震災10年を経て再びマーラーを 山響&仙台フィル合同公演

2012年7月19日、山形市民会館で行われた山響と仙台フィルの合同公演初回 写真提供:山形交響楽団
2012年7月19日、山形市民会館で行われた山響と仙台フィルの合同公演初回 写真提供:山形交響楽団

3月13日(日)、山形交響楽団と仙台フィルハーモニー管弦楽団が5度目の合同演奏会を飯森範親の指揮で開催する(山形市 やまぎん県民ホール)。通常、複数のプロオーケストラ奏者が集ってメモリアルなオーケストラを結成することはあるが、プロオーケストラが合同でひとつの作品に取り組む公演は東北ならではの取り組みである。そのきっかけは2011年の東日本大震災にあった。

 

最初の合同演奏会は震災翌年の2012年7月、被災した人々へと寄り添い、復興を願う取り組みとして、東北を代表する2つのオーケストラが手を携えたことに始まる。この時も同様に飯森が指揮を担い、震災からの復興を願いマーラーの交響曲第2番「復活」を山形と仙台で演奏した。この頃は比較的復興が早く進んだ仙台市内都市部でも、被災して使用が不可能になった建物が点在していた時期である。まさに復興のさなかに仙台の会場を満たした「音楽で人々に寄り添い力になりたい」という両オーケストラの想いと熱演は、今でも鮮明に覚えている。

 

それから合同演奏会は数年おきに回を重ね、2014年7月に小泉和裕の指揮でレスピーギのローマ3部作を、20年7月に再び飯森の指揮でチャイコフスキーの交響曲第5番をメインに据え行われている。ここまでは同プログラムをそれぞれ仙台市内、山形市内で開催していたが、昨年21年11月には石巻に新たにオープンした複合文化施設、マルホンまきあーとテラスを会場に、仙台フィルが主導し独自のプログラムで開催した。この時の指揮者は2006年以来仙台フィルを率いてきた桂冠指揮者のパスカル・ヴェロ。ドビュッシーの「海」、ラヴェル「ボレロ」ほか得意とするフランスものを聴かせたが、中でもマスネの組曲「アルザスの風景」は仙台フィル事業部の関野寛氏による独自の構成で落語家・林家たい平氏による語りを付け、一層の力演だった。フランス・アルザス地方と石巻に離れ離れになった男女を結ぶ物語は、コロナ禍で会いたい人に容易に会えない現状と重なる。震災10年の節目に被災地石巻に寄り添いつつ、また現在の災禍に向き合うという、メッセージ性の強い演目であった。

石巻市が整備した東日本大震災からの復興のシンボル、マルホンまきあーとテラスで行われた昨秋の合同公演=2021年11月27日 写真提供:仙台フィルハーモニー管弦楽団
石巻市が整備した東日本大震災からの復興のシンボル、マルホンまきあーとテラスで行われた昨秋の合同公演=2021年11月27日 写真提供:仙台フィルハーモニー管弦楽団

 そして3月13日には、再び飯森の指揮で合同公演が行われる。プログラムにはワーグナー「トリスタンとイゾルデ」より前奏曲と愛の死、また第4楽章アダージェットで知られるマーラーの交響曲第5番が並び、2つのオーケストラによる大編成ならではの壮麗な響きが期待できるだろう。

 公演を主導する山響の専務理事兼事務局長・西濱秀樹氏によると、今回のプログラムは山響たっての希望だという。そこには合同ならではの編成面のメリットや、合同公演初回のマーラーから通じるものがあるそうだ。

 

「前回マーラーを取り上げた2012年は震災直後ということもあり、復興に向けた強い思いがありますよね。でも今は10年を経て、それをどう乗り越えて新しい発展につなげるか。同じマーラーでも当時とは意味合いが違いますし、いまこそ東北の力を合わせようと〝東北UNITED〟というテーマを掲げています。

 また8型2管編成の山響にとってはマーラーの5番は編成的にハードルが高く、こういう機会でないとできません。それを合同の力でお届けできることが嬉しいですし、22年には山響が50周年、翌23年には仙台フィルが50周年の節目を迎えます。震災10年を経たこのタイミングで50周年を迎える両楽団が力を合わせることに大きな意味があると思っていますし、ぜひ皆さんにもこの合同の力を聴いて頂きたいです」

 震災で手を携えた東北のオーケストラが、10年を経て再び奏でるマーラーの調べ。震災、コロナ禍を経て50年の月日を重ねる両オーケストラの響きを、じっくりと味わいたい。(正木裕美)

公演データ

【東北UNITED 山響×仙台フィル合同演奏会 山形公演】

3月13日(日)15:00やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)

指揮:飯森範親
管弦楽:山形交響楽団/仙台フィルハーモニー管弦楽団
ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」より前奏曲と愛の死
マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調

Picture of 正木 裕美
正木 裕美

まさき・ひろみ

クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在はフリーランスで編集・執筆を行い、仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に取り組んだ。日本演奏連盟「演奏年鑑」東北の音楽概況執筆担当。

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