された。
協奏交響曲は、第1楽章のコンチェルト・グロッソ、第2楽章のロマン、第3楽章のディヴェルティメント的な特質が浮き彫りにされた好演。樫本は、単独時に比べると控え目なソロで、ベルリン・フィルの同僚グロスとシンクロしていく。それゆえ両者の質感が揃(そろ)ったバランスの良い協奏と相なった。アランがヴァイオリンで加わったドヴォルザークのテルツェットもお洒落なアンコール。
「運命」交響曲は、14型モダン・オケの良さを生かした豊麗かつ爽快な快演。全体に快速テンポで運ばれながら、細かなニュアンスに富んだ音楽が展開された。通常のリピートに加えて、モダン楽器演奏では珍しく第3楽章全体の反復もなされた(これ自体は賛同できない)のだが、引き締まった造作のおかげで、弛緩することなく楽曲の精髄が伝えられた。
アランは自らの音楽をストレートに表現し、都響はそれに高スペックで応える。同コンビはやはり相性がいい。
(柴田克彦)
公演データ
都響スペシャル
7月16日(火)14:00 サントリーホール
指揮:アラン・ギルバート
ヴァイオリン:樫本大進(ベルリン・フィル第1コンサートマスター)
ヴィオラ:アミハイ・グロス(ベルリン・フィル第1ソロ・ヴィオラ奏者)
管弦楽:東京都交響楽団
プログラム
アイヴズ(ブラント編曲):コンコード交響曲より〝オルコット家の人々〟【アイヴズ生誕150年記念】
モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364(320d)
ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 Op.67「運命」
アンコール
ドヴォルザーク:テルツェット Op.74 第2楽章
(ヴァイオリン:アラン・ギルバート、樫本大進、ヴィオラ:アミハイ・グロス)
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。