下野竜也指揮 日本フィルハーモニー交響楽団第759回東京定期演奏会

ウィーンにまつわる2つの交響曲「第3番」、壮快な後味を残したシューベルトと堂々たる円熟のブルックナー

日本フィルの東京定期に登場した下野竜也が選んだ曲目は、シューベルトにブルックナーの交響曲「第3番」づくし。ことし生誕200周年のブルックナーでは初挑戦となる3番を選び、ウィーンつながりの「3番」「ニ調」の連想でシューベルト初期作を組み合わせたという。ウィーンで学んだ下野らしい好企画だ。

シューベルトとブルックナーの交響曲「第3番」を組み合わせた下野らしいプログラムを披露 Ⓒ山口敦
シューベルトとブルックナーの交響曲「第3番」を組み合わせた下野らしいプログラムを披露 Ⓒ山口敦

シューベルトの第3番は作曲者18歳での作品。下野は明朗な曲想を生かし、奇をてらわないオーソドックスな安定感を聴かせた。近年多い歴史研究による情報を用いた様式感への配慮よりも、伝統的な美観に沿ったアプローチだ。編成は12型、対向配置。
第1楽章冒頭の序奏から余分な力みのない柔和な表情が浮かび、主部は快適な運動性を伴って躍動的に進む。第2楽章のアレグレット、第3楽章のメヌエットでは軽やかな舞曲性が前面に表れ、いずれも中間部での木管セクションの優美な演出が際立つ。急速な終楽章は一気呵成に進み、壮快な後味を残した。

ブルックナーの交響曲でも作曲者による改訂が重ねられた第3番は、版の問題が複雑。下野が今回、第2稿(1877年、ノヴァーク版)を選んだのは、「本人の意志で書いた最後の稿だから」で、「第三者の意見が入った稿は彼の本音ではない」という。
下野は過去のブルックナー体験を踏まえ、16型に拡大した編成から重心の低い密度感あるサウンドを引き出した。悠然とした歩みで進む誠実で温和な解釈が、作品への共感と下野自身の円熟を示した。

ブルックナーの終楽章では、金管の呼応がオルガン的な響きを意識させた Ⓒ山口敦
ブルックナーの終楽章では、金管の呼応がオルガン的な響きを意識させた Ⓒ山口敦

第1楽章から下野は、ハッタリのない落ち着いた音色とピラミッドバランスの厚い響きを志向。アダージョの第2楽章では、深い情感と自然な陰影を表出した。決然とした表情で始まった第3楽章でリズミカルな推進力を高め、この版特有のコーダを熱っぽく締めた。終楽章では金管の呼応などでオルガン的な響きを意識させ、堂々たる頂点へ導いた。

作品への共感と下野自身の円熟が感じられたブルックナーは拍手喝采を浴びた Ⓒ山口敦
作品への共感と下野自身の円熟が感じられたブルックナーは拍手喝采を浴びた Ⓒ山口敦

(深瀬満)

公演データ

日本フィルハーモニー交響楽団第759回東京定期演奏会   
2024年4月12日(金)19:00サントリーホール

指揮:下野竜也
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団

プログラム
シューベルト:交響曲第3番 ニ長調 D.200
ブルックナー:交響曲第3番 ニ短調 WAB.103(1877年第2稿ノヴァーク版)

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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