大野が都響の音楽監督として臨んだ最後の定期――レアなプログラムで、大いなる感銘を与える
3月の都響定期演奏会Aシリーズ。音楽監督・大野和士の指揮で、アンドレ・プレヴィンの「春遠からじ」(日本初演)、ドビュッシーの管弦楽のための「映像」より〝春のロンド〟、ブリテン没後50周年記念の「春の交響曲」(ソプラノ:砂川涼子、メゾソプラノ:山下裕賀、テノール:駒形貴之、合唱:新国立劇場合唱団、児童合唱:東京少年少女合唱隊)が披露された。
これは大野が音楽監督として臨む最後の都響定期で、しかも本日は彼の誕生日との由。さらに「春の交響曲」は、コロナ禍で2020年、22年と延期を重ね、遂に上演が実現するという。すなわち大野の思いが存分にこもった公演だ。そして同時に、暖かき日の到来と出立や新たな始まりを祝うコンサートであることが見て取れる。
それにしても、チャレンジ可能な定期演奏会とはいえ、相当レアなプログラミング。とかく有名曲に傾きがちな今、このプロで公演を行う点をまずは大いに評価したい。
最初のプレヴィン作品は、2016年作とは思えぬほど明快で、どこか映画音楽風でもある。演奏も冒頭から活気があり、テクニカルな動きも鮮やかだ。次のドビュッシーも、精緻な造作と活力のあるサウンドで、春の胎動が描かれる。ここでふと思う。何れも木管をはじめとする管楽器のソロが活躍しながら、都響自慢の弦楽陣と絶妙に融合していく演奏だ。これに声楽が加わるのが後半=「春」以外の意味でも前後半が一貫したプロではないか?と……。
ブリテンを聴いて考えは的中したとの思いしきり。「春の交響曲」は明らかに声楽が主役なのだが、今回は管楽器のソロを筆頭にしたオーケストラの動きが際立ち、全員が好演の声楽陣と巧みに絡み合いながら、豊潤な音楽を醸成していく。
第1部は神秘的に始まり、途中のトランペットが光を放つ。第3曲の独唱陣の鳥の声や第4曲の児童合唱も瑞々しく、第2部第6曲の山下、第7曲の駒形の独唱も表情豊か。第7曲では細やかなヴァイオリンも効果をあげる。第8曲は、前半のフルートとバス・クラリネットが耳を奪い、続く合唱もインパクト十分。第3部第9曲のテノールとハープ、第10曲のソプラノとオーボエ、第11曲の合唱陣も印象を深め、第4部第12曲では全員による迫真的な音楽が胸を打つ。
1月読響のプフィッツナー「ドイツ精神について」の時と同様に、レアな作品でも共感と誠意を持って奏でれば、聴く者に感銘を与え得ることを実証した快演。
(柴田克彦)
公演データ
東京都交響楽団 第1038回 定期演奏会Aシリーズ
3月4日(水)19:00東京文化会館 大ホール
指揮:大野和士
ソプラノ:砂川涼子*
メゾソプラノ:山下裕賀*
テノール:駒形貴之*
合唱:新国立劇場合唱団*
児童合唱:東京少年少女合唱隊*
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:山本友重
プログラム
アンドレ・プレヴィン:春遠からじ(2016)[日本初演]
ドビュッシー:管弦楽のための「映像」より〝春のロンド〟
ブリテン:春の交響曲 Op.44*
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。










