名指揮者の宝庫フィンランド出身の俊英サントゥ=マティアス・ロウヴァリが今月、フィルハーモニア管を率いて来日
フィンランド出身の注目指揮者、サントゥ=マティアス・ロウヴァリが今月、首席指揮者を務める英国の名門、フィルハーモニア管弦楽団を率いて来日する。ロウヴァリの魅力を中心に来日公演について紹介する。(宮嶋 極)
フィンランドは戦後、多くの優秀な指揮者を輩出している。最近では目覚ましい躍進を続けるクラウス・マケラもこの国の出身者である。マケラよりひと世代上のロウヴァリも最近の活躍が目覚ましく、世界的な脚光を浴びるライジングスターである。
ロウヴァリは両親がともにラハティ交響楽団のメンバーだったことから、幼少期より専門的な音楽教育を受け、6歳でラハティ音楽院、17歳でシベリウス・アカデミー(ヘルシンキ)に入学し打楽器を専攻していた。ヘルシンキでジュニア・オーケストラに所属したことで指揮者のハンヌ・リントゥと出会い、打楽器に並行して指揮の勉強も始めた。その後、エサ=ペッカ・サロネン、サカリ・オラモ、オスモ・ヴァンスカ、ユッカ=ペッカ・サラステら現在世界の第一線で活躍する名指揮者たちを世に送り出したヨルマ・パヌラらに指導を受けるなどして指揮者としての才能を開花させていった。
2013年にタンペレ・フィルの芸術監督兼首席指揮者に就任。その後、17年にエーテボリ交響楽団首席指揮者、21年にはフィルハーモニア管で首席指揮者のポストに就き現在に至っている。この間、ベルリン・フィルやロイヤル・コンセルトヘボウ管など世界のトップ・オーケストラの指揮台にも立ち好評価を博している才能の持ち主である。
俊敏でしなやかな音楽作りが持ち味。各オーケストラの特性を生かしながら、自らののびやかな音楽性を自然な形で実際の演奏に反映させていくスタイルはこの指揮者の非凡な才能の一端を示している。17年に東京交響楽団を振って日本デビューを果たした際には直前にソリストが交代し曲目も変更になったにもかかわらず柔軟な対応で、演奏会を成功に導いたことで日本のファンにも印象を残している。
フィルハーモニア管とは初めての来日となる。当初は22年に日本公演が予定されていたが、コロナ禍のため中止となったこともあり、今回この新しいコンビがどのような演奏を聴かせてくれるのか楽しみである。プログラムはロウヴァリの祖国の大作曲家シベリウスはもちろん、バルトーク、チャイコフスキー、グリーグ、ブルッフと多彩な構成となっている。さらに辻井伸行(ピアノ)、三浦文彰(ヴァイオリン)の日本を代表する若手ソリストとの共演も興味深い。フレキシブルな指揮をするロウヴァリだけに2人の個性をうまく引き出しつつも、どのような音世界に昇華させていくのか、その手腕に注目が集まる。
なお、フィルハーモニア管弦楽団の来日公演は2020年以来で、この時はロウヴァリの祖国の先輩サロネンの指揮で、ストラヴィンスキーの作品で鮮烈な演奏を披露したことも記憶に新しい。
公演データ
サントゥ=マティアス・ロウヴァリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 日本公演
指揮:サントゥ=マティアス・ロウヴァリ
ヴァイオリン:三浦 文彰 ☆
ピアノ:辻井 伸行 〇
管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団
<プログラム A>
1月20日(月)19:00 サントリーホール、21日(火)14:00 横浜みなとみらいホール
ブルッフ:スコットランド幻想曲Op.46 ☆
グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調Op.16 〇
シベリウス:交響曲第5番変ホ長調Op.82
<プログラム B>
1月22日(水)19:00 サントリーホール
チャイコフスキー:イタリア奇想曲Op.45
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番変ロ短調Op.23 〇
バルトーク:管弦楽のための協奏曲
<プログラム S>
1月24日(金)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調Op.77 ☆
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番変ロ短調Op.23 〇
シベリウス:交響曲第5番変ホ長調Op.82
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。