作曲家・古関裕而の名は、2020年に放映された連続テレビ小説「エール」を機に一層知られることになった。しかしそれ以前より彼の遺した旋律は、もしかしたら作曲家の名前以上に、さまざまな場面で浸透してきたに違いない。例えば甲子園でおなじみの「栄光は君に輝く」、同じく野球に関連した「阪神タイガースの歌」、そして映画「モスラ」の劇中歌ながら、その視聴体験のない人の耳にも残り続ける「モスラの歌」等々。古関の作品はこうしたスポーツの応援歌、校歌、劇場音楽、映画音楽に至る5000曲にものぼる。当時のみならず今でも人々がそれらを口ずさみ、メロディが受け継がれるのは、ひとえに難解さを排した、旋律の親しみやすさゆえだろう。
その古関の郷里、福島市で6月30日、その名を冠した「福島市古関裕而作曲コンクール」の本選会が、飯森範親指揮、シエナ・ウインド・オーケストラによる公開生演奏で行われる(ふくしん夢の音楽堂)。第2回を迎える今年の募集テーマは前回に引き続き「吹奏楽」。全国から応募のあった69作品の吹奏楽作品から、第一次審査を通過した8作品が審査される。現代の作曲コンクールと言えば難解で複雑な技法による斬新な作品が連想されるが、このコンクールではそれらは全く歓迎されない。古関にゆかりのコンクールだけあって「若年層にも演奏可能であり、旋律が美しいこと」が重視され、かつ作品が全国の吹奏楽団体で演奏されることを目指している。それゆえに、楽器編成も20人以上35人以内の吹奏楽編成。つまり作曲者には、自己の音楽表現を極めつつも、弾き手や聴き手の共感を喚起するような生きた作品づくりが求められている。その審査には作曲家の池辺晋一郎を委員長に、吹奏楽作品も多く手掛ける天野正道、伊藤康英や長生淳、また多くのテレビ音楽作品が親しまれる渡辺俊幸ら、このテーマにふさわしい作曲家陣があたる。その顔ぶれだけで、このコンクールが優れた音楽性と同時に、親しまれ、演奏されることに重きを置いていることが見て取れるだろう。
本選会では審査作品に加え、佐藤信人「白砂の箱庭」(第一回コンクール第一位受賞作品)、古関裕而の「スポーツショー行進曲」、三浦秀秋による古関裕而メドレー、スーザ「星条旗よ永遠なれ」など同コンクールならではの特別演奏も予定されている。吹奏楽界名うてのオーケストラによる名作と真新しい楽曲の饗宴に、ぜひ立ち合いたい。(正木 裕美)
公演データ
第2回 福島市古関裕而作曲コンクール 本選会
6月30日(日)14:00 ふくしん夢の音楽堂(福島市音楽堂)
〇本選会出場作品
(作曲家50音順・演奏順は未定)
相澤圭吾:炎ゆるアラベスク
越岡卓哉:コンサートマーチ「約束の街へ」
田村雅之:光る海景
長門佑紀:大流星とわたし
根岸淳也:碧
萩原友輔:恋初める茉莉花
松尾賢志郎:明日の神話
谷地村博人:セイキロスとエウテルペ
〇シエナ・ウインド・オーケストラによる特別演奏
佐藤信人:白砂の箱庭(第一回コンクール第一位受賞作品)
古関裕而:スポーツショー行進曲
三浦秀秋編曲:古関裕而メドレー
スーザ:星条旗よ永遠なれ
まさき・ひろみ
クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在はフリーランスで編集・執筆を行う。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に取り組んだ。日本演奏連盟「演奏年鑑」東北の音楽概況執筆担当。日本芸術文化振興会 芸術文化振興基金運営委員会 音楽専門委員。