ブルックナー生誕200周年のことし、ディスクの世界でも目ぼしい新譜が続々と登場している。この秋の新作から、聴き物の3点をご紹介しよう。
<BEST1>
ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(第2稿、ノヴァーク版)
パブロ・エラス=カサド(指揮)/アニマ・エテルナ・ブリュッヘ
<BEST2>
ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(第2稿、新ブルックナー全集版コーストヴェット校訂)
高関健(指揮)/東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
<BEST3>
ブルックナー交響曲第8番(ハース版)
アントニオ・パッパーノ(指揮)/サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団
ピリオド楽器による演奏はどんどん年代を下って、19世紀の作品をほぼカバーする時代となった。ブルックナーの交響曲でもいくつか試みはあったが、ついに本命というべき演奏が現れた。それがパブロ・エラス=カサド指揮のアニマ・エテルナ・ブリュッヘによる交響曲第4番「ロマンティック」だ。鍵盤奏者でもあるヨス・ファン・インマゼールが創設したこの団体は、オリジナル楽器のオーケストラとして既に多くの実績を残してきた。本作でも実力を遺憾なく発揮し、目から鱗が落ちるような新鮮な響きをもたらしている。
成功に導いたのは、バロックから現代まで幅広い作品をこなす気鋭の指揮者、エラス=カサド。古い時代の作品研究や合唱の経験がブルックナーにつながり、旧知のように取り組めた、と本人は語る。ピリオド楽器ならではの古雅(こが)な音色を生かしつつ、これまで聴こえなかったハーモニーやディテールの妙をみずみずしく引き出し、驚かせてくれる。
同じ第4番でも、現代のオーケストラ機能を徹底的に使い切って、究極の姿を追求したのが高関健指揮、東京シティ・フィルによるライヴ盤。スコアの綿密な分析で定評ある指揮者だけに、今回は第2稿を基にした最新の「コーストヴェット校訂」を採用して、細部まで吟味し尽くした克明な解釈を聴かせる。みずからの見解は解説書で詳しく示しており、ある意味でエラス=カサド盤の対極に位置する。
アントニオ・パッパーノがローマのオーケストラを振っての交響曲第8番は、イタリア系の気質が相まった熱っぽいカンタービレにあふれる異形のブルックナーとなった。旋律の歌わせ方はオペラティックな表情を帯び、この作品の違った面を見せるのが興味深い。オケも輝かしい金管や、抑揚に富んだ弦セクションなど、個性を全開にしている。
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。