オペラの経験を積みパワーアップしたインキネンが日本フィルのステージに帰ってくる
日本フィルの前首席指揮者、ピエタリ・インキネンが、1年半ぶりに同オケの指揮台に帰ってくる。11月23日 横浜みなとみらいホールで行われる横浜定期演奏会と翌24日にサントリーホールでの名曲コンサートに客演するもの。プログラムは神尾真由子をソリストに迎えて、グラズノフのヴァイオリン協奏曲とリヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲。インキネンが首席指揮者退任後、日本フィルと共演するのは初めてとなる。
フィンランド出身のインキネンは2009年に日本フィルの首席客演指揮者に就任、16年9月から23年8月まで首席指揮者を務め、ベートーヴェンやシベリウスの交響曲、ワーグナー作品などで、正統的な解釈に基づいた丁寧な音楽作りで日本の聴衆から多くの支持を集めたことに加えて、19年4月にはヨーロッパ・ツアーを行い現地でも高い評価を得た。
20年のバイロイト音楽祭において「ニーベルングの指環(リング)」の新制作(ヴァレンティン・シュヴァルツ演出)の指揮者に抜てきされたが、コロナ禍のため音楽祭は中止に。21年に限定的に再開された同音楽祭で「ワルキューレ」を、23年には「リング」全4部作の再演を指揮した。筆者は昨年の上演を取材したが、祝祭劇場全体に大ブーイングが渦巻いたシュヴァルツの奇抜な読み替え演出によるステージを、インキネンはオーソドックスな音楽作りで、バイロイトに求められる音楽的な水準を手堅く支えてみせた。
彼の誠実な人柄に裏打ちされた指揮ぶりは歌手やオーケストラ・メンバーからも信頼を寄せられ、その後のヨーロッパにおけるオペラの指揮活動にプラスをもたらしているという。昨年11月と12月にはワーグナーの「タンホイザー」を指揮して、ベルリン・ドイツ・オペラへのデビューを果たし成功を収めている。
そうした経験を踏まえて、音楽性にさらに深みを増したインキネンが日本フィルからどのようなサウンドを導き出すのであろうか。発表されたコメントでインキネンはこう言っている。
「2023年5月の最後の共演から1年半が経ちましたが、こうして再会できることをとても嬉しく思っています。この間、私はバイロイトの〝リング〟やベルリンの〝タンホイザー〟など、特にオペラ分野で経験を積み、日本フィルも音楽的な成長を遂げ、それら全てが今回のコンサートで発揮されることでしょう」。
プログラムは今や彼の十八番となったワーグナーの延長線上にあるリヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲。大編成のオーケストラを駆使して繰り広げられる〝音楽絵巻〟ともいえる同曲は、バイロイトなどでの経験を糧に一段とパワーアップしたインキネンの力量を体感するにうってつけの作品といえよう。一方、インキネンは元々ヴァイオリニストとしてキャリアをスタートさせたことはよく知られているが、今回、グラズノフの協奏曲でソリストを務める神尾真由子は同じザハール・ブロン門下であり、息の合ったアンサンブルが期待できそうだ。
(宮嶋 極)
公演データ
日本フィルハーモニー交響楽団
○第402回横浜定期演奏会
11月23日(土)17:00 横浜みなとみらいホール
○第408回名曲コンサート
11月24日(日)14:00 サントリーホール
指揮:ピエタリ・インキネン
ヴァイオリン:神尾 真由子
日本フィルハーモニー交響楽団
グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲イ短調Op.82
リヒャルト・シュトラウス:アルプス交響曲TrV233 Op.64
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。