トッパンホール ニューイヤーコンサート 2024

真の名手たちによる成熟した室内楽を堪能する一夜

例年ディープな内容が際立つトッパンホールのニューイヤーコンサート。今年も本格派の作品が並ぶ。ただし、チェロのペーター・ブルンズが体調不良で来日できず、遠藤真理が急遽(きょ)代役に立って、ヴァイオリンの日下紗矢子、ピアノのフローリアン・ウーリヒと共演。曲目も一部変更となった。

ヴァイオリンの日下、ピアノのウーリヒ、そしてブルンズの代役で急遽出演することになったチェロの遠藤による三重奏(c)大窪道治 提供:トッパンホール
ヴァイオリンの日下、ピアノのウーリヒ、そしてブルンズの代役で急遽出演することになったチェロの遠藤による三重奏(c)大窪道治 提供:トッパンホール

従って合わせる時間も限られたであろう。最初のメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番は、やや乾き気味の滑り出し。まずは、日下5、ウーリヒ3.5、遠藤1.5くらいの比率で進行する。とはいえ、第1楽章終盤の迫真性や第2楽章のまろやかさが光り、第3楽章では3者の一体感も強化。第4楽章では生気に富んだ音楽が展開される。2曲目、ウーリヒが弾くシューマンの「子供の情景」は、明確で品のある“大人の情景”の趣。

後半1曲目は、シュルホフの二重奏曲からシューマンのヴァイオリン・ソナタ第1番に変更された。ここで日下が渾身(こんしん)の演奏を聴かせる。彼女らしいストレートな運びながら、表現が実にアグレッシブでパッショネイト。2番に比べて影の薄いこの曲がこれほど雄弁だったとは! そう感じたのは初めてだ。

日下のアグレッシブでパッショネイトな表現に魅せられたシューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番(c)大窪道治 提供:トッパンホール
日下のアグレッシブでパッショネイトな表現に魅せられたシューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番(c)大窪道治 提供:トッパンホール

最後のブラームスのピアノ三重奏曲第1番は、一体感が俄然(がぜん)増した濃密かつ白熱の快演。ここは3者が同格・同率の動きで骨太のロマンが表出される。第2楽章中間部の重層的な高揚感、第3楽章のデリケートな味わい、第4楽章のスケールの大きさは特に印象的。真の名手が揃(そろ)えば室内楽も一夜で成熟する。その様をリアルに体験したとの思いしきりだ。

(柴田 克彦)

公演データ

トッパンホール ニューイヤーコンサート 2024

2024年1月21(日)15:00トッパンホール

日下紗矢子(ヴァイオリン)
遠藤真理(チェロ)
フローリアン・ウーリヒ(ピアノ)

メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 Op.49
シューマン:子供の情景 Op.15
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ短調 Op.105
ブラームス:ピアノ三重奏曲第1番 ロ長調 Op.8

柴田克彦
柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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