指揮者・山田和樹のインタビュー連載、最終回となる3回目は来年6月の定期演奏会に招聘(しょうへい)され、初出演が決まったベルリン・フィルハーモニー管弦楽団について。出演決定の一報を聞いた時、山田は「驚きました。ワッ!と叫んで5秒間は嬉しかった。でも、その後は……」と表情を引き締めた。共演の日まで約1年、今、何を考え、感じているのか、じっくり聞いた。(取材・構成 宮嶋 極)
山田が指揮台に立つベルリン・フィル(BPH)の定期は来年6月12、13、14日の3日間、同オケの本拠地フィルハーモニー・ベルリンで開催される。プログラムはレスピーギの交響詩「ローマの噴水」、武満徹「ウォーター・ドリーミング」(フルート独奏=エマニュエル・パユ)、サン=サーンスの交響曲第3番ハ短調「オルガン付き」。日本人指揮者がBPH(の定期演奏会)の指揮台に立つのは故・小澤征爾さんの同オケへの最後の出演となった2016年4月の定期以来、9年ぶり。また、日本人指揮者の定期初登場は2011年5月の佐渡裕以来のこととなる。
——ベルリン・フィルへの出演が決まった、との一報を受けた時の率直な感想をお聞かせください。
山田 びっくりしましたよね。ワッ!と叫んで5秒は嬉しかったかなあ。5秒。5秒は最高に嬉しかったですよ。その後はプレッシャーですよね。本当に僕にできるのかという不安にかられました。それが率直な気持ちでした。バーミンガム市交響楽団の指揮者(23年4月から首席指揮者、24年5月から音楽監督)になった時点で、それまでは本当に夢でしかなかったベルリンという文字がちょっとは近づいてきたのかなというような感覚はなきにしもあらずでしたが、こんなに早いタイミングで来ると思っていませんでしたので、驚きました。
——ベルリン・フィルとの共演では、シカゴ響の時と同じく武満徹作品も含めたプログラムが組まれていますが、どのような意図で選曲されたのですか?
山田 自分の立ち位置としては、ずっと〝隙間産業〟をやっているという思いがあります。多くの指揮者は、どうしてもドイツとかロシアものを(プログラムの)メインにしたいわけです。しかし、自分はフランスものを結構多くやってきましたし、最近はイギリス作品にも頑張って取り組んでいます。これは、ちょっと隙間産業に入っていくみたいな感じがありますね。だからベルリン・フィルへのデビューもフランス作品で飾れたらなあ、という思いからサン=サーンスの第3交響曲「オルガン付き」を選びました。あれだけの有名な曲ですからベルリン・フィルでも頻繁に演奏しているのかと思ったら、意外と取り上げていなかったようです。僕がやる頃にはちょうど10年ぐらい空いている。それもいいタイミングかと考えました。さらにラテン系のものからのヒントがあって、レスピーギの「ローマの噴水」を選びました。色彩感豊かな曲ですね。そして噴水からの〝水繋がり〟で武満の「ウォーター・ドリーミング」という曲を決めました。これは小規模なフルート・コンチェルトです。(BPHソロ・フルート奏者)エマニュエル・パユさんと初めてご一緒させていただきます。結果として美しいプログラムになったと思いますよ。
注) BPHデジタル・コンサートホールのアーカイブ映像を検索してみるとサン=サーンスの交響曲第3番は2015年9月に演奏されたズービン・メータ指揮による1タイトルのみしかアップされていない。
——モンテカルロ・フィルというフランス色の濃いオケと一緒に育んできた成果をベルリンでも発揮してみたいという思いはありますか?
山田 指揮者はすべての経験が全部音楽にでてしまうものです。ですから、ああいう大舞台ではモンテカルロ・フィルやバーミンガム市響との経験はもちろん、その前の日本の合唱団やオーケストラとの経験のすべてを出し切るしかありませんね。