HIMARIが出色の演奏! 久石譲は「悲愴」で〝インテンポの美学〟を存分に発揮
2月の新日本フィル「すみだクラシックへの扉」。久石譲の指揮で、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番(独奏:HIMARI)と、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」が披露された。
「悲愴」の前に重い作品が置かれると、公演全体がヘヴィになり過ぎる嫌いがあるのだが、同じロシア物で〝軽み〟のあるプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲は適切な組み合わせだし、第2番ならば第1番に比べて長さ的にもフィットする。まずはこの巧妙なプログラミングに感心させられた。
前半の協奏曲は、明確でセンスの良いHIMARIのソロと、クリアかつデリケートなバックのバランスが絶妙な好演。HIMARIは、芳醇(ほうじゅん)な音で表情豊かな独奏を伸びやかに聴かせ、仄(ほの)かな民族色とプロコフィエフらしい軽妙さやアイロニー等の各種要素を的確に表出する。速い動きが連続する場面も鮮やかだ。関係者に聞いた話では、現在学ぶカーティス音楽院の先生にこの曲を勧められ、このところ重点的に取り上げているとの由。そうした教師の慧(けい)眼と自身の進化を反映した今回のソロは、これまで聞いた彼女の演奏の中でも出色で、〝天才少女〟から〝大人の音楽家〟へと移る曙(しょ)光を感じさせた。アンコールのクライスラー「レチタティーヴォとスケルツォ・カプリース」も極めて鮮烈。
後半の「悲愴」では、久石ならではの〝インテンポの美学〟が存分に発揮された。大仰なタメや歌い回しを排して、曲の持つダイナミズムをストレートに表現するアプローチは、録音でも好評のベートーヴェンやブラームスと同じ方向性。「悲愴」感を殊更強調せずに「チャイコフスキーの交響曲第6番」を聴かせたといえるだろう。中でも、「2+3拍子」よりも「1+1.5拍」を体感させる運びで軽快さと微妙な不安定感を共生させた第2楽章や、通常よりも強く明瞭に表現された終楽章最後の低弦等は、とりわけ新鮮だった。
アンコールはハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」の〝ワルツ〟。「悲愴」の後のアンコールは難しさもあるのだが、本編が前記のような表現だった今回は、動的に弾むこの曲も違和感がまるでなく、〝午後の爽やかな演奏会〟といった小気味良い後味を残した。
(柴田克彦)
公演データ
新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉 #36
2月27日(金)14:00すみだトリフォニーホール 大ホール
指揮:久石 譲
ヴァイオリン:HIMARI
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔 文洙
プログラム
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲 第2番 ト短調Op.63
チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調Op.74「悲愴」
ソリスト・アンコール
クライスラー:レチタティーヴォとスケルツォ・カプリースOp.6
アンコール
ハチャトゥリアン:組曲「仮面舞踏会」より〝ワルツ〟
他日公演
2月28日(土)14:00すみだトリフォニーホール 大ホール
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。










