作曲当時と同じ仕様のピリオド楽器などを使う古楽器演奏は、ディスクの世界でも存在感を増すばかり。優れた新譜のリリースが、どんどん続く。
<BEST1>
イル・ポモ・ドーロ モーツァルト 交響曲全集Vol.2(第29、40番ほか)
マクシム・エメリャニチェフ(指揮)/イル・ポモ・ドーロ/イワン・ポディヨーモフ(オーボエ)
モーツァルト:交響曲第29番、オーボエ協奏曲、交響曲第40番
<BEST2>
18世紀オーケストラ C・P・E・バッハ:ハンブルク交響曲集 Wq.182
アレクサンダー・ヤニチェク(コンサートマスター)/18世紀オーケストラ
C・P・E・バッハ:シンフォニア第1番~同第6番
<BEST3>
ル・コンセール・スピリチュエル シャルパンティエ:歌劇「メデ」
エルヴェ・ニケ(指揮)/ル・コンセール・スピリチュエル/ヴェロニク・ジャンス(メデ)ほか
指揮や鍵盤楽器の演奏で活躍を続けるマクシム・エメリャニチェフは日本への来演が増え、古楽界の新星のひとりとして急速に知名度を上げている。みずから主宰する古楽団体「イル・ポモ・ドーロ」との録音にも熱心で、バロック・オペラから交響曲まで、飛びきりの新譜を連発している。最新盤がモーツァルトの傑作交響曲をふたつ並べた本作だ。
思わず笑みがこぼれそうになる、みずみずしい幸福感を鮮鋭かつ躍動的にほとばしらせる第29番。哀(かな)しみが疾走する苛烈なパトスを深く掘り下げ、厳しく突きつけてやまない第40番。ピリオド楽器ならではの陰影を秘めた音色と鮮やかなスピード感を生かし、曲にふさわしい様式感を踏まえたヴィヴィッドな表現は、まさに現代最先端だろう。21世紀も4分の1が過ぎようとしている今、もはやモーツァルト演奏も、この辺りが目ざすべきスタンダードになる日が来るのかもしれない。
創設者のフランス・ブリュッヘンが世を去ったあとも、手兵の18世紀オーケストラは活動を継続し、この3月には日本公演に臨む予定だ。録音活動もコンスタントに続け、C・P・E・バッハのハンブルク交響曲集(シンフォニア)では、コンサートマスターのアレクサンダー・ヤニチェクの下、目の詰んだ緻密なアンサンブルを聴かせる。ハーモニーの厚みを奥行き深くとらえた録音もいい。
バロック期のフランス・オペラは20世紀の末に蘇(そ)演され、現代の聴衆へ届くようになった名品が多い。シャルパンティエの「メデ」も、そんな一つ。ギリシャ悲劇を題材にした起伏に富む音楽劇を、ベテランのエルヴェ・ニケが自分の団体「ル・コンセール・スピリチュエル」や、ヴェロニク・ジャンスを始めとするフランスの名歌手らと、息をもつかせず一気に聴かせる。
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。