ペトレンコ&ベルリン・フィル期待にたがわぬ実力と話題性……23年11月

ペトレンコとの初来日となったベルリン・フィルが前評判どおりの好演を繰り広げた(C)Monika Rittershaus
ペトレンコとの初来日となったベルリン・フィルが前評判どおりの好演を繰り広げた(C)Monika Rittershaus

今月は名門オーケストラの来日が相次ぎ、毎日が音楽祭のような活況を呈した11月のステージからピカイチを、来年1月に予定されている公演からイチオシを選者の皆さんに挙げていただきました。

先月のピカイチ

◆◆11月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈東京交響楽団 第716回定期演奏会〉

11月11日(土)サントリーホール

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番、交響曲第6番「田園」

ジョナサン・ノット(指揮)/ゲルハルト・オピッツ(ピアノ)

音楽監督ノットとの10シーズン目に突入する東京交響楽団 (C)TSO
音楽監督ノットとの10シーズン目に突入する東京交響楽団 (C)TSO

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〈新国立劇場 ヴェルディ:「シモン・ボッカネグラ」新制作〉

11月15日(水)新国立劇場オペラパレス

大野和士(指揮)/ピエール・オーディ(演出)/ロベルト・フロンターリ(シモン・ボッカネグラ)/リッカルド・ザネッラート(ヤコポ・フィエスコ)/東京フィルハーモニー交響楽団、ほか

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~国内勢も目覚ましい成果~

外来勢にも大物が揃(そろ)っていたけれど、それに負けぬ全力投球の快演により目覚ましい成果を挙げたという点で、国内勢の演奏から選ぶ。まずは東響がノットの指揮で驚異的に柔らかい、快いそよ風のような音色の演奏を創り、作品の性格を見事に表出してみせたこと。そして新国立劇場が初めて取り上げたオペラで、歌手陣の好演、演出の鋭さ、オーケストラの安定感など、大野和士芸術監督の努力と意気が実った上演を実現させたこと。

来月のイチオシ

◆◆2024年1月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈東京都交響楽団 定期演奏会 第992回B&第993回Aシリーズ〉

2024年1月18日(木)サントリーホール(第992回B)/1月19日(金)東京文化会館(第993回A)

ジョン・アダムズ:「アイ・スティル・ダンス」(日本初演)、「アブソリュート・ジェスト」、「ハルモニーレーレ」

ジョン・アダムズ(指揮)/エスメ弦楽四重奏団

ジョン・アダムズ自身が日本初演作品を含む自作を振る貴重な機会 (C)Riccardo Musacchio
ジョン・アダムズ自身が日本初演作品を含む自作を振る貴重な機会 (C)Riccardo Musacchio

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〈国際音楽祭NIPPON2024 モーツァルト ヴァイオリン協奏曲全曲演奏会〉

1月11日(木)、12日(金)東京オペラシティ コンサートホール

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第1番、第2番、第4番ほか(11日)/同:ヴァイオリン協奏曲第3番、第5番「トルコ風」ほか(12日)

諏訪内晶子(ヴァイオリン)/サッシャ・ゲッツェル(指揮)/国際音楽祭NIPPONフェスティヴァル・オーケストラ

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~ジョン・アダムズみずからが指揮台に立つ都響定期~

「ドクター・アトミック」や「中国のニクソン」などのオペラでもおなじみの現代作曲家ジョン・アダムズが、その管弦楽作品集をみずから指揮する稀有(けう)で貴重な演奏会。大作「ハルモニーレーレ」は、国内では数年前に下野竜也が指揮して以来の上演ではないか? また諏訪内晶子がみずから全力を傾注する音楽祭で、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲全5曲を弾くのにも注目。切れのいい指揮で人気のあるゲッツェルが協演するのも嬉(うれ)しい。

先月のピカイチ

◆◆11月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

11月21日(火)ミューザ川崎シンフォニーホール

キリル・ペトレンコ(指揮)

モーツァルト:交響曲第29番/ベルク:オーケストラのための3つの小品/ブラームス:交響曲第4番

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〈東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第365回定期演奏会〉

11月30日(木)東京オペラシティ コンサートホール

高関健(指揮)/木下美穂子(トスカ)/小原啓楼(カヴァラドッシ)/上江隼人(スカルピア)/東京シティ・フィル・コーア/江東少年少女合唱団ほか

プッチーニ:歌劇「トスカ」(演奏会形式)

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~世界最高峰のパフォーマンスを満喫~

嬉しいことに、10月の「イチオシ」で挙げた公演がそのまま並ぶ結果となった。ベルリン・フィルは、もう1つのプロを含めて、期待に違わぬ完成度抜群のパフォーマンスを披露。世界最高の機能性とK・ペトレンコの巧みな音楽作り(造形、強弱、抑揚など)が佳(よ)き融合を果たした演奏は、今年の全コンサートの中でもとりわけ光っていた。シティ・フィルの「トスカ」も出演者全員渾身(こんしん)の名演。特に管弦楽の妙味が鮮やかに明示された。

来月のイチオシ

◆◆2024年1月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈国際音楽祭NIPPON2024 モーツァルト ヴァイオリン協奏曲全曲演奏会〉

1月11日(木)、12日(金)東京オペラシティ コンサートホール

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第1番、第2番、第4番ほか(11日)/同:ヴァイオリン協奏曲第3番、第5番「トルコ風」ほか(12日)

諏訪内晶子(ヴァイオリン)/サッシャ・ゲッツェル(指揮)/国際音楽祭NIPPONフェスティヴァル・オーケストラ

4都市で7企画10公演を行う「国際音楽祭NIPPON」の中でも諏訪内らによるモーツァルトの協奏曲全曲は注目度が高い (C)TAKAKI KUMADA
4都市で7企画10公演を行う「国際音楽祭NIPPON」の中でも諏訪内らによるモーツァルトの協奏曲全曲は注目度が高い (C)TAKAKI KUMADA

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〈藤原歌劇団 グノー:「ファウスト」新制作〉

1月27日(土)、28日(日)東京文化会館

阿部加奈子(指揮)/ダヴィデ・ガラッティーニ・ライモンディ(演出)/村上敏明、澤﨑一了(ファウスト)/アレッシオ・カッチャマーニ、伊藤貴之(メフィストフェレス)/砂川涼子、迫田美帆(マルグリート)/東京フィルハーモニー交響楽団ほか

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~トップ級のソロで天才の協奏曲全曲を聴く稀少(きしょう)な機会~

昨年、楽器を変えて清新なバッハを聴かせた諏訪内晶子が、今度はモーツァルトをいかに奏でるか? 信頼を寄せるゲッツェルの指揮と強力メンバーが揃(そろ)うオーケストラも心強いし、触れる機会の少ない1、2番を含めた全曲を一挙に生体験できる喜びは大きい。藤原の「ファウスト」は、9月の新日本フィルとの「悲愴(ひそう)」で、既成概念を排した構築による秀演を展開した阿部加奈子の指揮に期待。生舞台が稀少な名作の上演自体も楽しみだ。

先月のピカイチ

◆◆11月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

11月20日(月)サントリーホール

キリル・ペトレンコ(指揮)

レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ/R・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

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〈パシフィックフィルハーモニア東京 第2回名曲シリーズ〉

11月1日(水)東京芸術劇場 コンサートホール

指揮:汐澤安彦

グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」より序曲/ボロディン:交響詩「中央アジアの草原にて」/チャイコフスキ−:交響曲第4番ほか

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~まるで巨大な室内楽のようなペトレンコ&ベルリン・フィル~

キリル・ペトレンコの独自性は2017年バイエルン州立歌劇場との初来日で確認したと思い込んでいたが、上には上があった。2019年シェフに就任したベルリン・フィルとの日本初ツアーでは、指揮者と楽員の全員一致の巨大な室内楽を現出させた。樫本大進のソロも光った「英雄の生涯」は圧巻。85歳の汐澤が在京プロ楽団主催公演を指揮するのは41年ぶりだったが、ケレン味たっぷりの玄人芸で楽員、客席を唖然(あぜん)とさせた。

来月のイチオシ

◆◆2024年1月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈郷古廉(ヴァイオリン)&北村朋幹(ピアノ)デュオ・リサイタル〉

1月14日(日)浜離宮朝日ホール

ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ/ルクー:ヴァイオリン・ソナタ/シェーンベルク:幻想曲/R・シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ

神奈川県立音楽堂でも行われる郷古(左)と北村のデュオ・リサイタル (C) Hisao Suzuki(郷古)/ (C) TAKA MAYUMI(北村)
神奈川県立音楽堂でも行われる郷古(左)と北村のデュオ・リサイタル (C) Hisao Suzuki(郷古)/ (C) TAKA MAYUMI(北村)

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〈上野通明 無伴奏チェロ・リサイタル〉

1月13日(土)静岡音楽館AOI

J・S・バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番/レーガー:無伴奏チェロ組曲第2番/J・ダッラーバコ:11の奇想曲より第11番/ブリテン:無伴奏チェロ組曲第3番

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~気鋭のソリストによる室内楽に注目~

新年2週目の終わりには、日本の今後を担う大型ソリストたちの室内楽に没頭しようと思う。ドビュッシー、ルクー、R・シュトラウスのソナタにシェーンベルクの「幻想曲」を組み合わせたウィーン仕込みの郷古&孤高の天才ソリスト北村のデュオに散る美しい火花、コスモポリタン上野の宇宙的ソロのいずれもが、前代未聞の体験になるはずだ。

先月のピカイチ

◆◆11月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

11月20日(月)サントリーホール

キリル・ペトレンコ(指揮)

レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ/R・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

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〈イゴール・レヴィット ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・サイクル・イン・ジャパンⅢ&Ⅳ〉

ベートーヴェン・サイクルⅢ:11月24日(金)紀尾井ホール
ベートーヴェン:ソナタ第17番「テンペスト」、第8番「悲愴」、第14番「月光」ほか

ベートーヴェン・サイクルⅣ:25日(土)紀尾井ホール
同:第30番、第31番、第32番

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~想像を超えたペトレンコのベルリン・フィル、レヴィットの壮大な2日間~

ピアノのレヴィットを知ったのが、2017年ペトレンコ率いるバイエルン州立管弦楽団の来日公演で、共創というのが相応(ふさわ)しいラフマニノフに衝撃を受けた。その2人が同時期に来日、ペトレンコのベルリン・フィルはレーガーの変奏曲で千変万化な音楽を聴かせ、「英雄の生涯」では団員たちがペトレンコの求める音楽を自らのそれとして表現する真剣勝負に釘(くぎ)付けとなった。レヴィットはオーケストラを聴いているような壮大な音楽で2日間魅了した。

来月のイチオシ

◆◆2024年1月月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈NHK交響楽団 第2003回定期公演Bプログラム〉

1月24日(水)、25日(木)サントリーホール

トゥガン・ソヒエフ(指揮)/郷古廉(ヴァイオリン)/村上淳一郎(ヴィオラ)

モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲/ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」

1月のN響定期では、Bプログラムのほか、フランスもののA、ロシアもののCプログラムの3つを指揮するソヒエフ (C)Marco Borggreve
1月のN響定期では、Bプログラムのほか、フランスもののA、ロシアもののCプログラムの3つを指揮するソヒエフ (C)Marco Borggreve

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〈東京都交響楽団 定期演奏会 第992回B&第993回Aシリーズ〉

1月18日(木)サントリーホール(第992回B)/1月19日(金)東京文化会館(第993回A)

ジョン・アダムズ:「アイ・スティル・ダンス」(日本初演)、「アブソリュート・ジェスト」、「ハルモニーレーレ」

ジョン・アダムズ(指揮)/エスメ弦楽四重奏団

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~ソヒエフ×N響&ジョン・アダムズ×都響、古典と新作の響宴(きょうえん)~

ウィーン・フィルの来日公演(11/12)で、幾重もの旋律を歌わせて雄弁なR・シュトラウスを聴かせたソヒエフが1年ぶりにN響に登場する。トップ奏者の郷古、村上によるモーツァルト、ベートーヴェンという古典にどんな新風を吹き込むのか注目だ。都響では現代を代表する作曲家ジョン・アダムズが最新作から代表作まで自らの指揮で披露する。作曲家自身による日本初演という貴重な機会を通して、新たな音楽の扉を開いてみたい。

先月のピカイチ

◆◆11月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 日本公演〉

11月3日(金)ミューザ川崎シンフォニーホール

ファビオ・ルイージ(指揮)

ビゼー:交響曲第1番/ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」

4年ぶりに来日したロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (C)N. Ikegami
4年ぶりに来日したロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (C)N. Ikegami

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〈ウィリアム・クリスティ指揮 レザール・フロリサン「ヨハネ受難曲」〉

11月26日(日)東京オペラシティ コンサートホール

バスティアン・ライモンディ(テノール)/アレックス・ローゼン(バス)/レイチェル・レドモンド(ソプラノ)/ヘレン・チャールストン(メゾ・ソプラノ)/モーリッツ・カレンベルク(テノール)/マチュー・ワレンジク(バス)

J・S・バッハ:「ヨハネ受難曲」

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~コンセルトヘボウ管、特有のサウンドで魅了~

11月は海外オケの来日ラッシュでベルリン、ウィーンの両フィルの凄演も捨てがたかったが、最も心動かされたのはルイージ指揮コンセルトヘボウ管だった。ビロードの手触りのようなきめ細やかなサウンドはこのオケならではの素晴らしさ。新世界であれほど引き込まれるとは思わなかった。次点はクリスティの「ヨハネ受難曲」。深みと鮮烈さを兼備した表現に2時間の大曲がアッという間に感じられた。

来月のイチオシ

◆◆2024年1月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈トッパンホール ニューイヤーコンサート2024〉

2024年1月21日(日)トッパンホール

日下紗矢子(ヴァイオリン)/ペーター・ブルンズ(チェロ)/フローリアン・ウーリヒ(ピアノ)

メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番/シューマン:子供の情景/シュルホフ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲/ブラームス:ピアノ三重奏曲第1番

トッパンホールの新年の幕開けを本格派ドイツ・プログラムで飾る日下(左)、ブルンズ(中)、ウーリヒら (C) Akira Muto(日下)/(C) Marco Borggreve(ウーリヒ)
トッパンホールの新年の幕開けを本格派ドイツ・プログラムで飾る日下(左)、ブルンズ(中)、ウーリヒら (C) Akira Muto(日下)/(C) Marco Borggreve(ウーリヒ)

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〈大阪フィルハーモニー交響楽団 第56回東京定期演奏会〉

1月22(月)サントリーホール

尾高忠明(指揮)

武満徹:オーケストラのための「波の盆」/ブルックナー:交響曲第6番(ノヴァーク版)

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~確かな奏法&解釈に裏打ちされた〝いま〟を聴く~

ベルリン・コンツェルトハウス管と読響のコンマスとして活躍する傍らアンサンブルにも熱心に取り組む日下が、信頼する仲間とともにトリオを組みロマン派中心の演目を披露する。バロックから現代まで多用な奏法に精通する3人による最先端の演奏が期待される。次点は尾高音楽監督の下、進化を続ける大阪フィル。尾高得意のブルックナーで一層の充実ぶりが示されるに違いない。

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