ベルリン・フィル八重奏団

世界屈指のソリスト8人による奇跡のアンサンブル

シューベルトのピアノ独奏曲「6つの楽興の時」をデンマークの作曲家ハンズ・アブラハムセン(1952―)がどう八重奏に編曲したのか、興味津々だった。管楽器の使い方は効果的、随所にさりげなく現代のスパイスも利かせ、第6曲アレグレットの静かな余韻が見事に決まった。

頂点のハーモニーを奏でるベルリン・フィル八重奏団©JUNICHIRO MATSUO/ジャパン・アーツ提供
頂点のハーモニーを奏でるベルリン・フィル八重奏団©JUNICHIRO MATSUO/ジャパン・アーツ提供

半面、NHKラジオ第1放送の長寿番組「音楽の泉」のテーマとしても長く親しまれてきた第3番アレグロ・モデラートは余りに淡白でがっかり。安易な名人芸の羅列としなかった見識は買うが、次の作品、細川俊夫がこの八重奏団のために作曲した《テクスチュア》の隅々まで血の通った音に接した瞬間、オリジナルとアレンジの深さ、説得力の違いを強く意識せざるを得なかった。

熱狂的に受け入れられた日本初演、細川俊夫《テクスチュア》

今年7月にもセバスティアン・ヴァイグレ指揮の読売日本交響楽団と「ヴァイオリン協奏曲《祈る人》」を日本初演するなど、細川と結びつきを強める樫本の透徹した美音を筆頭に、一つの渦の中に様々な響きが吸い込まれていくような《テクスチュア》。その日本初演は聴衆からも、熱狂的に受け入れられた。

透徹した美音を響かせる樫本大進©JUNICHIRO MATSUO/ジャパン・アーツ提供
透徹した美音を響かせる樫本大進©JUNICHIRO MATSUO/ジャパン・アーツ提供

後半はシューベルト、オリジナルの「八重奏曲」。8人全員がソリストとして世界屈指の実力を備えつつ、アンサンブルの僕(しもべ)に徹する様はまさにペトレンコ時代の「小型ベルリン・フィル」を思わせる。整然とキレのいい技や音量で圧倒する愚は徹底して避けられ、デリケートかつニュアンスに富む会話を多様多彩に繰り広げる。過去数十年、ウィーン・フィルとの室内楽交流も積み重ねてきた結果か、かつてのベルリン・フィル八重奏団よりもはんなりとした〝ウィーンなまり〟の再現に長けている。あちこちの名手8人を集めた臨時編成の同曲も面白いが、ここでは徹頭徹尾「同じ釜の飯を食う」同僚たちの美麗な音のブレンドを楽しむことができた。(11月27日東京オペラシティコンサートホール)
音楽ジャーナリスト池田卓夫

作曲家の細川俊夫(写真中央)を囲んで©JUNICHIRO MATSUO/ジャパン・アーツ提供
作曲家の細川俊夫(写真中央)を囲んで©JUNICHIRO MATSUO/ジャパン・アーツ提供

公演データ

ベルリン・フィル八重奏団

11月27日(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
11月28日(火)18:30 ふくしん夢の音楽堂
11月30日(木)19:00 フェニーチェ堺
12月1日(金)18:30 三重県総合文化センター
12月2日(土)17:00 ミューザ川崎 シンフォニーホール

樫本大進(第1ヴァイオリン)、ロマーノ・トマシーニ(第2ヴァイオリン)、パク・キョンミン(ヴィオラ)、クリストフ・イゲルブリンク(チェロ)、エスコ・ライネ(コントラバス)、ヴェンツェル・フックス(クラリネット)、シュテファン・ドール(ホルン)、シュテファン・シュヴァイゲルト(ファゴット)

プログラム
シューベルト:6つの楽興の時op.94 D780(ハンズ・アブラハムセンによる八重奏編曲版)
細川俊夫:《テクスチュア》八重奏のための(2020)日本初演
シューベルト:八重奏曲へ長調D803

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池田 卓夫

いけだ・たくお

2018年10月、37年6カ月の新聞社勤務を終え「いけたく本舗」の登録商標でフリーランスの音楽ジャーナリストに。1986年の「音楽の友」誌を皮切りに寄稿、解説執筆&MCなどを手がけ、近年はプロデュース、コンクール審査も行っている。

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